第13話 努力と才能④



 その日は、テストの結果が張り出される日だった。


 朝早くから校舎の入り口の掲示板に、一年全員の順位が張り出される。


 イリーナもリアと共にそこで自身の結果を確認する。


「やった!8位だ!10位以内目標だったから良かった」


 隣でホッと胸を撫で下ろすリア。方やイリーナは、ギュッと唇を噛み締めていた。


「なんでよ…なんであたしが二位なのよ」

「二位でもすごいよ?学年に80人いる中の二位だよ?」

「そうじゃない。なんで一位がレオなの?あんなふざけた奴なのに、なんであたしが負けるの?」


 そこか、とリアは納得した。イリーナは最初から、レオより良い成績が取りたかったのだ。


「イリーナも聞いてたでしょ?あんなにわかりやすく魔術の理論が説明できるんだから、きっと人一倍勉強しているのよ」

「勉強ならあたしもしてる!!」


 ピシャリと言い返され、リアはそれ以上はなんの励ましにもならないと押し黙った。


 それに幼馴染みの親友として、産まれてからずっと側で見ていたから、イリーナがとても努力家である事も知っている。


 そんな二人の近くで、他の学生が言う。


「一位ってアレだろ?上級生に土下座してた奴」

「ああ。なんか色々スゴいらしいぜ。一級魔術の雷系統を使えるらしい」

「見た見た!他の教師が、金獅子と同じだって騒いでたぜ」


 『金獅子の魔術師』。


 イリーナもその魔術師の噂を知っている。世にある全ての魔術を使用できるとか、魔族を一瞬で殺せるとか、協会に入って最短で特級魔術師になったとか。


 その素性は一切公開されていないから、もしかすると未成年なのではないか、と言われていることも。


 同年代かもしれないとなると、イリーナはそれが悔しくて仕方なかった。


 同時に格の違いも思い知った。


 そんな奴にははなから勝てない。だからせめて、この学院では一番でいたかった。だから誰よりも勉強した。人より賢く、強い自信もあった。


 結果はどうだ?


 あの性格のねじ曲がった、嫌な男にすら敵わない。


「イリーナ……」


 思い詰めた顔で掲示板を凝視するイリーナに、リアはとても悲しい気分になる。


 イリーナには才能がある。幼い時から、イリーナは魔術が使えた。だからイリーナの両親は彼女に大きな期待を抱いていることも知っている。


 その期待が大きすぎて、彼女が必死に応えているのも。


 このままではイリーナがダメになってしまう。


 漠然と、リアは不安を抱えている。


 どうしたらいつもの彼女が帰ってくるのかと、リアはその事ばかりが心配だった。


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