共鳴

 さて、樟葉ちゃんのお陰で新しいイデアを手に入れ、再び力が戻って来た。これで鏡結界のヌシを倒す事ができ、幅広く行動ができるようになったのはいいが、肝心の龍が見つからずに私は少しだけ焦燥感に駆られてしまっていた。




「少しは休んだら? ここ最近、勉強といい、鏡結界の対処、龍の捜索、オーバーワークになっているわよ?」




「そうだね。後一時間くらいで切り上げるよ……」




 玲奈ちゃんの言い分は尤もである。こうも焦燥感に駆られて、毎日頑張っていても身体を壊してしまったら元の子もない。


 私の一日は前と同じになった。基本的には勉強、そして情報収集という名の運動。その二択しかなく、休みは食事や入浴といった事と兼ねている。私には趣味という趣味がないので、それが裏目に出た。


 そして、今の私は街中を走っている。情報収集という名の龍の捜索、それと身体を鍛えるための運動を合わしているのだ。あと一時間で捜索を切り上げる事になっているが、未だに成果は出ていない。まだ手掛かりは一つも発見していなかった。




「文音、近くに鏡結界の反応が……」




「うん。分かっている……」




 走っていると不意にイデアが反応を示した。


 その時、近くにあったのはとあるマンションで、周りに鏡らしいものはない。もしかして、個人の家の鏡に? そうなると厄介だ。


 そんな最悪の展開をイメージしつつ、私はそのマンションに乗り込んだ。




「良かった……」




 近所にある事は知っていたが、中に入ったのは初めてだったので知らなかった。


 どうやらこのマンションのエレベーターには鏡がついているらしく、それが鏡結界となっていた。私の脳裏にあった予想は無くなり、安堵の息を吐いてしまう。




「って、そうじゃない。早くヌシを倒さないと……」




 エレベーターの中という密室空間。特に何階に行きたいという事も無いので、他の人が乗ってきてしまうと気まずくなるだろう。


 私は逃げるように鏡結界の中へと入った。


 そして、先ず目の前に飛び込んできたのは二人の知り合いの姿で、それも殺し合っているように見える。




「え、えーっと……」




 私は困惑の声を漏らしたが、二人は集中しているのか私の存在に気がつかない。


 だから、もう少し周りを観察して見た。




『荒野ね……』




 脳裏に響く玲奈ちゃんの声。


 その通りであり、今回の鏡結界は荒野のようだ。荒れ果てた大地には大きな亀裂が枝分かれしており無限に続いている。見渡す限り緑といった要素は皆無であった。


 しかし、問題はそこではないだろう。一番の問題なのは目の前で戦闘を繰り広げるイデアを持った二人。その二人とはクロノさんと骸で、周りにはマストソルジャーの死体が無数に転がっていた。




