第27話 新しい同行者 その2
道すがら、司祭のアリサと話をすることになった。
俺の興味と言えば、司祭ならではの知識などなど。
知識は幾らあっても困らない。どこかでそれが役立つ時が来るかも知れないからだ。
「そもそも、神聖魔法と普通の魔法はどう違うんだい?」
「それはですねえー」
ブランの背中にしがみつくように乗ったアリサが、間延びした声で答えた。
俺はその横を歩いている。
「魔法には、普通の魔法と精霊魔法があるのはご存知ですか?」
「もちろん。この大陸では精霊魔法はレアだけどね。あれってエルフの魔法だろ?」
「はい。あるいは精霊と親しい精霊の民が使う魔法です。実は、この魔法が普通の魔法の素になっていて、より強力なのです。そして神聖魔法はよその大陸ではどうか知りませんが、ここでは魔法や精霊魔法とは、全く違ったものなのです」
「へえー……。だから死者の蘇生なんて凄まじい事ができるんだ」
「はい。教主様が直々に説明して下さったことがあるのですが、難しすぎて全然分かりませんでした。なんとなーく、空の上に神様が浮かんでて、この大陸全体にナノマシン?とかいう目に見えない小さい天使を遣わしていて、それを利用して、肉体の
アリサの物言いが曖昧になって来た。
俺もよくわからないな。
だけど、本当に全くの別物らしいことは分かった。
司祭がレア職なはずだ。
ちなみにこれはラグナ新教の機密に関することだと俺は思うんだけど、モフモフに抱きついたアリサはすっかりとろけてしまっていて、大変ガードが甘くなっている。
ちなみに彼女、独自に護衛を雇っていたのだが、俺達と同行するためにさっきの村で護衛とは分かれたのだ。
「むー。なんでセンセエが歩いてるですかー」
頬を膨らませてぶうぶう言っているクルミ。
彼女はアリサの前に乗っている。
この女司祭たっての願いである。
尻尾がモフモフしてるからな。
「三人も乗ったら、ブランの上が狭くなっちゃうだろ? 人が増えたし、そろそろブランに引いてもらう馬車……ならぬ犬車も考えなくちゃいけないかもな。あ、それからアリサがいるならお願いしたいことがあるんだけど」
「なんでしょうか?」
「実は教会が所有している本に興味があってさ。教会の僧兵はアンデッドキラーとしても有名だろ? 本にアンデッドへの対処法が記されてるんじゃないかなと思って」
「それは秘匿事項ですのでお貸しすることはできませんねえ」
「やっぱりか」
ちょっとがっくりする俺。
俺の実家は没落した元貴族だった。
古びて痛み、売り物にならない本だけが山程あり、これを読んで育ったのだ。
だが、まだまだ本に書かれていないことが世の中にはたくさんあると実感する。
新たな知識を得て、実践していかねば。
教会はだめか。
どうにかならないかな。
「ですが、方法が一つあります」
「おお、それは一体?」
「一定額の寄付をなされば、ちょっとわがままを聞いてくれますよ」
「教会もお金なんだな」
「寄付がないとわたくしどもは、明日のパンにも困ってしまいますからね」
幸い、カトブレパスを解体したものが後ろのソリに積んである。
これを換金すれば結構なお金になるはずで、十分な寄付は可能だ。
「よし、それじゃあ寄付をするのでよろしく……!」
「毎度ありがとうございます」
クルミの尻尾をモフモフしながら、アリサがお礼を言ってきた。
「センセエ、アンデッドってなんですか?」
クルミからの質問が来る。
そうか、まだ会ったこと無かったよな。
「アンデッドはね、死体が動くモンスターだよ。死んだはずの者が、人を襲う怪物になって蘇る。おそろしくタフで、生前では考えられなかった特殊な力を振るったりするんだ。凶暴で、生前の憎しみに支配されているパターンがほとんどだね」
「ひゃあー! コワイです!」
クルミが震え上がった。
「わたくし、アンデッドに関してはやっぱり教主様からご講義いただいたのですが、完全に中身を忘れてしまいました」
なんてもったいない事をするんだ。
しかし、教主とはラグナ新教の頂点に位置する人物のはずだ。
そんな人から直々に講義を受けられるとは、アリサはかなり優秀な司祭らしいな。
「センセエは、アンデッドのことは知らないですか?」
「うん。彼らについての知識は教会が持っていてね。今までツテがなくて、知識を手に入れられなかったんだ。冒険の中で出会ったアンデッドは、教会で購入した聖水で撃退していたな……ハッ、まさか」
俺が横を見ると、アリサがニヤリと笑った。
「毎度ありがとうございます」
「対アンデッド用のアイテムを売る商売のため……!!」
なんてことだ。
世界の真実を一つ知ってしまった。
この真実は知りたくなかったな……!
だが、そうと分かれば話が早い。
人前で実践すると教会に命を狙われるタイプの知識ということだな。
そういう禁断の知識はちょっと……いや凄く欲しくなる。
「アリサ、寄付金の額はいくらだい?」
「やる気なんですか? オースさんも好きですねえ」
「センセエ、お勉強してまた賢くなるですか? すごいです!」
『わふん』
最後にブランが一声鳴いた。
君がそういう性格だったとはなあ、だって。
人も増えて余裕が出来てきたからね。そろそろ自分の趣味も再開しようと思っているのだ。
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