第15話 新パーティ結成 その5
獣人宿泊可の宿に行ったら、一泊でも大層なお値段だった。
獣人の冒険者が馬小屋に泊まっている事が多い理由がよく分かったぞ。
彼ら、抜け毛があるから宿の掃除が大変なんだそうだ。
それに、俺達にはブランという仲間もいるしなあ。
大きな犬型モンスターは、さすがに宿の中には入れてくれない。
「馬小屋に泊まるか」
俺は決断した。
『わふん』
「気にしないでくれブラン。俺がこうして生き残ってるのも君のお陰なんだからさ」
ブランの首周りをがしがししたら、彼は気持ちよさげに目を細めた。
「うまごやです? クルミの住んでたとこと変わんないです!」
クルミは全然気にしていない。
ゼロ族の家は、樹上に建てる関係であまり複雑な構造になっていない。
たいてい一部屋しかなくて、その中に木の葉が敷き詰められている。
その上で、みんな丸くなったりして眠るのだ。
家は寝床でしかないのだ。
クルミからすると、飼い葉が敷き詰められた馬小屋も似たようなもの。
さっそく葉っぱの中に飛び込むと、ぐうぐう寝息を立て始めた。
早い……!
「それじゃ、俺達も寝ますかね」
『わおん』
「ああ、ブランが隣りにいてくれると暖かくて助かるなあ」
本日も、ブランを枕にしてのモフモフ寝を堪能するのだ。
さあ、翌日。
井戸水で顔を洗い、口をすすいでさっぱりしてから、宿で朝食だ。
パンとスープ、オプション料金でゆで卵。
食事を終えたら、本日はクルミの装備を買いに行く。
そして可能なら、今日から仕事を受けていってしまおう。
「クルミの装備です?」
「ああ。いろいろな種類の武器と防具があるけれど、体格や種族によって向き不向きがあるからね。クルミはゼロ族だから、腕力はちょっと劣る。
「そんなのあるですか!?」
「あるさ! 扱いにコツはいるけど、慣れれば簡単、そして威力は絶大! それがこれだよ」
俺が指し示したのは、革紐を組み合わせた道具だった。
「? なんですかこれ」
「
「へえー。クルミ、弓矢とか使うのかと思ってました!」
「クルミの体格だと、弓を使うにも小さくないといけないだろ。それに、弓矢は手入れが大変なんだ。小さな弓だと、割に合わないよ。俺達は人数も少ないから、手入れが楽で威力が大きいほうがいい」
「なるほどです! センセエも使えるんですか?」
「もちろん。俺はこう見えても、スリングの達人なんだ」
ちょっと大きく見せておく。
クルミは、「ほへー! すごいです!」とか言いながら尊敬の目で見てきた。
彼女がいると、何事をやるにもモチベーションが上がってきてとても良い。
これだけで、クルミはちゃんと仕事をしているなあ。
その後、クルミの防具を購入した。
ゼロ族は体の柔軟性と、尻尾の自由度が大事だ。
大した鎧は身に着けられないな。
俺が身にまとっているのは
動物の爪や牙程度ならそれなりに防げ、動きをあまり邪魔しない。
だが、これですらもゼロ族には邪魔になる。
「ということは……
「ぽいんとです?」
クルミが首を傾げた。
「うん。肩と胸元、お腹、腰回りの最小限だけを守る鎧なんだ。動きを邪魔しないことがメインだね。お腹を守るのは厚手の布だけなんで、まああまり当てにならないけど」
店員に頼んで持ってきてもらった装備を見て、クルミが目を丸くした。
「そういうのがあるですか! じゃあ、着てみます!」
「ちゃんと試着室で着るんだよ!」
「はーい!」
というわけで。
あっという間に着替えたクルミが戻ってくる。
「センセエ! なんだかごわごわします!」
「ごわごわって……うわーっ!」
俺は跳び上がった。
クルミ、素肌の上に部分鎧を着ていたのだ!
「クルミ、服の上からつけるんだよ! 裸はだめ!」
「え、ええーっ!! そうだったんです!? ひやー!」
とんでもない勢いで、彼女は試着室に戻っていった。
うーん、いかんいかん。
彼女の天然ぶりも考えものだ……!
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