第16話 陰謀とコカトリス その1

 とりあえず、初歩的な仕事をしまくった。


 薬草採取、迷子の猫探し、どぶの掃除に、畑の手伝い……。

 俺がEランクだった頃は、こういう仕事してたなあ。


 ショーナウン達にスカウトされたは良かったが、俺のランクがBにならないと彼らと組めない。

 そんな訳で、様々なパーティの助っ人に入っては冒険に同行したものだ。


 そして、パーティで足りない役目を担当し、さらにパーティメンバーから技術を教わった。

 俺はもともと、ちょっと器用だったようで、様々なクラスの技術を覚えることができた。


 ついにBランクになり、ショーナウンのパーティに加わったのだが……。

 まあ、そこから先はご存知のとおりだ。


「センセエ! 薬草いっぱいとれました!!」


「おお、偉いぞクルミ! っていうか、クルミは薬草採取とか木の実採集が本当に上手いなあ。俺よりも早い」


「えへへ。だって、クルミはゼロ族ですから。いつもご飯をあつめるときにやってるのと同じです!」


「ああ、なるほど」


 採取の仕事が日常の延長なんだな。

 これはいい。

 彼女の動きを見て、日常に繋がってるところから伸ばしていこう。


 それに、今日でクルミは十回目の仕事だ。

 つまり……これで彼女はDランク冒険者になる。


 いよいよ、討伐の仕事を受けることができるようになるぞ。


『わおん』


「おっ、ブランも薬草取ってきたの……? ……なんだ、この干からびた根っこみたいなのは。……げげえ、マンドラゴラ!?」


『わふーん』


 こいつ、死の絶叫を浴びせてきたけど僕には通じないもんね、と、ブランは得意げだ。

 恐るべし、マーナガルム。

 多分、呪いの類を無効化する力があるんだな。


 そう言えば、バジリスクの石化の視線も呪いに分類される。

 だから、ヒーラーでは治せない。


 呪いは呪術師で解く。

 これ鉄板。


 ちなみに、死の呪いはこのマンドラゴラを煎じたもので対応できる。

 これ豆知識ね。

 以前同じパーティだった呪術師に教わったんだ。


「これは高く売れるぞ……。凄いぞブラン」


『わふーん』


「クルミは? クルミは?」


「クルミも偉いぞ! 仕事は早いし飲み込みもいい。投石紐スリングの命中精度も上がってきた。後は装填速度だね」


「はいです!」


 クルミが元気にぴょんと跳び上がった。

 よしよし。


 まずは冒険者ギルドに、仕事達成の報告をしに行こう。

 俺達は街に戻るのだった。




「はい、クルミさんおめでとうございます! Dランク昇給おめでとうございます! 早かったですねえー。半月でこなすとか……。まあ、オースさんがいたなら当たり前ですねえ」


「ハハハ」


 受付嬢は、ちょっと怖い顔をした。


「手伝いすぎてませんよね? それじゃあ、実力がつきませんからね? 後で苦労するのはクルミさんですよ?」


「大丈夫ですよ。クルミはやれますから」


「そうです?」


「頼りないかも知れないですけど、俺のお墨付きということで」


「ああ……それは大したものですね!」


 なんだ!?

 受付嬢の態度がガラリと変わったぞ。


「ん? ん?」


 クルミが、俺と受付嬢を交互に見る。


「喜んでいいぞ!」


「そうですか! わーい!!」


 びよーんとクルミがジャンプした。

 ゼロ族の跳躍力はとんでもないな。


「あいたー!」


 クルミが、結構高いはずのギルドの天井に頭をぶつけた。


 冒険者達がドッと笑う。

 落ちてくるクルミを、そこにサッと入り込んだブランが受け止めた。


 ぽすん、と音がする。


『わおん』


 この半月ほどの間で、ブランはすっかり、ギルドに入り込む権利を得ていた。

 こいつは俺が従えた、犬型のモンスター……ということにしている。


 まさか、マーナガルムだなんて言えないもんなあ。

 言ったら、パニックになるな。


「次の仕事はー、えーとえーとー」


 クルミが早速、依頼の貼り出された掲示板に向かっている。


「んーとんーと、読めませんセンセエ」


「人間の言葉を勉強しなくちゃなあ。どれどれ」


 最近、Eランクの仕事ばかりやってたから、世の中がどうなっているかよくわからなくなっている。


 クルミの頭越しに掲示板を見た俺、貼り出された依頼の傾向を見てその異常性に気付いた。


「ねえ、これ。討伐依頼ばっかりになってない? っていうか、この仕事の量ってギルドのキャパを超えてるでしょ」


「あー、気づかれましたか」


 受付嬢が苦笑する。


「急に、強力なモンスターがあちこちに出現するようになったんです。どれもBランク以上のものばかりで、そのランクの冒険者パーティが多いわけではないですから……」


「ふむふむ。Cランクも駆り出されてる?」


「その通りです。本当は危険だから、受けさせたくはないのですが、そうは言ってもいられません」


「なるほど……」


 俺は依頼の数々にざっと目を通す。


 そして、ある程度の共通点を見出す。


「全部、近い区域の依頼だね、これ。それに、呼び出されるモンスターの種類に偏りがある。死の呪いを視線に乗せて放つ、魔牛カトブレパス。死の予告を呪いとして相手に与えるデュラハン。そして石化の呪いのバジリスクと、くちばしに石化の呪いを宿す毒鳥コカトリス」


 俺は振り返った。


「全部呪い関係だ。これ、どれだけのパーティが戻ってきてない?」


「そこまで分かりますか……」


「分かる。だけど、この依頼がCランクパーティでも受けられて幸いだった」


 俺はブランとクルミに目配せする。

 二人はうなずいた。


「これ、俺達が受けるよ。ここからここまで、間に合ってないのと未解決なの。片っ端から解決するよ」


 ちょっとハードだけど、冒険者クルミの実地訓練と行こう。

 それに……この事態、何かが裏で動いているに違いない。


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