幕間 デュラハン出現

 アンデッドと同一視される事が多いが、デュラハンは精霊の一種である。

 氷の精霊王ストリボーグに従う、強力な精霊だ。


 それがアドポリス周辺に現れたのだから騒ぎになった。


『おおおっ……! 憎い……憎い……!!』


 デュラハンは、首なし馬を駆って怨嗟えんさの声を上げ続ける。


『我を縛り付ける魔法が! 我を走らせる呪縛が! 許さぬ! 許さぬぞ魔術師ィィィィ!!』


 首なし馬が引く戦車チャリオットの上で、首なし騎士は吠えた。

 全身から紫色のオーラが広がる。


「こ、こええ……!!」


 デュラハン討伐を受けていたのは、Aランクパーティ。

 彼らも、この鬼気迫る首なし騎士の姿に恐怖を感じずにはいられなかった。


 小脇に抱えられたデュラハンの首は、兜に覆われている。

 この目元を覆う面頬めんほおのパーツが上がると、死の呪いを与えるデュラハンの力が発揮されることになる。


 デュラハンに死を宣告された者は、心臓を凍りつかされて死ぬというのだ。


『邪魔をするか人間! ああ、憎い! 憎い! 魔術師が憎い!! おのれ! おのれェェェ!!』


「くっそ、止まれデュラハン!!」


 大きな盾を持った戦士が立ちふさがる。

 タンクと呼ばれる役割の、敵を食い止める戦士だ。

 Aランクゆえ、その実力は折り紙付き。


 戦士としての才能を持つがゆえ、人間の限界を超えた身体能力も発揮できる。


 戦士と首なし馬が衝突した。


「ぬおおお!!」


 首なし馬を食い止める盾の戦士。

 その脇から、槍を持った戦士が駆け出した。


「覚悟しろデュラハン!」


 彼の槍は魔法の武器だ。

 それが振り回され、首なし騎士を狙う。


 だが、その一撃は食い止められる。

 デュラハンが手綱を手放し、剣を抜いていたのだ。


『笑止』


 一言とともに、槍が跳ね除けられる。

 そして、デュラハンの巨体が宙を舞った。

 騎乗用の全身鎧スーツアーマーに身を包み、軽々とジャンプするなど人間にできる所業ではない。


 着地と同時に、デュラハンは槍持ちの戦士に向かって剣を振った。


「くおおっ!!」


 これをどうにか槍でいなし、後退してから突き込みを行おうとする戦士。

 無理な体勢からの突きは甘くなる。

 デュラハンはこれを鎧の胸板で、掠めるように受けた。


「サンダーブリット!!」


 それを側面から、魔法で攻撃する魔法使い。


「行け、炎の精霊ヴルカン!!」


 炎の小人を行使する、エルフの精霊使い。


「神よ、聖なる裁きを! 衝撃フォース!」


 神聖魔法による射撃。

 これが同時に、デュラハンを打った。


 傾ぐ首なし騎士。 

 だが倒れない。

 効いていないのではない。


 並外れてタフなのだ。


『魔術師ィィィィ!!』


 首なし騎士の片手が、抱えていた首を持ち上げた。

 その面頬は既に持ち上がっている。


『汝らに死を与える』


「くおっ」


「うっ」


「うあっ」


 胸を押さえながら、魔法使い、精霊使い、僧侶が倒れる。


「まずいっ!! 退却、退却!!」


 盾持ちの戦士が叫んだ。

 槍持ちが後退する。


 横合いから盗賊が飛び出してきて、魔法使いを抱えた。

 槍持ちも精霊使いを担ぎ、僧侶はどうにか自らの足で。


「くっ……! お、俺がしんがりをする! みんな、逃げろーっ!! このデュラハン、強い……!!」


 Aランクたる彼らがデュラハンと戦ったことが無いわけではない。

 それらは言わば、精霊王ストリボーグの加護から外れた、はぐれデュラハンであった。


 Sランクモンスターたるデュラハンは強い。

 だが、絶望的に倒せないような強さではなかった。


 かつてはデュラハンを、この六人の連携で一度撃退してはいるのだ。


「しかし……!!」


 盾持ちの戦士は、強く盾を蹴られて後退した。

 デュラハンの力は、並ではない。


 首なし馬から降りたほうが強いとはどういうことだ。


 それにこいつは、あの槍持ちの攻撃を捌きながら魔法使い達を一蹴した。

 明らかに戦い慣れている。


「くおおっ、隙が……逃げる隙が無いっ……!!」


『許さん……許さんぞ魔術師めがァァァァァッ!! 必ずやこの呪縛を解き! 貴様を八つ裂きにしてくれるわァァァァァッ!!』


 ついに盾は真っ向から砕かれる。

 振り下ろされたデュラハンの剣は、魔法が掛けられた堅固な盾ですらも破壊してみせたのだ。


「も……もうだめだ」


 戦士は絶望を感じながらも、腰から剣を抜く。


「みんな、生き残ってくれよ……!!」


 決意を固めて、戦士はデュラハン目掛けて剣を振るった。


 それを、差し出した己の首で受け止めるデュラハン。


「あ……」


『汝に死を与える』


 戦士の心臓が凍りついた。

 力なく崩れ落ちる戦士。


 首なし騎士は怒りの叫びを上げると、再び戦車に飛び乗った。

 首なしの馬が、高らかにいななく。


 デュラハンを止める者は、いない。


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