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第31話 デュラハンとその事情 その1
「いやですわいやですわ!! わたくしは残るのはいやですわーっ!!」
アリサがブランにしがみついていやいやする。
それを見て、教会の司教が心底困り果てた顔をした。
「なあ、オースさん。なんとかならんかな」
司教は、髪もヒゲも真っ白なおじいさんだ。
先ごろ、アドポリスで発生するようになった失踪事件と、被害者がレブナントになるアンデッド事件解決のため、しばらくアリサを貸してくれというのである。
仲間になったばかりで離れるのは寂しいが、これも街のためだしなあ。
──なんて思っていたら、本人がめちゃくちゃにいやがっている。
「アリサ、だめです! お仕事おねがいされてるですから、ちゃんとやるですー!」
クルミがアリサのお尻を抱えて引っ張っている。
「あーん! 後生ですクルミさん! わたくし、大教会からようやく出てこられたのですわー! このまま教会で仕事をしてたら、また大教会に戻らなくちゃいけなくなりますっ!! それにこのっ、モフモフ、ふかふかのブランちゃんと」
くるっと振り返ったアリサが、クルミをぎゅっと抱きしめた。
「ひやー」
「ふわふわ尻尾のクルミさんとお別れするのはいやなのですーっ!! ああ、モフモフ……モフモフこそ正義……。わたくしの地位も栄誉も全て投げ売っても構わない……。これからモフモフが増えるかも知れないのでしょう? だったらわたくしがいるべき場所は、オースさんのパーティです……!!」
おお、アリサの目に闘志の炎が燃えている。
「それはそうとクルミを放してやってくれないかな」
「ひやー」
「ほら。尻尾ごとさわさわしながら抱きしめるのは彼女には刺激が強い。ゼロ族の習性としてはね……」
俺がウンチクを語り始めたら、アリサがむくれた。
「クルミさんは人質です!! わたくしを! 教会から! 解放してくださいまし!!」
俺はじっと司祭を見た。
「どうも無理みたいです」
「ああ、だめかあ……。大教会も、なんてエキセントリックな司祭を送ってくるんだ……。あそこ直属の司祭は独自の権限を持っているから、私ら地方の司教では命令ができんのだよ……。まあ、初めから来なかったものと考えてあきらめるか……」
がっくり肩を落とし、司教が去っていった。
「あの、司教様! この仕事が終わったら俺達、モフライダーズ全員で手伝いますよ!」
「なにっ、本当かね!?」
「ええ。その代わりと言ってはなんですが……」
「教会の蔵書を読みたいのだね……? 君も交渉上手だなあ」
「いや、催促したようで申し訳ない」
「催促してるじゃないか……」
ひとまず、事態は解決した。
俺達はこれから、デュラハン退治に旅立とうというところである。
それと言うのも、しばらくアドポリスに留まってレブナント研究をしていた俺に、ギルドから直々に依頼が来たからだ。
ここからは、昨日の話になる。
「オースさん、いいですか?」
受付嬢が俺に声を掛けてきた。
酒場の一角を利用して、レブナントの結晶に水を掛けたり、アルコール漬けにしたりしていたのが咎められるのだろうか。
とりあえず、アルコールでレブナント結晶の輝きがかなり減衰するのは面白いな。今度試してみよう。
「オースさん、酒場を実験室みたいに使うのはこの際目をつぶりますから、お仕事の依頼を聞いてください!」
「はい」
聞かないと追い出されかねない空気を感じたので、俺は彼女に向き直った。
「オースさんのお陰で、コカトリス討伐依頼はあちこちで片付き始めています。オースさんが考案したやり方は、オース・メソッドとして若い冒険者の人達に広まったようですから」
「それは良かった。対処方法さえ分かれば、コカトリス退治は簡単だからね」
俺は微笑んだ。
「はい。そちらはギルドも感謝しています。何しろこの、呪いのモンスター大量発生に当たり、少なからぬ犠牲者が出ていますから。ギルドも冒険者から批判を受けています」
「それはそうだろうね。本来ならば、依頼を受けられる基準パーティランクを下げるべきじゃなかった。それじゃあ、手が回らなかったのも確かだろうけど」
「はい……。それで、デュラハン依頼だけはBランク以上としていたんです。ほら、オースさんがショーナウン・ウインド時代にBランクでデュラハンを倒したでしょう」
「うん。一人でやるのは大変だった」
「一人で……!?」
受付嬢が目を剥いた。
周囲の冒険者達も、飲んでいた酒を吹き出す。
「そ、そ、それはともかく! 今のデュラハン依頼は、Aランクパーティのドラゴンアックスが受けていたのですが……」
「ドラゴンアックスか。彼らはベテランだし、強いよね」
「はい。ですが、そのリーダーである戦士ガンスがデュラハンの死の呪いを受けて亡くなりました。パーティは機能不全に陥っているということです」
「ええ……。彼らほどのパーティなら、並のデュラハンは討伐できそうなものだけど。ああ、いや、常に不測の事態というものはある。今回は彼らがしくじったのか、それとも……」
「はい。デュラハンが強かったんです。恐らく、かなり強力な個体が暴れまわっているものと思われます。オースさん、危険を承知でお願いします。デュラハンの討伐を……」
「よし、引き受けた」
そういうことになったわけだ。
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