「な! おまえは!」




 恐らく、マストとしての仕事を果たすクロノさんと骸はこの鏡結界で鉢合わせになった。そして、成り行きで戦闘が起き、クロノさんの部下であるマストソルジャーは全滅。


 そう推測していると漸く私の存在に気付いた二人は一度戦いを止めた。


 クロノさんは明らかに吃驚していて、骸は仮面なので表情は分からないが戦いを止めたという事は私が気になるのだろう。まあ、その反応を妥当だ。


 何故なら、もう関わらないと思っていた人物が戦いの真っ最中に現れたのだから……




「また迷い込んだのか?」




 ふと骸はそう言った。その態度からは呆れた様子が見て取れる。


 きっと私がまだ悩んでいて、こうして鏡結界に誘われた。そう骸は思っているのだろう。そして、それが面倒とも思っている。




「いや、私はヌシを倒しに来ただけだよ」




「はぁ? ヌシならさっき殺したぞ。この鏡結界は崩壊していく……というかどうやってヌシを倒すつもりだったんだよ」




 クロノさんはジト目で責めてくるが、私は気にせず、次の目的を考える。


 ヌシは既に討伐されているとなるとこのまま帰ってもいい。しかし、目の前には骸がいるのだ。これはいい機会だろう。あの時の仕返し、情報を引き出すのには丁度いい。




「クロノさんは下がって……後は私がやる……」




「いや、だからどうやって……ッ!」




 クロノさんは私を止めようとしたが、シンパシーイデアに気がついたのだろう。途中で思いとどまった。


 傍から見ればクロノさんはまるでエラーでも起こしたかのようで、骸は訝しく思ったのか目を細めている。どうやらまだ私のイデアに気がついていないようだ。


 まあ、当然骸は私がイデアを持っていないと思っているので仕方がない。その理由は彼が直々に私のイデアを破壊したからであり、そんな骸にイデアを見せたらどういう反応をするのだろう。


 気になった私はニヤリと怪しい笑みを浮かべてから、骸にイデアを向けた。




「私にはこれがある……」




「ほぅ……手に入れたのか……」




 それは宣戦布告でもあり、私の力を示すため。お前と同じ土俵に立った。負けないぞ。という私の意思があったのだが、骸はそれを感じ取ったのか、微笑を浮かべていた。




「何が可笑しいの?」




「いや、またイデアを持ったとして、気持ちが変わっていないなら、お前はまた俺に負ける」




 滑稽だ、と言った風に嘲笑してくる骸。


 表情は相変わらず見えないが、雰囲気や言動から私を舐めているという事が察せられる。




『文音、さっさとこの前の仕返しをしましょう』




 そんな骸の態度に玲奈ちゃんは苛立ちを覚えたのだろう。それは私も同じで、早速イデアを使って変身をした。


 身体の内側から力が湧いてくる感覚に、玲奈ちゃんを身近に感じられる温もり。前は風邪を引いていたが、今の体調は万全。私は骸にこれっぽちも負ける気はしなかった。




「いくぞっ!」




 やがて骸から襲い掛かってくる。


 大剣を軽々しく扱う、その一閃はとても研ぎ澄まされたものではない。恐らくは私の動向を窺う一撃なのだろう。


 そうなると次の攻撃が本命か? そう思いつつも私は攻撃を後ろに下がって避けた。




「どうした?」




 骸はまだまだ斬撃を放ってくる。しかし、どれも本気を感じられず、空気を斬るだけ。適当に剣を振るっているようにしか見えず、私は身体を捻ったり動かしたりするだけで簡単に回避する事が出来た。




「今度はこっちからいくよ!」




 あまりの骸の手の抜きよう。いくら何でも私に失礼だろう。


 痺れを切らした私は攻める宣言をすると、骸の大剣を刀で受け止める。そして、流れるような動作で骸の腹目掛けて渾身の蹴りを放った。




 ガキッ!




