第9話 魔術師養成機関⑥


 目を覚ますと、学院宿舎だった。


 魔術師協会の宿舎と同じような作りで、同じようにタンスと机と椅子とベッドしかない狭い部屋だ。


「レオ様あああああっよくご無事で!!通りすがりのゴリラに腹パンされたと、うなされていたですうううう」

「通りすがりの、ゴリラ?…確かに」

「お前オレをゴリラだと言ってんのかぁ!?」


 えっ、と思って飛び起きると、バリスが俺の勉強机の上に座っている。


「ゴリラが俺の机の上に…幻覚か?」

「ピニョにも見えます…ゴリラが…」

「揃いも揃って寝ぼけてんじゃねえ!!」


 バリスが怒って、その辺の教科書を投げてきた。う◯ことか投げるゴリラそっくりだ。


「ともかく、お前一体なにをやっていたんだ?気絶する程魔術使ったのか?」

「気絶したのはお前の腹パンが強烈だったからだけどな」

「はぐらかすんじゃねえ!!」


 事実を言ったのに睨むなんて酷い。


「何してたかっていうと、説明した通りクラスメイトの相手してやってた。俺の特殊魔術が見たかったんだと。それで、なんなら決闘の方が盛り上がるかなと思って」

「そうか…まあ、一年はまだ特級とかに憧れている時期だからな」

「憧れ過ぎて現実が見えてないな。頑張ればだれでも一級魔術師になれるし、特殊魔術が使えると思ってる」


 おめでたいお話で。さっさと限界知った方が身のためなのにな。


「それと女の子に土下座させていたのは関係あるのか?」

「いや、あれは俺の趣味だ」

「……そのうち絶対刺されるぞ、お前」

「俺もそう思う」


 心配してもらわなくても、俺は多分ロクな死に方はしない。刺されるか埋められるか沈められると思う。


「土下座ならピニョに任せてくださいです!レオ様の為ならなんだってしますです!!」


 そう言ってピニョが、ベッドの側でペコペコと土下座を繰り返す。


 ウザいからその頭を踏んで止める。


「ぷぎゅう!レ、レオ様?足をどけてくださいです!!」

「嫌だ。なんかムカつく」

「ううううう、でも、レオ様になら踏まれてもいいのです……」


 その様子を、バリスが冷めた眼で見つめている。


「お前ら、前から気になってたが、いったいどんな関係なんだ?」

「主人と下僕だ……というのは冗談で、捨てられていた卵を拾って孵化させたらドラゴンだったという、ただそれだけの関係だ」


 バリスはピニョがドラゴンであることを知っている。


「突然幼女を連れて宿舎に帰ってきたのには驚いたが、それがまたドラゴンってのもすげぇよな」

「最初は売ったら金になると思ったんだが、まさかこんなに懐かれるとは思わなかった」

「ヒッ!?ピニョは今初めて、売られそうだったことを知りましたですううう」


 おっと、口が滑った。まあ、今となっては売る気はないが。


「レオ」


 改まった口調で名を呼ばれバリスを見ると、いつになく真剣な表情だった。


「魔術使うなら、しっかり加減した方がいいぜ」


 そう言って、視線を落としたバリスが見ていたのは、俺の上半身に浮かぶ黒く禍々しい痣だ。ピニョが手当てをするためにシャツの前ボタンを外したのだろう。


「うわっ、これ消えないのかな」

「心配ない。徐々に退いているからその内消えるだろ」

「ならいいけどな。こんな痣だらけだと、女の子が逃げちゃう」

「心配せずともお前みたいなクズに女の子なんて寄ってこねぇよ」

「やだ、辛辣!!」


 フン、と鼻を鳴らし、バリスは立ち上がった。


「いいか、マジで死んでもしらないからな!気を付けろよ!」


 捨て台詞を吐いて、バリスは俺の部屋から出て行った。


「バリスって結構ツンデレだよな」

「ピニョもそう思いますです」


 ガチムチのツンデレ属性。


 うわぁ、なんかめちゃくちゃキモい。


「レオ様、ピニョも多分同じこと考えてますです」


 はあ、と二人のため息が被った。

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