第17話 陰謀とコカトリス その2
「えーっと、さいしょのは、コカトリス……です? どんなモンスターなのです?」
クルミが難しい顔をして依頼書を読んでいる。
彼女にはちょっとずつ、文字を教えているところだ。
「飛べない大きい鳥。トカゲの尻尾が生えていて、毒の息と石化の呪いが掛かったくちばしを使う」
「バジリスクに似てるですねえ」
「そう、そうなんだよ。使う魔力は一緒。どちらも爬虫類っぽい特徴があるところも一緒。今は蛇と鳥に分かれてるけど、もともとは同じモンスターだったかも知れないね」
ブランに乗って、俺達は最初の目的地を目指している。
場所は岩山の上にある村。
鉱山で生計を立てている、ドワーフの村落だ。
「どうしてコカトリスをさいしょに選んだです? センセエには狙いがあるですか!」
「そう、狙いがあるんだよ。鋭いねクルミ」
クルミはえへへ、と笑った。
「コカトリスはね、足が速い。大きい体で、でもすばしっこく動き回るんだ。ドワーフ達には脅威だろうね。そしてあの速度は魔法も当てづらい。かと言って、接近戦をするには石化のくちばしが怖い」
「つよいモンスターです!」
「そりゃあそうさ。少なくともBランクにはなるモンスターだからね。しかもここは岩場だ。足場が悪いから、コカトリスとやり合うのはとても厳しい。本来、コカトリスは洞窟の中に出るから、鉱山内で戦いになるとは思うんだけどね。ところが今回の個体は外に出た。だから、外で戦わないといけないんだ。鉱山の中ならコカトリスの動きも制限されるから、まだやりようがあるんだけど」
「ひええ、大変じゃないですー!?」
「大変さ。だけど、だからこそやりやすい。開けた場所なら、存分にスリングが使えるんだよ? 必要なのは、コカトリスに当てやすくする工夫とたっぷりのスリングの弾。これだけさ」
「工夫です?」
「そう。スピード自慢のモンスターなら、存分にスピードを出させてやればいいんだ」
我に必勝の策あり、だ。
洞窟のコカトリスも、地上のコカトリスも、パターンに填めたらそう怖いモンスターじゃないぞ。
『わおん』
「ああ、そうだね。ブランは強いけど、君は切り札だ。ここはクルミの実戦練習でもあるから、いざとなった時に出てきてくれ!」
『わん』
マーナガルムのブランは、快く承諾した。
なにせSSランクモンスター。
自分が強いということをよく分かっているので、ブランは力を誇示する事にさほど興味がない。
さて、対策についてクルミに話していると、あっという間に岩山の集落が見えてきた。
その中には、石像が幾つか転がされている。
ドワーフのものと、先行した冒険者らしき石像。
持ってきていたバジリスク粉を使って、早速これを解呪する。
すると、みんな息を吹き返した。
ドワーフ達から歓声が上がる。
「あ、あんたは! ショーナウン・ウインドのオースさんだろ!?」
石化が解けた冒険者が、俺を見て驚く。
「かつてはそうだったけど、今はそのパーティは辞めてるんだ。この依頼は俺が担当するよ。俺とクルミとブランで達成する」
「き、気をつけて下さい。遮るものが無いところのコカトリス、すげえ速さで動き回りますよ! しかも、ずっと体勢を低くしてるんで攻撃や魔法が当たらねえ……!」
「体勢を低く?」
俺はその言葉が引っかかった。
「それってもしかして……こう、頭を下げて、体の影になるようにしながら移動してる?」
「あ、はい、そんな感じで。俺らもドワーフ達も、みんな足をつっつかれて石になったんで」
「なるほど。ならば攻略法は決まりだね。コカトリスは一度も頭を上に出さなかったかい?」
「あ、いえ。途中で一回頭を上げて……。あの野郎、夜は活発らしいんですが、暗いところであれと戦うなんて自殺行為だから昼にやったんですけど……」
「頭を上げた時は、曇っていなかったかい?」
「ええと、それは……」
「曇ってたぞい!」
ドワーフの村人が声を上げた。
「ありがとう。これで、コカトリスの弱点は判明したよ。この仕事、今日中に終わる」
俺は堂々と宣言する。
そんな俺を、みんなが目を丸くして見つめるのだった。
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