第9話 ゼロ族とバジリスク その4

 ゼロ族の森は解放された。

 バジリスクは倒され、粉々の石になっている。


 この石がまた、使い方があるんだ。

 まず、石化に対する特効薬になる。換金するもよし、今後に備えて持っておくもよし。


「あとは……魔法の触媒や薬を作る材料に使えるね。特にバジリスクの頭の部分だった石は魔力が強い」


「センセエ詳しいですねえ」


 クルミが俺のお手伝いだと言って、せっせと石を拾い集めている。

 この大半は、ゼロ族が当座の生活のために、お金代わりに持っておくべきだろう。


 ゼロ族の貨幣は木の実だ。

 これは食べるとなくなる、目減りする資産なので、どんどん動かして取引するのがいいそうだ。

 バジリスクの石ともなれば、結構な量の木の実になるかも知れない。


「よし、戻って報告しよう!」


「ハイ!」


 クルミが俺の後ろにくっついた。

 今度は俺が前になって、ブランに乗る。


『わおん』


「いつでもいいよ」


 ブランの呼びかけに応じると、彼は走り出した。

 速い速い。

 猛烈な勢いで、ゼロ族の集落まで戻っていく。


 日暮れ前には、到着できた。


「おお、朝に出て夕方に戻ってこられるとは」


 ゼロ族達が顔を出す。


 彼らは日が暮れると眠る生活をしているので、ギリギリだった。


「森を解放したよ」


「は? い、今、なんと?」


 ゼロ族の長老が首をかしげる。


「これ、バジリスクのかけら。合わせるとほら、顔になるだろ」


「ヒ、ヒエー!」


 並べた石がバジリスクの頭になったので、ゼロ族達は驚いて跳び上がった。

 さすがリスの獣人、ジャンプ力がすごい。


「ありがとうございます!」


「ありがとうございます、マーナガルム様! あとお付きの人間!」


「こらー!!」


 主にブランに頭を下げるゼロ族に、クルミが激怒した。


「このモンスターをやっつけたのは、マーナガルム様じゃなくってセンセエ! センセエなの!!」


「な、なんと!?」


 驚くゼロ族達。

 ブランも、いつもの笑顔みたいな表情になって俺の方を見ている。


「センセエすごかったんです! 魔法も、武器も使わないで、この恐ろしいモンスターをやっつけてしまったんです!!」


「なんとーっ!!」


「マーナガルム様を従えるということは、やはり凄いお人だったのかあ」


「ありがとうございます、ありがとうございます」


 ゼロ族のみんなが、今度は俺にペコペコ頭を下げてきた。

 この平伏するような体勢が、ゼロ族にとっての畏敬、という意味を持っている。


 彼らでは歯が立たなかった強大なモンスターを下した存在。

 俺を見る、ゼロ族達の目が変わっていた。


 クルミの報告一つしか判断材料が無いと思うのだが、ゼロ族は身内には絶対に嘘をつかないんだそうだ。

 つまり、真実しか言わない。

 あるいは言うべきではないことは口をつぐむ。


「皆の者! 今夜は宴じゃ! 夜ふかしをするぞ!」


「おおー!! 夜ふかし!」


「夜ふかしー!!」


 わーっと盛り上がるゼロ族。

 彼らにとって、夜ふかしは特別な意味を持つんだろう。


「そんなにお祝いしてくれなくても……」


「何をおっしゃいます先生!!」


 長老が俺の前で平伏した。


「これはわしらにとっても特別なことなのです! 二度と帰れぬと思っていた森に、戻れる……!! 我らの森に……! このご恩は、長く長く語り継ぎましょうぞ!!」


「大事になっちゃったなあ……」


『わふん』


「え? 俺がそれだけのことをしたって? そ、そうかな。でも、みんな喜んでくれているようだし、それでいいか」


 宴はそのまま、夜遅くまで続いた。

 そして、夜ふかしに慣れていないゼロ族は次々に寝てしまい、集落の地面でみんな朝まで熟睡したのだった。


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