第57話 模擬戦⑦


 試合終了後、1組と2組の学生を待機場所に移動させるのと、抉れた地面を直すのに教師陣が奮闘した。


 俺はバリスにどつかれて、広場の復元のために〈刻逆〉を使用し、満身創痍でみんなのところへ戻った。


 で、そんな俺を待っていたのは、クラスメイト達からの非難と殺意のこもった視線だった。


 俺のおかげで勝ったのに、一言くらい礼でも言いやがれ!!


「2組のリーダーはキルシュだったみたいね」


 イリーナの隣に座ると、まだ辛そうにしながら言った。


「1戦目はお互いにリーダーを知らないから、他のクラスメイトの試合も見ておかないと」


 次の試合は3組と4組だ。3組にも特に目立った奴はいなさそうだが、4組には面白そうな奴がいた。


「あの赤毛の男、他より魔力量が多いな」

「ああ、フェリクス・デ・ブランね。不運のフェリクス」


 イリーナがちょっと笑いながらそんなことを言う。


「不運?」

「そうなの。あの人、入学式翌日から盲腸炎で入院したり、風邪をこじらせて寝込んだりで、あまり学院に来れていないのよ。入学式の時には新入生代表であいさつをしたくらい期待されているのに」


 言われてみれば、見覚えがあるような気がしないでもない。


 しかし、本当に不運な奴だな。あんなに良い力を持っているのに。


「噂では、特殊魔術を使うみたい。デ・ブラン家は代々魔術師の家系で、特殊魔術を受け継いでるんですって」

「へぇ、珍しいな」


 自然発生的に産まれる魔力持ちだが、ごくごく稀に家系的な遺伝の奴もいる。そういう家系は、独特の特殊魔術を受け継いでいる場合が多い。


 俺はそういう奴を、たった二人しか知らない。フェリクスで3人目だ。


「系統的には闇魔術か。赤黒い魔力の感じがする」

「あんたほんと気持ち悪いくらいの魔力感知力よね」

「気持ち悪いってなぁ。魔力感知は基本中の基本だぜ」


 俺は基本的に、最初に打てる手は打ちたい派だ。魔力感知で対抗できる系統を知り、〈遠視〉で姿を捉えて気付かれる前に倒す。


 卑怯って思った人?


 それはできない奴の僻みっていうんだぜ!!