 鳴ったのは肉が打たれる鈍い音ではなく、硬そうな金属音。私の蹴りは手応えが無く、骸の腹ではなくてまるで鉄板を蹴ったようだ。




「俺の装甲は普通よりも硬い。そんな蹴りでは衝撃もこない」




 淡々と述べた骸は剣を再び私に振り下ろしてくるので、私は大きく後ろに跳んで距離を取った。




『あの装甲……厄介ね……』




 脳裏に聞こえる玲奈ちゃんに私は同意し、骸の装甲を見つめる。


 あれを破る手段は二つあるだろう。いくら装甲が厚いと言っても関節部分は薄くなっている。そこを攻撃するか、あるいは装甲を貫通するほどの攻撃をするか……




「確かに前よりは格段に動きが良くなっている。どういう心境の変化があった?」




 私に質問を投げ掛けながら、骸は一気に間合いを詰めてきた。


 咄嗟に私は斬りかかり、骸はそれを軽くいなすと私の首を撥ねようと大剣を水平に斬る。




「くっ! 私はただ骸が言っていた言葉を思い知っただけ!」




 それを見切った私は刀を自分の首の横に持ってくると同時に大きく身体の重心を後ろに倒す。




「ほう? なら今はどう思っている?」




 首を撥ねられることを回避した私だったが、身体のバランスを崩し、このままでは後ろに倒れ込んでしまう。そうなると大きな隙になる。


 だから、私はブリッジをするように地面に両手を突くと、そのままバネのように身体を飛ばした。その最中、私は骸の顎に蹴りをお見舞いしておく。


 勿論、そんな攻撃は骸には効かない。だけど衝撃から視線を上へ上げる事は出来た。私の目的である隙を作る事は成功し、無事に態勢を立て直す事が出来た。




「小賢しい真似を!」




 まんまと私の攻撃を喰らったのが悔しかったのだろう。


 明らかに逆上しながら骸は大剣を振り下ろしてくる。今までとは違い、冷静さの欠けた攻撃だったので、今はチャンスと思った私は正々堂々に迎え打つ。




「私は玲奈ちゃんだけでない……皆を救う!」




 そんな私の想いに共鳴するかのように、刀は光輝く。青白く、まるで星の光を宿しているような刃は骸の刃とぶつかった。


 鍔迫り合い。


 私はまだまだ余裕があり、身体の底から力が溢れてくる。それに比べて骸は辛そうに唸り声を漏らしていた。




「ぐぁっ!」




 勝った。そう確信して、一気に力を込めると骸の大剣は弾き飛び、遠くに落ちる。




『やるじゃない……昔と比べると物凄く強くなっているわよ』




『ありがとう……』




 玲奈ちゃんに褒められて喜んでいる場合ではない。


 笑みを浮かべるのは心の中の玲奈ちゃんだけにすると、私は刀を骸に向けた。


 特に意図のない、強いて言えば下手な動きをすれば殺す。そんな私の行動に骸は気が抜けたかのように笑い出した。




「お前の考えは分かった……」




 もはや殺気はなく、殺し合うつもりもないのだろう。


 ただ私を見つめてくる。きっと私の中の真意を確かめているので、私は真剣に見つめ返した。




「もう殺し合う事も無い。何故なら、俺もお前も目的が同じだからだ」




「なら、手を組みませんか?」




 目指す所が同じなら、協力し合った方が効率的だろう。そう思って提案したのだが、骸は特に驚く事もせず、ただ自分のイデアである大剣を回収しに向かった。




「ちょっと待て!」




 しかし、一番に反応を示したのはクロノさんで、大怪我をしているのに身体を動かそうとしているのを見る限り必死さが窺える。




「そいつと手を組むという事はマストと敵対するって事だぞ! 折角、もう一度イデアを手に入れたんだから、こっち側に着くべきだ!」




「ごめんね、クロノさん。私は色々と現実を思い知ったんだ。この前会った時に言っていた、玲奈ちゃんの秘密だって知っちゃった……」




 そう、私は現実を思い知った。鏡結界に幸せを潰されてしまった色んな人たちの事を。だから、此処で諦める訳にもいかない。同じ目的を持つ骸と結託するのが、最善策なのだ。




『私はどっちでもいい。文音の意見に従うわ』




『ありがとう……』




 賛同してくれる玲奈ちゃんにお礼を言うと、私は騒ぐクロノさんを無視して骸とアイコンタクトを取った。


 といっても骸の目は仮面で隠れているのだが、何となくついてこいと言っているような気がしてならないが、手を組むことには反対するような雰囲気は見られないので、私はそれに従えばいいのだろう。


 すると骸は鏡結界から脱出したので、私はその後を追った。




『どうしたのかしら?』




 心の中に響いた玲奈ちゃんの疑問。


 何に対して疑心を抱いているのか? それは骸であり、理由は私でも見当がつく。


 鏡結界を出たのはいいが、骸は変身を解除しないのだ。あのロボットのようなごつい格好のまま、町中を駆け巡っている。一応、人目に付かないように気を使っているのか、路地裏を通ったり、屋根の上を移動したりとアクティブだろう。追いかける私の身にもなって欲しい。




