第23話 後輩と繋ぐ手。思い出すの禁止ですっ!
どうにも気まずい思いをしながら、図書室に残ろうとする気持ちにはなれずに帰路につくことにした。
一応、凛々花と一緒に帰ってはいるが俺達の間にいつものような会話はない。
絶対嫌われた。絶対嫌われた。事故だったとはいえ、一度目はパンツを見て、今度は胸を揉んだ。何か分からなくて、何度も何度も揉んだ。手にはあの感触がまだ残っている。
思い出せば、頬が熱くなった。
そんな自分が嫌になって頬を殴った。
俺が凛々花を征服したいってのはエロいことをして屈服させることじゃない。そんなのただの最低なやつがすることだ。俺はそんなことをしないで凛々花に好きになってもらいたい。
「……せん、ぱい?」
小さな声がして凛々花を見ると不安そうにして殴った頬の所を見ていた。
「私が無視するから怒ってるんですか?」
「なんでそうなるんだよ。違うからそんな捨てられた子犬みたいな目をしないでくれ……胸が痛むから」
凛々花はたまにこうなる。自分は悪くないのに悪いんだと思って不安そうにする。そして、寂しそうに捨てられた子犬みたいに目を細めて泣くんじゃないかとハラハラさせるんだ。
「凛々花は悪くないから……いつもみたいに怒ってから笑って。凛々花には笑っていてほしいから」
決して、凛々花を抱きしめたりはしない。
胸を触った上にハグなんてのは凛々花に不安を抱かせる。でも、ちゃんと悪くないことを証明するために腕を後ろに回せばそのまま抱きしめる形になる距離まで詰める。
そして、優しく頭を撫でた。撫でる行為は撫でる方は好ましく思ってるから、撫でられる方も好ましく思ってるから成立すること。
そう、自分に言い聞かせていっぱい撫でた。今だけは撫でたい欲求なんか無視して、優しく撫で続けた。
「せんぱいは最低です」
「だな。最低だよ、俺」
「せんぱいは変態です」
「だな。変態だよ、俺」
「カッコいいなんて評価、駄々下がりです」
危惧した今後は案外すぐにくることをあの時の俺に教えてやりたい。
「何発か殴らないと気が済みません」
「覚悟してる」
「では、目を閉じてください。成敗します」
撫でるのを止めて、目を閉じた。
五発。いや、十発は覚悟しよう。それ以上だったとしても受け入れよう。
「ん、凛々花?」
頬に凛々花の手が触れているのが分かる。
でも、どうにもこれは殴るとかそういう部類ではなく、俺がさっきまでしていたように優しく撫でられている。
「成敗しよう……と思いましたけど、誰かさんが倒してくれたので私は止めておきます」
「……喜んでいいのやら、心配になればいいのやら。ちゃんと自分の身は守らないと」
揉んでおいてなんだけど何もお咎めなしってのはどうにも甘い気がする。凛々花には自分の体を簡単に売るような子でいてほしくないし。
「私が怒ってないとでも思ってるんですか」
「痛い……」
凛々花に頬をぎりぎりとつねられた。
せめて、殴ってない方にしてくれ。まだ、じんじんと痛むんだから。
「これくらい当然です」
「はい、反省してます」
「本当にですね?」
「うん。本当にごめん」
嫌われたくない。凛々花に嫌われたら当分の間は立ち直れない。
精一杯、頭を下げるともういいです、と顔を上げるように言われた。
「元々、私が意固地になってせんぱいを頼らなかったのも問題ですし許してあげます」
「……攻める訳じゃないけどさ、そうだからな? 触ってやろうとか思ってなかったからな?」
「知ってますよ。だいたい、私みたいな幼児体型なんて触っても楽しくなんてないと思いますし……」
しゅん、と落ち込んだ凛々花。
確かに、凛々花は背も低いし胸だって小さい。モデルのようなスタイル抜群、なんて言葉は似合わない。
けど、魅力がないことなんてない。
「気持ち良かったし……触れて幸せだった」
これ以上、変態だと言われないようにそっぽを向く。横目でチラッと見れば、凛々花は口を鯉のようにパクパクとさせて、顔一面真っ赤に染めていた。
「お、お世辞なんていりませんよ!」
「お、お世辞なんかじゃねぇよ。初めてだからこんなに柔らかいんだって思ったし……今もめっちゃドキドキしてる。手には感触だって残ってるし」
あの感触を思い出して手を動かすと凛々花は慌てて俺の手に自分の手を握らせた。
「思い出すの禁止ですっ!」
「わ、悪い。それで、あの……これは?」
「せんぱいが妄想に浸らないようにです」
「そこまで落ちぶれてない!」
「それでも、このままです。あんまり、思い出してほしくないんですからね? た、たまになら良いですけど……」
思い出せばギクシャクするのであんまり思い出さないように努める。でも、忘れることは出来なさそうだ。
強制的に繋がされたまま、二人で駅に向かう。道路には手を繋いだ二人の姿が写っている。
「それで、なんで頼らなかったんだ?」
「負けたみたいで悔しかったからです」
やっぱりか、と苦笑する。
負けず嫌いな凛々花らしい。
「凛々花の気持ちは分かるけどさ」
「分かるんですか?」
「分かるよ。俺だって、昔はもっと小さくて苦労したし」
それで、よく女の子みたいだってからかわれたんだよな。
「俺にはさ、あんまりそういう時に頼る人がいなかったけど凛々花にはいるんだし小さいことに素直になって良いんじゃないか? それに、小さいから助けられたんだしさ」
俺は胸ポケットから生徒手帳を取り出して凛々花に見せた。
すると、少し悩んだ素振りを見せてから凛々花は笑った。
「じゃあ、せんぱいにずっと頼らせてくださいね。私、相当チビなのでいっぱいいっぱい頼っちゃいますから」
「おう、任せとけ。極端に高いやつは無理だけど存分に頼ってくれて良い」
「いちいち、保険をかける所、ダサいです」
「しょうがないだろ。頼らせて無理だった時の方がダサいんだから。それに、相手が凛々花じゃなかったら保険なんていちいちかけねぇよ」
これが、肯定と否定の答えだ。
「私にも保険なんてかけなくて大丈夫です。せんぱいのダサい所なんていっぱい見ていますから」
「ぐうの音も出ない一刀両断は止めてね?」
「ふふ、本当にダサいんですから。言い切ってくれないとついて行けませんよ?」
「頑張るよ」
「頑張ってください」
凛々花は楽しそうに笑っていた。
きっと、俺の懇願のせいだろう。
何でもいい。連られて俺も笑った。
二つの影は未だに繋がったまま、さっきよりも伸びているように見えた。
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