幕間 Sランクパーティ、悪の勧誘を受ける

 ショーナウン・ウインドは、その日から不運の連続だった。


 ダンジョンに挑んでは、道具が足りずに攻略できず。

 討伐ミッションに挑んでは、相性の悪いモンスター退治が上手くいかず。

 採取ミッションに挑んでは、類似する毒草を採取してしまい、雇い主を激怒させたり。


 みるみる、彼らの評判は落ちていった。


「なぜだ! どうして何もかも上手くいかない!!」


 ショーナウンは怒鳴りながら、壁を蹴りつけた。

 片手に酒瓶をぶら下げて、呑みながら歩いている。


 彼は最近、すっかり酒が手放せなくなってしまっていた。


「ショーナウン、なんつうかよ、俺ら、準備がいつも足りねえ気がするんだ。というか、何を準備したらいいか分からねえ」


 盗賊が正直な気持ちを口にする。


「私達の評判が悪くなっちゃって、新しいメンバーのスカウトも上手くいかないし……。あのさ、ショーナウン。やっぱ、オースをクビにしたのまずかったんじゃ……」


 ヒーラーの言葉に、ショーナウンは目を吊り上げて睨む。


「俺の……判断が間違ってたって言うのかよ!!」


「だ、誰にだって間違いはあるでしょ」


「つーかさ。オースが大事だったって言うわけ? あいつ、戦いでは足止めしかできないし、攻撃魔法だって使えないし、雑用するばっかりだったじゃない? ほら、あたしの麻痺の魔法にまともに抵抗だってできなかったし」


 魔法使いが笑う。


「そう、そうだよな! オースの野郎が役に立ってたとかありえねえ。俺の判断は間違ってなかった! そう、そうなんだよ!」


 魔法使いの肩をたたき、ショーナウンも笑った。

 これを見て、盗賊とヒーラーはため息をつく。


「悪い、ショーナウン。俺らもうついていけねえわ」


「うん、あなたを復活させたまでは良かったけど……これ以上やってると、私達まで先がなくなる」


「なんだとぉ……」


 ショーナウンが腰に手を掛ける。

 そこには、魔剣があった。


「お前らまで、俺を裏切るのか……」


「まで、って、オースを追放したのはあんただろショーナウン。自分の過ちを認めろよ! あいつは役に立ってたんだよ! 現に俺ら、ボロボロじゃねえか!」


「そうだよ。それに彼、あなたを石化から戻してくれたんだよ? 彼が来なかったら、ショーナウンが戻れるまでにどれだけ時間が掛かってたことか……」


「うるせえ……!! 俺が、俺が間違ってるはずがない! 裏切り者は殺す! 殺してやる!」


「やべえ……!」


 青ざめた盗賊が、ヒーラーの手を引いて逃げる。

 酔っているとは言え、ショーナウンはSランク相当の剣の腕を持つ。


 恐らく、バジリスクと真っ向からやり合っても負けることはない。

 ただ、石化の視線というバジリスクの能力を知らなかったがために敗れたのだ。


 相性が悪かったのだ。


 だが、人間対人間において、相性などというものは対モンスター戦ほどには出ない。


 盗賊は、自分とショーナウンが打ち合えば、確実にこちらが殺されると理解した。

 だからこそ、全力で逃げるのだ。

 酒が回ったショーナウンの足では、追いつけまい。


「おさらばだ、ショーナウン!! 俺らはオースに頭を下げる!! その瞬間はみじめだが、ずっと意地はって破滅するよりはマシだぜ!!」


「てめえら! 戻ってこい、裏切り者!!」


 ショーナウンの叫び声が響く。

 だが、盗賊とヒーラーの二人が戻ることはなかった。


 残されたショーナウンと魔法使い。

 気まずい空気の中、彼らに近寄る者がいた。


『君達は正しい』


 それは、黒いローブを身に纏った男だった。


「なんだ、お前?」


『Sランクパーティ、ショーナウン・ウインド。最近苦労しているようじゃないか。だが、私は君達が強く、そして正しいことを知っている。あれはバジリスクがあそこにいるという、類まれなる不運が悪かったんだ』


 ローブの男は優しく語りかける。


「そ、そうだ! 俺達は悪くねえ!! 運だ。運が悪かったんだ! それというのも、何もかもオースの野郎が悪い……!!」


「そ、そうよ!」


 魔法使いが応じる。

 二人の言葉に、ローブの男はうなずいた。


『全くその通りだ。私は、君達が全面的に正しいと思う。だからこそ、私は君達が真の力を発揮できるよう、君達向けの仕事を持ってきたのだが……』


 冒険者に仕事を依頼する際、冒険者ギルドを通じて行うべきというのは基本的なルールである。

 だが、ショーナウンはそんな事を気にしていられる精神状態ではなかった。


「へえ、俺じゃなきゃ無理な仕事か!」


『そう、その通り。君以外には考えられない。ぜひお願いしたい! この仕事に成功すれば、ショーナウンの名は街中に……いや、世界に轟くようになるだろう!』


「おもしれえ!」


 故に、彼はこの誘いに乗ってしまった。


 その日から、ショーナウンと魔法使いは、アドポリスの街から姿を消したのである。



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