 3組と4組の試合が始まった。


 堅実な3組は、二人1組となって端の方から詰める奴と、一人であちこちに魔術で援護するやつにわかれた。


「基本戦略だな。兵士を何人か組ませて、そこに少人数の魔術師を投入するってやつ。魔獣相手になら有効だ」


 ただ、相手は人間だ。当然その戦略に気付いて対抗してくる。


 まずは魔術師役を制圧する。援護がなくなれば兵士役はただの兵士役となる。


 4組は3組と同じように数人でグループを作り、援護の学生を中心に狙い始めた。


「統制が取れてる。やっぱりフェリクスの存在が大きいみたいね」

「そうだな。間違いなくあいつがリーダーだろうし、クラスの奴らもそれを受け入れている」


 ……俺らのクラスと違って。


「特殊魔術を出すまでもないようだな」

「うん」


 そうこうしているうちに、3組の戦略が崩壊。一度崩れると、立て直すのは難しい。


 終わりはあっけなかった。


 4組が討ち取った魔術師役の学生の一人がリーダーだったようだ。


 これもセオリー通りで、大抵の場合援護の魔術師が指揮を取っていることがおおい。3組もその通りにしていたのだ。


「ずいぶんあっけないわね」

「そんなものだろ、戦闘って」


 つまらない試合だった。フェリクスもそう思っているのか、遠くに見える奴の顔は一切表情が変わっていない。


 その試合の間に、学院の医療系魔術師が2組の学生を回復させ、次は一回目で負けた2組と、4組の試合となる。


 そのまま待機する4組には、大きな負傷は無いらしい。


 2組はまた、キルシュを中心に水系統の魔術と、土系統の魔術を組み合わせて戦った。


 2組の強みは、似た系統の魔力を持つ者が多いため、魔術的な連携が取りやすいことだ。それは協会魔術師たちもそうで、五級、四級魔術師は同系統でつるむという傾向がある。


 しかし、4組はやはり強かった。


 数人体術に長けた奴がいて、そいつらの援護を中心に連携をとり、あっという間にキルシュへと迫った。


 一試合目にはリーダーが分からずできなかった戦法だ。三試合目以降は、こうやって確実にリーダーだけを潰そうとしてくる事になる。


 ……俺たちのクラスはそんなこと考えてないけど。いや、考えていてあえて放って置かれる。悲しい。


「またあっさり4組が勝っちゃったね」

「そうだな」


 三試合が終わると昼食休憩となった。


 俺はイリーナとリアとユイトのいつものメンバーで、食堂へ向かおうとしていた。周りでは午前中の感想を言い合いながら同じように食堂へ向かう学生がひしめいている。


「混みそうだね」

「購買で何か買う?」

「そうしようか」


 と、話し合う3人の後ろを歩いていると、遠くでバリスが俺を呼んだ気がした。


「ん?」


 振り返る俺の真後ろに、ペトロの白金の髪が見えた。


 そのペトロの後ろを、血相を変えたバリスが追いかけて来る。バリスが叫ぶ。


「レオ!気を付けろ!!」


 その辺を歩いていた学生が驚いてこっちを見た。


 ペトロは人混みに紛れて、俺を殺しに来た。


 多分バリスも、イリーナたちもそう思ったに違いない。


「レオっ!!」


 ペトロが呼んだ。そのまま体当たりする勢いで飛び込んで来る。


 人形の様な容姿の、誰が見ても美少女が俺に飛びついて……


「んむっ!?」


 唇を奪われた……


「ちょ、」


 俺が何か言う前に、ペトロがそのまま舌を絡ませてくる。


「あああああっ!!」


 バリスが叫んでいる。それもそうだ……


「やめろ!!!!」

「オウボォッ!?


 ペトロの腹にマジのパンチをお見舞いする。


「ヒドっ、こんなに可愛いペトロ様が再会の喜びを表現してるのにっ!!」

「嬉しくないキモい」

「今日の為にお洒落してきたのに!!」

「お洒落もクソもないだろ!!」


 と、言い合う俺は気付いた。


 背後でドス黒いオーラを放っている、これは多分、イリーナだ。


 恐る恐る振り返る。


「ねぇ、どういうこと?」

「いや、これはノーカウントだ。ペトロは、ほら、」

「ノーカウント?なにそれ?そうやって女の子のこと弄んでんでしょ」

「ちょっと待て!なんの話だ?」


 と、ユイトを見るが、知らんフリをして視線すら合わせてくれない。リアも困った表情で愛想笑いを浮かべている。


「あり?もしかしてレオの女か?」


 ペトロがニヤついて言う。というか、人形みたいな可愛らしい顔でニヤニヤされると不気味だ。


「違う!!お前がそんな紛らわしい格好をしているから、俺は今よくわからない疑いをかけられてる!!」

「ギャハハ!大変だなぁ!ドンマーイ!」


 可愛らしい容姿の少女が、突然下品に腹を抱えて笑うから余計に注目を浴びてしまう。


「どういうことよ?」


 イリーナがちょっとだけ困惑した。


「イリーナ、勘弁してやれ」


 と、追いついたバリスが言う。その顔は、心なしかゾッとしている。


「どういうことです?」

「ペトロは男なんだ」

「ゲッ!!」


 バリスが声のトーンを落として真実を告げる。そう。ペトロはちゃんと男性です。あって欲しいものが無くて、なくて良いものがついています。


 ペトロの固有魔術は、触れた相手の情報を読み取る能力だ。同じように、ペトロ自身の意思を相手に伝えることもできる。


 そんな固有の能力もあって、ペトロは変装技術を駆使して、組織犯罪などの諜報活動を行なっている。


 他人の情報を集めるのが趣味というのも、そういう固有を持っているからだ。


「な、なんかごめんね、レオ。あたし、てっきりそういう関係なんだと……」

「俺とレオがそんなわけないだろーよ!なぁ、ガキだもんなレオは」

「うるさい死ね!!」


 再度パンチ!今度は避けられた!


