第33話 デュラハンとその事情 その3

 どうやら、アドパークに出没するデュラハンは強力な個体である事がわかった。

 そして、解散してしまったらしいドラゴンアックスだが、その前衛を努めていた槍使いの戦士がまだここに滞在している話も聞けた。


「聞き込みに行ってみよう」


「はいです!」


「わたくしはここで、ブランちゃんをモフモフしていますのでご安心ください……」


 何が安心なんだろう?

 アリサがブランにくっついて離れないので、彼女はここに置いておくことにした。


 Sランク司祭とSSランクモンスターだもんな。

 間違っても何か起こる、なんてことはありえないし。


「じゃあ行ってきます」


「ごゆっくりー」


『わふーん』


 おっ、ブランからご意見が飛んできた。

 早く僕以外のモフモフをテイムしろ、このままでは毛を全部モフられてしまう、だって。

 さすがのマーナガルムも、モフモフ大好きな女性は苦手なのかも知れない。


「なんなのです?」


「ブランがね、仲間を増やしてくれって」


「新しい動物が増えるですか! それはクルミも嬉しいですねえ」


 素直にニコニコするクルミ。

 とてもかわいい。


 さあ、それでは槍使いが泊まっているという宿を直撃だ。

 宿の主人に尋ねて、モフライダーズのパーティ証を見せた。

 すると、簡単に部屋まで案内をしてくれた。


 槍使いの戦士は、昼だと言うのに宿に閉じこもっているらしい。

 扉をノックすると、何が唸り声のようなものが聞こえた。


 ここは安めの宿なので、部屋には鍵が存在しない。

 ということで、扉を開けてみる。


「な……なんらおめえらはあ」


 赤ら顔をした長身の男が、舌っ足らずな口調で言った。

 酔っ払っている。


「俺はオース。この顔に見覚えはないかな? デュラハンについての情報を聞きにきたのだが」


「オースゥ……? そんなの、知らね……オース……オース……。あっ、ショーナウン・ウインドのオース……?」


「正確には違う。すでにあのパーティはやめたからね。俺はモフライダーズのオースだ」


 槍使いの顔からスーッと酔いが引いていき、真顔になった。


「な、なんでSランク冒険者がここに?」


「君達ドラゴンアックスが、デュラハンにやられたと聞いてね。俺が代わりに退治するためやって来たんだ」


「Sランクが出てくるような案件かよ……。ギルドめ、なんて依頼をやらせるんだ。……でもあんた、確かもとはパーティの雑用係だったんじゃ?」


 これにはクルミが怒る。


「センセエはすごいですよ! 本当につよいのはセンセエです! Sランクもセンセエだけです!」


「お、おう」


 彼女の気迫に押しまくられる槍使い。


「ということで、話を聞かせてほしいんだ。食事を奢るからさ」


 俺は彼を部屋から連れ出し、一階の食堂までやって来た。

 簡単な料理を頼むと、作りおきのシチューが出てきた。

 ちょっと奮発して、骨付き肉を焼いてくれるように頼む。


 宿の子供らしいのが、外に走っていった。

 肉を買いに行ったな。


「じゃあ、デュラハンについて何でも話してくれ。戦ってみた印象。動き、特徴、口走ってたこととか」


「ああ。俺なんぞの話でよければな。ええと、あれは……」


 槍使いの戦士は、カイルと言った。

 彼は素直に、デュラハンの話をしてくれる。


 まず、デュラハンは強かったこと。剣の腕もさることながら、戦いながら死の呪いを後衛に叩き込んだり、同時に動き回る首なし馬も脅威だったと。

 次に、デュラハンは魔術師なる者への恨み言を吐き続けていたこと。それが恐らく、デュラハンや呪いのモンスターを呼び出した黒幕だろう。


 そしてここが重要だ。

 デュラハンの死の呪いを受けても、後衛三名は即死しなかったこと。


「ふむふむなるほど。俺が戦う時は対策をして行ったから、死の呪いは受けたことがないものな……」


「対策!?」


 カイルが目を剥いた。


「あんなもんに対策があるのかよ!」


「あるよ」


 俺が断言すると、彼は絶句した。


「デュラハンの死の呪いは、カトブレパスのものとはだいぶ違う。カトブレパスは、死を直接叩きつけてくるもの。それに対してデュラハンは、相手の心臓を凍りつかせるという呪いだ。呪いというよりはそう言う効果の魔法に近い。つまり、凍らせないようにだけすれば防げるのさ」


「凍りつかせる……!?」


「デュラハンは、氷の精霊王ストリボーグの使いだからね。一見して氷に関係してないように見えるから、勘違いしやすいんだ。あれは精霊だよ。実体を持つ強力な精霊だ。だからこそ、氷という属性に強く縛られている。つまり、炎で対策すれば勝てる」


「そ、そんな……。そんな簡単なものだったのか……?」


「もちろん簡単じゃない。だが、強力なモンスターには必ず弱点が備わっているものなんだ。強さを支える特殊な力があるほど、それが即ち弱点へと直結する。恐らくデュラハンは、多数に同時に呪いをかけるとその効果を減衰するのだろうね。なら、備えも万全でなくて大丈夫そうだ。そして強さだけど、これは俺が相手をする」


「あんたが……?」


「ああ。一応、君が戦ったものほどじゃないけど、デュラハンは今まで二回倒してる。それに今回は助けてくれる仲間もいるからね」


「クルミがいるですよ!!」


 クルミが自信ありげに、胸をどーんと叩いた。

 そしてむせる。


「うん、頼りにしてるよクルミ」


 カイルの目が、真剣なものになる。

 じーっと俺を見ている。

 なんだろう。


「た、頼む! いや、頼みます!!」


 いきなり彼が、テーブルに手をついて頭を下げた。


「何事?」


「お、俺を一緒に連れてってくれ!! いや、俺をパーティに入れてくれ! ガンスの仇を討ちてえんだ!!」


 ガンスというのが、ドラゴンアックスを率いていた盾使いの戦士だ。

 どうやら彼とガンスは、固い友情で結ばれていたらしいな。

 だが、一人ではデュラハンに対抗できず、宿で酒浸りになって悶々としていたのだろう。


「ふむ」


 カイルを見る。

 目つきは真剣そのもの。

 全身が力みで、ぶるぶる震えている。


「よし、分かった。首なし馬を君に任せる。あれはデュラハンとセットだから恐ろしいモンスターのように思われるかもしれないが、実は下位の精霊に過ぎない。あれを足止めし、なんなら仕留めてしまってくれ。デュラハンの移動力を削ぐことになるからね」


「わ、分かった! 任せてくれ!!」


 カイルの顔がパッと輝いたようだった。

 彼は二階の部屋まで駆け上がっていくと、布で巻かれた槍と旅道具を抱えて戻ってきた。


 ほう、長い槍じゃなく、刺突と斬撃メインのコルセスカ使いか。

 コルセスカは、刃のようになった穂先に、翼のようなパーツがついた槍だ。

 刺す力は通常の槍より弱いが、切る、払う、引っ掛けるという動作を広くとることができる。


 他に、サブ武器でショートスピアを持っているようだ。


「さあ準備はできた! すぐに行こうぜ、オースさん!」


 鼻息も荒いカイル。

 だが、ちょっと待って欲しい。

 今、骨付き肉を抱えた子供が戻ってきたばかりではないか。


「腹ごしらえをしよう。デュラハン退治はそれからでも遅くはないよ」


 俺はカイルを席につかせた。


「何せ、相手は夜に出てくる」


 夜まではまだ長いのだ。

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