第26話 新しい同行者 その1

 アドポリスへと帰還途中の俺達だったが、途中の村で運よく、巡礼中の司祭に会うことができた。


 死者を蘇生させる事は、神に仕える僧侶にしかできない。

 その中でも、巡礼を許される司祭は自衛できるだけの戦闘力と、神から賜った神聖魔法を行使できるのだ。


 その人は、俺よりいくらか年下くらいの女性だった。

 豊かな栗色の髪をふんわりと流しており、青いゆったりとした法衣を下から押し上げる、豊かな胸元が印象的な美人さんだ。


「むむっ」


 クルミが警戒する。

 何を警戒しているんだろう。


「蘇生ですか。拝見しますね──なるほど」


 彼女はBランクパーティの面々を見て、頷いた。


「ほとんどの方の魂は、既に現世を離れてしまっています。ですが、こちらの盗賊の女性は辛うじて。遺体の保存状態が良かったからかも知れませんし、現世に未練があったのでしょうね」


「そ、そうなのか! 実は俺と彼女は恋人同士で……」


「なるほど、あなたが心配だったのですね」


 司祭の女性はにっこりと笑った。

 彼女は、ラグナ新教の司祭。

 天から降り立ったという神の力を受けて、魔法とは違う神聖魔法を使える。


 その中に、死んで間もない者を蘇生するというものがあった。

 俺達冒険者が利用するのはもっぱらこれ。


 もっとも、使わないに越したことはないんだけど。

 それに、結構高額な費用を請求されるしね。


 儀式は滞りなく行われ、戦士の恋人である盗賊は蘇った。

 しばらくは意識が混濁しているらしいので、数日間付きそう必要があるらしい。


「オースさん、司祭様、それからクルミちゃん。俺はここに残ります」


 戦士は、盗賊が動けるようになるまでは村で一緒にいることにしたようだ。

 仲間達もここで埋葬していくらしい。


「それからオースさん。蘇生費用立て替えてくれてありがとうございます。必ずお返ししますから」


「出世払いでいいよ」


 俺は笑って答えた。

 計算ずくじゃないけど、こうして人に親切にしておけば、いつか自分に返ってくるものだ。もちろん、親切にする相手は選ばなければならないけれど。


「カトブレパスの呪いにやられたと伺いました。よくぞ、あれだけの人数を連れ帰ったものですね」


 女司祭は感心した様子だった。


「いや、彼らのパーティと俺のパーティは別なんです。俺は、クルミとブランの三人なので」


「はいです! クルミです!」


『わふん』


「あらあら」


 女司祭が目を細めた。

 なんだか、クルミとブランを見る目がきらきら輝いているように見える。

 さてはモフモフ好きであろうか。


 間違いあるまい。

 俺は同好の士がなんとなく分かるのだ。


「そ、そこのワンちゃん、ちょっとモフモフさせてもらってもいいですか……?」


 さっきまでの落ち着いた様子とは打って変わり、鼻息も荒くにじり寄る女司祭。


『わふふん』


「それは構わないが、私をモフモフしたいならば名乗り給え……って言ってるね」


「犬の言葉が分かるんですか!?」


「俺は一応、モンスターテイマーなんで。モフモフモンスター専門ですけど」


「それはそれは……レアなクラスじゃないですか。ラグナの神は人々に天禀を定め給う。選ばれし者に、選ばれしクラスを。レアなクラスを得た方は、成さねばならぬ運命があると言われております。あ、わたくし、アリサと申します」


 ラグナ新教の司祭、アリサは優雅に一礼した。

 そして、すぐさまブランに駆け寄った。素早い。


「ああ~。教会にいますと、こういうモフモフとした愛らしい方々を愛でる機会が全くないのです……。わたくし、レアなクラスである司祭の天禀を持っているが故に、幼い頃から教会に仕えて力を磨いて参りました。ですが……ですが、モフモフ絶ちはあまりにも辛かった……。あ、クルミさん。尻尾を……その素晴らしいモフモフの尻尾を愛でてもよろしいでしょうか……!」


 アリサの変貌を呆然と見ていたクルミ。

 尻尾モフモフを所望され、少し考えた。


「男の人はセンセエしか触ったらだめですけど、アリサは女の人です?」


「そうですよ~」


「じゃあかまわないです!」


 クルミがふわふわとした大きなリスの尻尾を振った。


「ああ~」


 アリサが今にも昇天しそうな顔になった。


「司祭がモフモフし過ぎて昇天したんじゃ洒落にもならないな」


 俺は思わず笑うのだった。

 そして、アリサはあろうことか、俺達に同行を申し出た。


「わたくし、これからアドポリスへ向かうのです。何やら呪いを解呪できる人材を探しているという話を伺いましたので。呪術師ほどではございませんが、わたくしも神聖魔法を行使する司祭。時間を掛ければ呪いを解くことができます」


「ああ、それはショーナウンの話だね。アリサのところまで届いていたんだ?」


「もしや、お知り合いで? そして、既に解呪は成されてしまっているとか……?」


「石化の呪いです! センセエがときました!」


 自慢げにクルミが言うと、アリサはがっくりと肩を落とした。


「ええっ、あなたが解いてしまわれたのですか!? な、なんという余計な……いえ、なんということでしょう。極上のモフモフと同行する大義名分が無くなってしまいました……。仮にも司祭であるわたくしが、欲望のままにモフモフと同行するなどできようはずもございません……」


 あまりにもしょんぼりしているので、かわいそうに思えてきた。

 俺は助け舟を出すことにする。


「では、巡礼のための護衛として俺達を雇った……みたいな形にするのは?」


「おお!」


 アリサがポンと手を打つ。


「それは妙案です。皆様にもメリットがございますものね。ではそれを採用しましょう!!」


 アイデアが即採用された。

 よっぽど、モフモフと一緒にいたかったんだなあ。


 こうして、モフ・ライダーズに四人目の仲間が加わったのだった。


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