 と、茶番はここまでにしておくか。


「悪い、イリーナたちは先に行っててくれ」

「はいはい。どうせ身内でお話でもあんでしょ!」


 さすが物分かりのいいイリーナだ。ユイトたちも気にせず軽く手を振って、学生の流れにのって行ってしまう。


「ペトロ!レオの情報を見たのか!?」


 だいぶ人が減った頃、バリスがペトロの胸ぐらを掴んで言った。


「見てねーよ!ってかそうか。さっき固有魔術が何か調べりゃよかったんか!!」


 クッソォ、と悔しがるペトロだ。


「紛らわしいことするなよ!一応オレら特級の固有魔術は機密情報なんだってわかってんだろ!?」

「わかってんよー」


 ベェッと舌を出す憎たらしいペトロに、バリスの眉間の青筋が膨張した。


「大体お前、自分が疑われてんのわかってんのか?」


 バリスがそう言うと、ペトロは瞬時に真顔になる。


「バリス。ペトロは違う」

「はあ?」


 そう、ペトロがさっきなんであんな事したのか。


 それはペトロが、真相を知っていたからだ。わざわざベロチューをする意味はわからんが、ペトロは自分が疑われているのを知っていた。


 だから俺に直接伝えたかったってわけで。


「レリシアとアイザックを殺したのは、魔族だ」


 俺がそう言った瞬間、学生の居なくなった広場にいつもの禍々しい魔族特有の魔力が充満した。


 広場のちょうど中央に、そいつは転移でもって突然姿を現した。


 そいつは白いのっぺりしたマスクを付けていて、顔はわからない。目と口のところだけぽっかりした穴が空いている。


 ひょろっとした体躯でズタズタのボロい長ズボンだけを身につけたそいつの、剥き出しの上半身は縫合痕が沢山あって不気味だ。


「バリスは学生が来ないように時間を稼いでくれ!!」


 咄嗟に言うと、バリスは間髪入れずに走り出す。


「レオンハルトさん!」


 入れ替わるようにダミアンが隣に現れた。


「こいつが、レリシアさん達を……」

「間違いない。そうだろ?ペトロ」


 ペトロを見やると、険しい顔で魔族を見つめていた。


「ああ、俺が偶然遭遇した奴で間違いねぇ。お陰でこの何日か逃げ回るハメになったぜ」


 ペトロの情報によると、任務後に協会に寄った際、地下牢から出てくるこの魔族を目撃してしまったらしい。


「すみません…そうとは知らずに、あなたを疑ってしまった」

「別にそりゃいいんだけどよぉ…こいつ、ヤバイぜ」


 ペトロの言葉に、ダミアンが身構える。


「ヤバいって、」

「こいつの能力は透過だ」


 ペトロの代わりに俺が答えてやる。この魔族は透過能力を持つ。ペトロの情報から、それは確定事項だ。


「でも、レオンハルトさんの〈天眼〉には、物理透過ができたとしても写るはずですよね?」


 ダミアンが言っているのは、例え壁を抜けたりできたとしても、その際に起こる様々な痕跡は残るはずだということだ。足音や息遣いなど、完全な透明になることは難しい。


「考えられるとすれば……魔術による効果を透過する能力」


 そう言うと、ダミアンもペトロもハッと息を飲んだ。


 もし仮に、暗殺に特化した魔族がいたとしたら。


 殺した後に必ず魔術師が〈天眼〉を使って痕跡を探すことはわかり切っている。なら、その〈天眼〉を無効にできる能力を持っていたとしても不思議はない。


 物理透過ができるやつがいたのだから、魔力透過ができるやつだっているだろう。そしてこいつは、その両方を持っているらしい。


「厄介ですね」

「そうだな」


 実質、やつに攻撃は当たらないと言うことだ。


「レ、れれれ、お?」


 魔族が何か呟いている。だらりと垂れた両腕は力なく、現れたはいいが攻撃してくる様子もない。


「れれ、れお…」


 もしかして、俺の名前でも呼んでるのか?