「はぁはぁ……到着?」




 やがて骸が立ち止まったのは山奥。私と玲奈ちゃんが帰り道に使っている山道よりもさらに奥の、誰も人が来ないような暗い場所だ。


 そんな場所に来たのはいいが、私は疲れてしまった。喉はからからと渇き、身体は潤いとやすらぎを求めている。




「すまないな。俺には拠点という場所がない。普段は鏡結界やこういった山の中で過ごしているんだ。此処で休憩しよう」




 漸く骸は心を開いてくれたのか、普通に話しかけてくれるだけでなく気を使ってくれた。


 しかし、それよりも私は喉の渇きから段々と意識が朦朧としてくる。気温は夏が近いからか高く、熱中症になったのでないだろうか? 兎に角、早く水分を摂りたい。




『水ならすぐそこにあるじゃない』




『え? 確かにあるけど……飲めるの?』




 玲奈ちゃんの言葉に私はハッとした。しかし、冷静に考えると躊躇してしまう。


 私の横には川が流れているのだ。見た感じは透き通って綺麗だが、自然の物なので腹を壊さないか心配だろう。




『この辺りの川の水は綺麗だから大丈夫よ。私の経験がそう物語っているもの』




『飲んだんだ……』




 過去に飲んだことがある口ぶりの玲奈ちゃんを信用して、私は川に手をつけた。


 冷たい感触。真冬だったら死にたくなるが、暑い今なら天国のようだ。私は顔を洗うとそのまま口にした。


 水分補給のために川の水を飲むなんて行為は初めてしたが、感想は普通。少し土の味がするだけで、普通に飲み込むことが出来た。




「終わったか?」




「うん。物凄く疲れた……」




「……取り敢えず、俺たちは手を組んだ。つまりは仲間だ。まずは情報交換をしよう」




 不満を訴える私の視線を無視して、骸はそう言ってくる。


 その提案は妥当であり、特に異論もなかったが無視をされた私は不服に思ってしまった。




「先ず、私から話すね」




 だけど、その感情をずっと持っていても仕方がないので、切り替えると私は今までの経緯を含めた情報を話し出した。


 友人から龍の話を聞いたこと。そして、最近マストの関係者にあって龍の目計画を知った。主にその事について話したが、人物の名は伏せておく。まだ完全に骸を信じた訳ではなく、単純に話す必要がないと思ったのだ。




「龍の目計画か……そうか。そういう計画だったのか……」




 納得している骸。きっと骸も知らない話だったのだろう。事実、私だけでなく、恐らくはデンさんや霧風さんも知らない計画。マストの研究所を襲ったとしても分からないような計画だろう。




