希望なんて存在しない
仲仁へび(旧:離久)
01
この世界に希望なんて存在しなかったのだ。
叶ったとしても、それはただのまやかし。
この手に、一時の温もりだけ渡して、すぐに奪い去ってしまう。
俺には惚れた人間がいた。
ずっと傍においておきたい人間がいた。
俺とあいつは水と油の様な存在で、本来なら一緒にいてはならない存在だった。
だから、俺は覚悟していたはずだった。
希望を見ないように、幸福にひたらないようにしごしてきた。
けれど、駄目だった。
希望の幻想には抗えない。
これまでは、どんな絶望にも抗ってきたというのに、甘い飴玉を目の前に転がされただけで、俺はそれに手をのばしてしまったのだ。
そんなもの、ただの幻で、実際には手に取ることすらできないというのに。
俺は目の前で倒れる彼女の亡骸を手にして、ケモノの様な叫び声をあげる。
俺の身の回りを世話していた使用人。皺も汚れもなかった使用人服が、血に染まって赤くなっている。
血の海の中に、俺がやったプレゼントが転がっていた。
亡骸を見つめる。
俺は、そいつの服のポケットに、いつも暗殺用の剣があった事に気が付いていた。
俺とコイツの関係が終わる時は、こいつは俺を刺す時は、俺があいつにやり返す時だと思っていたのに。
終わってしまってから気づく。
本当は俺は、こいつと生きたかったのだと。
勇者と魔王。
決して交わらない線が交わる時がきてほしいと、願っていたのだ。
俺は、こいつと明日も一緒にあるという、決して叶わない、幻想の希望を持ってしまっていたのだ。
希望なんて存在しない 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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