幕間 Sランクパーティ、帰還す

 ショーナウン・ウインドがぼろぼろになって帰還したことで、アドポリスの冒険者ギルドは騒然となった。


 ヒーラーは魔力を限界まで使い果たしており、魔法使いの女は無力感に打ちひしがれていた。

 盗賊が引きずっている物を見て、冒険者たちは驚愕した。


 それは、石化したSランク冒険者、ショーナウンだったからだ。


「石化してやがる!」


「な、何にやられたんだ!」


 盗賊が叫ぶ。


「バジリスクだ! 森にバジリスクが出たんだ! あの野郎、俺達を森の中で待ち伏せしてたんだ!」


「森に!? そんなバカな。バジリスクは砂漠……それもその奥地にしかいないはずだぜ……」


 盗賊の言葉を誰も信じられない。

 それもそうだ。

 Sランクになることすらある、強大なモンスターバジリスク。

 

 それがそこいらの森の中に出てくるなんて、ありえないことだからだ。

 そんな事があるなら、とても恐ろしくて冒険なんかしていられない。


「石化の解呪薬をくれ! 金なら幾らでもある!!」


「解呪の儀式でもいいわ! ショーナウンを治して!」


「お、おう!」


 ギルドが動き出す。

 Sランクパーティ、ショーナウン・ウインドは冒険者ギルドにとって最も有力な冒険者のパーティなのだ。


 早速、石化解呪の儀式が行われることになった。

 バジリスクの粉末はここには無かったからだ。


 石化の解呪は、呪術師が担当する。

 冒険者の中にはあまりいない、レアな職業だ。


 その呪術師を、ギルドまで呼んでこなければならない。

 解呪を始められるのはいつになることか。


「そう言えばよ。ショーナウン・ウインドは五人パーティだったよな」


 誰かがぽつりと言った言葉に、Sランクパーティの残る三人が動きを止めた。


「ああ、そう言えばそうだったよね。彼はどうしたの? なんでも器用にこなしてたあの……モンスターをテイムできないテイマーは」


「あ、あいつはー」


 女魔法使いが気まずそうに言う。


「暗黒の森で死んだわ」


「そ、そうだ! あいつがいりゃあ、バジリスクにだってすぐ気づけたし、バジリスク対処はあいつがいつも担当してたから……」


 盗賊がした言い訳で、冒険者達が驚愕する。


「バジリスク対処を担当した……!?」


「モンスター一匹連れていないテイマーが!? Aランクモンスターを……!?」


「っていうかお前、盗賊なんだからバジリスクに気づけよ」


「うっ」


 それを言われると立つ瀬が無い盗賊である。


「あのテイマーくん、どうやってバジリスクを対処してたの? ねえ、対処ってつまりどういうこと? 確かにショーナウン・ウインドは何度か、バジリスクの粉末を納品に来てたわよね」


「ああ。それってつまり……あのテイマー、一人でバジリスクを倒してたのか?」


「し……仕方ないでしょう!! あいつがやっつけてたから、そんな強くないモンスターだと思ってたのよ! それがまさか、あんな致命的な能力を使ってくるなんて!」


 ヒーラーが怒鳴る。

 冒険者ギルドの面々は唖然とした。


 Sランクパーティである彼らが、バジリスクとまともに戦ったことが無かった……?

 彼らは本当に、Sランク足り得るだけの実力があるのか……?


 疑いの念が湧き上がってくる。


 もしや、彼らがこれまで成し遂げてきた輝かしい仕事の数々は、実はあの、モンスターをテイムできないテイマーによるものが大きかったのではないのか。


 冒険者ギルドの空気が、みるみる悪くなっていく……。



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