第11話 努力と才能②


 翌日のテストは、やっぱりなんの引っかけもなく可愛らしい問題ばかりで、筆記科目は満点とったと確信した。


 未来を担う魔術師の卵たちが、こんな問題を解いているのかと少し落胆する程だった。


 午前中に筆記科目が終わり、午後からは実技試験だ。


 得意な魔術を披露して終わり。ただのお遊びみたいなものだけど、学生たちはやたら真剣だった。


「リアはなんの魔術を披露するんだ?」


 二日前に決闘した広場で、自分の番を待つ間に聞いてみた。


「私は空絶が得意なの。攻撃系はあまり得意じゃなくて……」

「空絶か。変わってるな」


 そう言うとリアは恥ずかしそうに笑った。


 ちなみに空絶は、風の壁を築いて攻撃を遮断する魔術だ。物理にも魔術にも有効で、意外と便利。だけど地味で、人気もない。


 それを証明するように、先ほどからバチバチの攻撃魔術ばかりが飛び交っている。


 俺は相手の攻撃魔術ごと消し飛ばすのが好きなので、そもそも防ごうとか思わない。そっちの方が効果的だ。


「リアは可愛いからヒントをやる。空絶は明確な拒絶をイメージすると、攻撃を弾く事ができる。バカみたいに突っ込んでくる相手には有効だ」

「そうなんだ!ありがと!」


 とか言ってると、リアの番が来た。


「行ってくるね!」

「おう」


 担任の先生がリアの前に立つ。リアは深呼吸してから言う。


「先生、私、空絶が得意なので、攻撃魔術をお願いします」

「わかった。じゃあ行くよ?」

「はい」


 先生は遠慮がちに水弾を放つ。水なら濡れるだけで、大したダメージがないからだろう。


「〈凪の風、嵐の防壁、打ち払え:空絶〉」


 先生の水弾が、リアの防壁にぶち当たる。そして、軽く弾き飛ばした。


 思ったよりリアは優秀なようで、俺の言った通り拒絶の効果が反映されている。


「おお!リア、今の空絶良かったよ!」


 クラスメイトたちが囃し立て、リアは照れ臭そうに微笑む。


 青春って感じだ。いいなぁ。


 パタパタと掛けてきたリアは、天使だ。ほんと。


「ありがと、レオ!上手くできたよ!」

「お、おう」


 癒しだ…ピニョもこれくらい美少女ならいいのに。


「なにデレデレしてんだよ?」


 そこへ、俺の嫌いなバリスが現れた。


 こいつはなんでいつも俺の近くにいるんだ?


 バリスが来たせいで、クラスメイトたちが萎縮してしまっている。とんだゴリラだぜ。


「デレデレして何が悪い?可愛いんだもん」

「キモい事言ってないで、次はお前の番だろ?」


 そういやそうだった。


「見んなよ!?」

「はぁ?見に来たんだよ!お前がめちゃくちゃしないようにな!!」

「めちゃくちゃしてやりたいけど出来ないんだよ……」

「そんな残念そうに言うな!!」


 あっかんべーして、先生の前に立った。


「君はなんの魔術を使うのかな?まあ、実力はもう見せてもらったけれど」

「何がいいですか?」


 威力さえ抑えれば、多分なんでもいけるはずだ。100分の1はやばいから、500分の1くらいなら大丈夫か。


「うーん、二級とか使えたりするのかな?一級魔術の得意な子って、四元素が苦手なイメージがあるんだよね」

「了解っす」


 軽く頷いて、両手を前に出す。


「〈大地を抉り、岩をも砕け:水弾〉〈大地を焦がし、焼き払え:炎弾〉」


 舌を噛みそうになったけど、まあまあの出来だ。


 俺の作った水の礫と、火の玉が先生の目の前に落ちる。水分がすぐに蒸発した。


「やるねぇ、君。やっぱり才能があるんだね」

「まあな」


 と、答える俺の背後に迫る気配。込められた殺気は本物だ。


「オラッ!!」

「ぐっ、バリス!何のつもりだ?」


 上段回し蹴りを腕で防ぎ、急いで距離を取る。


「たまにはオレも参加したいなと思ったんだよ!」

「特級が気軽に参加して言い訳ないだろ!?」


 何考えてんのこのゴリラ!?


 クラスメイト達が完全に怯えてるだろ!!


「おら、お前もちょっと退屈してただろ?クラスのいい見本になってやれよ」

「退屈は否定しないが。それにしても、ゴリラに襲われるとは思わなかった」


 バリスはニヤリと笑い、高速で接近してくる。お互い素手だが、全身筋肉のクセにバリスはめちゃくちゃ速い。ガチガチの近接タイプだ。


 繰り出される拳を避けるが、風圧で皮膚が切れるほどだ。一種の固有魔術みたいだが、これで完全に体術のみなのだから、特級魔術師は恐ろしい。


 効率よく繰り出される攻撃を後退して避ける。


「鈍ったんじゃないか?」

「余計なお世話だっ!魔術さえ使えたら俺の勝ちなのに!!」


 そう、魔術さえ使えたら、こんなやつ瞬殺だ。


「正直今なら勝てるかなと考えたことは否定しない」

「わりと卑怯だよな、バリス」


 フンと、不適に笑うゴリラ。


「しゃあねぇ、〈神速、剛魔の鎧、降りしこの身に、疾く変われ:強化〉」


 詠唱が終わる。ぱっと見何も変化はないが、身体強化なんてそんなもんだ。


 ただ、スピードは通常の二倍は加速するから、俺は結構この特殊魔術がお気に入りである。


 地面を踏むと同時に加速。バリスの懐に飛び込む。バリスは見越していたようで、ニヤリと笑いカウンターで拳を合わせてくる。


 俺は寸前で減速、バリスの伸ばした腕を掴み、ついでに足を蹴る。そのままくるっと回転。


 背負い投げの要領で、吹っ飛ばしてやった。5メートルくらいはとんだかな?


「イッテェ…全力で投げやがって……」

「ゲホッ、あ、お前の所為で吐血したじゃないか!!」


 まったく、すっかり脆いよね俺の身体。


「クソ、まあいいや。悪いな、邪魔をした」


 バリスは立ち上がって砂埃を払いながら、担任に謝罪。先生は何がなんだかわからないと、オロオロしている。


「レオ!大丈夫?」


 駆けつけてきたのはリアだ。


「大丈夫だ。ゲホッ」

「ねぇ、レオって病気なの?」

「え?違うけど」

「ならなんでいつも辛そうなの?」

「あー、そのうち教えてやる」


 俺病気だと思われてるの?ちょっとショック。


「んじゃあまたな、レオ」


 バリスは来た時と同様に、唐突に帰っていった。


「なんなんだよ、あいつ」


 ほんとゴリラの考えてる事はよくわからない。


「レオ!今のどうやったんだよ?」

「お前すげぇなあ!!」

「強化おれにも教えてくれ!」


 バリスが帰ると、俺はクラスメイトに取り囲まれた。クズだなんだと言ってくるが、みんな純粋に魔術に興味があるようで、そういうところは素直で好感が持てる。


 意外と学院に来てよかったのかもしれない、なんて、この時は思い始めていた。


 ただまあ、それも最初だけだったけど。

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