「不気味なヤツですね。レオンハルトさん、さっさと倒してしまいましょう」


 そう言うと、ダミアンが魔術を使おうと構える。


「わかってる。魔術も物理攻撃も透過されるが、発動に必ず遅延があるはずだ。俺が近距離で攻めるから、ダミアンは援護してくれ」

「そのつもりですよ。僕はあなたほど近距離戦闘は得意ではありませんから」


 一度目を合わせ、俺は走り出した。


 魔族に迫る直前に黒雷を呼び出す。それをそのまま振りかぶり、魔族の不気味なマスクへと振り下ろす。


 同時に魔力を流し、黒雷の持つ雷の性質を引き出すと、バチバチと稲妻が走る黒い刃が魔族の頭部を真っ直ぐに裂く。


 が、やっぱり透過ですり抜けられてしまう。


「れれれれ、れ?」


 魔族は一歩も動かず、ただただ何かを呟いただけだ。


「〈剣尖の刃、鎌鼬の如く、切り裂け:風双破〉」


 ダミアンの〈風双破〉が二刃の風の刃となって魔族を襲う。さすが特級魔術師だ。完璧な詠唱と円環構築に、最大の魔力を乗せたそれは的確に魔族を切り裂こうとせまる。


「ダメですか」


 だがその攻撃も、魔族の透過能力の前にはなんの意味もなさない。ただ広場の地面を深く切り裂いただけだ。


「オイオイオイ!!どうすんだよ、ソイツ?レオが倒せねぇならもうお手上げじゃねえか」


 無責任な事を言うペトロだが、お前も手伝えよと思わないでもない。


 まあ、ペトロはあまり戦闘向きじゃないから、あえて言わないが。


「ペトロも知ってんだろ!?俺は今前みたいに魔術を使えないんだよ!!」

「ああ、確かに。ありゃほんと面白かったな」

「殺すぞ!!」


 などと話している暇は無い。


 俺はまた魔族に向き直ると、今度は体術も込みで連続攻撃で攻める。


 黒雷を相手の急所へと繰り出す。魔族はそのことごとくを、透過でやり過ごす。まるで、空気を相手にしているようだ。


「ああああ?れ、お」

「っ!?」


 突然、今まで動かなかった魔族が片腕を上げた。それを、俺の真上で振り下ろす。


 ヤバいと、本能で後方へ下がる。が、間に合わない。


「うがっ!?」


 振り下ろされた腕から衝撃波が巻き起こった。まともに食らった俺は、大きく後方へ吹き飛ばされる。


「うぎゃっ」


 吹っ飛んだ先にはペトロがいて、まともに衝突。ペトロが踏み潰されたみたいな声を出す。


「悪りぃ」

「許さん!ドケェ!!」


 ブチギレるペトロを無視して黒雷を構える。そこに、魔族が急接近し今度は上段から足を振り下ろした。


 魔族の踵が黒雷に当たる。物理的な攻撃は防げる。しかし、衝撃波までは無理だ。


「ガハッ!!」


 上からまともに襲ってきた衝撃波が、まるで鉄球でもぶつかったみたいに腹を圧迫する。


 胃液が飛び出しそうになるが、なんとか飲み込んでやり過ごした。


「レオンハルトさん!!」


 ダミアンが〈風撃〉を放つ。魔族がヒョイと跳ねてそれを避けた。


「オエッ、イッテェ…」

「俺の方が痛い!!」


 吐き気を堪えて立ち上がる俺に、同じく立ち上がったペトロが吐き捨てるように言う。


 なんもしてないくせに、文句ばっかり言いやがって。


「〈神速、剛魔の鎧、降りしこの身に、疾く変われ:強化〉」


 素早く身体強化を行い、魔族を追って駆け出す。


 やる気になったのか、魔族は今度は向かってきた。


 動作はなかなか速いが、〈強化〉でスピードアップした俺の方が速い。


 魔族が繰り出した拳を避け、衝撃波を回避するとともに後方へ回り込む。背部から突き出した黒雷は、スッとなんの手応えもなく魔族をすり抜ける。


 魔族はグルンと首を回し、またもだらりとした腕を振り抜いた。


 咄嗟に姿勢を低くして避ける。


「れおおおお」


 再度、今度は下から剣を突き上げる。それは、魔族の胸部を下から突き刺すが、やはり手応えはない。それに、連続して攻撃した際の透過発動までの遅延もない。


「ああ、あああ、れれれ」


 魔族が伸びた俺の脇腹を蹴った。ヒョロイわりに硬い脛骨の感触と衝撃波が合わさって、威力は絶大だ。


「い"っ」


 吹っ飛ばされながら、肋骨がバキバキいったのが聞こえた。


 ズザァと地面を滑り止まった俺に、ダミアンが駆け寄ってくる。


「ゲホッ、ゲホ」


 盛大に血を吐きながら、それでも立ち上がる。


「レオンハルトさんっ、やっぱりバリスさんか、ほかの特級魔術師を呼びましょう!これでは勝てない」


 その言葉に、俺は無意識に笑った。


「ダミアン…お前はアホか?」

「えっ」

「俺は誰だ?知ってるだろ。歴代最強の魔術師だぜ」


 ニヤリと笑えるのだから、俺はまだ大丈夫だ。


「ゲホッ、こいつは…レリシアを殺したんだぜ。俺以外の手で殺させてやるかっての」

「っ!」


 そうだ、あの魔族は仇だ。これは弔い合戦。


 例え手足をもがれようが、俺以外があいつを倒すなど許さない。


「それに少しわかった。あいつ、衝撃波を出すときには、その部位は実体化していなければならないようだ」


 だったら方法は簡単だ。


「ダメですよ!そんな、」

「うるさいな。捕まえさえすれば、あとは魔力で上回ればいい」


 以前戦った魔族も、透過の弱点を見つけて倒すことができた。こいつもそれと同じように、衝撃波を放つ時にだけ、その部位が実体化するという欠点がある。


 確実に捕まえ、あいつを上回る魔力で叩けば倒せる。


 魔力透過は確かに厄介だが、ひとつ破る方法があるとすれば、俺くらいの魔力量をもって上回ればいい。


 まあ、一度しか出来ないだろうから、確実に捕まえたいところではあるが、それが一番難点だ。


 多分ダミアンは俺のやろうとしていることに気付いた。だから止めようとしているのだ。


「レオンハルトさん…本当にやるんですか?」

「当然だ。それに俺以外には出来ないだろ」


 魔族を上回る魔力を単独で持つのは、特級魔術師の中でも俺だけだ。隙をつくような面倒もいらない。


「だったら、これを」


 ダミアンがポケットに手を突っ込んで、小さな小瓶を取り出す。それを差し出して言った。


「封魔の影響を少し抑えることができます」

「は?」

「僕はアイザックさんの研究にも手を出していました。これはその副産物みたいなものですが、ないよりかはいいはずです」


 受け取った小瓶には、透き通る赤色の液体が入っている。


「飲めってか」

「ええ。大丈夫ですよ。副作用はほとんどありませんから」


 少し不安ではあるが、今は悩んでいる暇はない。


「ん、ありがと」


 小瓶の蓋を開ける。つんとした薬品の匂い。最初にダミアンと出会った時に嗅いだものと同じ匂いだ。そして、それはやっぱり、どこか懐かしい匂いでもあった。

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