「次はこっちの話だが、もう龍の出現条件は分かっている」




「本当ですか!」




「ああ、興奮する気持ちは分かるが、落ち着いて聞いてほしい」




「ご、ごめんね!」




 あまりの驚きから無意識の内に私は骸に詰め寄ってしまった。


 冷静になると取り乱した事を恥ずかしく思い、私は近くにあった岩の上に座って俯き、耳を澄ます。骸の話を聴く態勢に入ったのだ。




「先ず龍が出現する条件は天候が悪い日だ。悪ければ悪いほど出現率が上がる」




「そうなんだ。あっそういえば……」




 心当たりがあった私はまるでパズルのピースが思いもよらない所に嵌まったかのような感覚に陥る。


 そうだ、思い返していると私と玲奈ちゃんが龍に襲われた時、あの日の天候は物凄く荒れていた。今にも嵐のくるような感じだっただろう。




「そして、明日は嵐だ……」




「え?」




 思わず空を仰いでみるがそんな予兆は無い。確か天気予報では晴れだったような気がするが、骸がそう言うなら本当なのだろう。


 明日になれば龍に会える。玲奈ちゃんの命を奪った、あの忌々しい龍に会えるのだ。




『文音? その気持ちは嬉しいけど、冷静に行動しなさい』




 どうやら殺気が漏れていたようだ。


 玲奈ちゃんに注意された私は深呼吸をして気分を落ち着かせ、明日がとても待ち遠しく思った。




「だけど一つだけ問題がある」




「問題?」




「ああ、鏡結界だ。肝心の龍の鏡結界が見つかっていない」




 確かにそうだ。龍が鏡結界のヌシとして、それなら住処は一体何処にある? いや、そもそもどうやって龍は鏡結界から出てきている? 慮ってみると様々な疑問にぶつかり、私は先輩でもある玲奈ちゃんに質問をしてみた。




『そうね。普通、鏡結界は成長すると人間を誘い込むだけでなく、使い魔を外に飛ばして力を得ていく。大きくなるほどに鏡結界も大胆になっていくのよ……』




『つまり、あの龍は使い魔?』




『その可能性もあるわね。でも龍の目計画という異質の鏡結界。ヌシが直々に外に出てきても可笑しくはない。私が気になるのは鏡結界の位置よ』




『位置か……』




 鏡結界は一体何処にあるのだろう。龍の目計画の鏡結界なので相当大きいのだろうが、骸が見つけていないとなると普通ではない場所にあるに違いない。それ故に私では推測ですら出来ない。




「だから明日は出てきた龍を負傷させ、逃がそうと思っている」




「鏡結界に逃げ込むところを追跡するんですか?」




 私の発言に骸は頷いて肯定した。


 確かにそれが出来れば鏡結界の場所を特定できるので、良い作戦だろう。何の文句なく、納得しているとふと思った。




「そういえば変身は解かないんですか?」




 私が疑問に思ったのは骸の姿だ。未だに変身をしており、相変わらず硬い仮面を被っている。


 完全に私の事を信頼していないのかもしれないが、私は此処についた時から変身を解いているのだ。そんなに警戒する事も無いだろう。




「解けないんだ」




「え?」




「マストから盗んだオルタナティブイデア。これはイノベーションイデアの試作品だ。故に高い出力を出せるが、デメリットとして変身が解けない」




 イノベーションイデアとは霧風さんやクロノさんが使っているマストの標準装備のようなもの。それの試作品となるとオルタナティブイデアが異質な事が納得出来た。


 しかし、変身が解けないというのは不便だろう。イデアが破壊されない限り、一生そのままという訳だが、それは骸の意思の強さを表しているようにも思える。


 自分の人生を放り投げてまで、龍を倒して力を得たい。鏡結界を何とかしたい。そういう想いが伝わってきた。








 それから暫く、真上には夜空が広がっていた。


 骸はマストの動きを警戒しているらしく、見回りにいったので此処にいるのは私と玲奈ちゃんだけ。


 空を仰いでみると幾千の星が光り輝き、私を照らしている。電灯といった人工的な光で溢れる街中では見られない神秘的な光景だろう。




『文音……』




『うん、大丈夫。明日で終わりにする……』




 心配をしてくれる玲奈ちゃんに私はそう言った。


 何の根拠もない事だが、何だか明日で全てが終わりそうな気がするのだ。尤も、善となるのか、悪となるのかは分からないが、それでも私は全力で挑まないとならない。




『……これが終わったら大切な話があるの』




『…………』




『隠してきた事なんだ……聞いてくれる?』




 私はずっと玲奈ちゃんが欲しかった。愛らしい彼女を独占したかった。だけどずっと我慢してきたのだ。玲奈ちゃんが男子と仲良くしている所を見つけて、じっと自分の感情を殺してきた。


 その所為で一度は玲奈ちゃんと喧嘩をしてしまった。離れ離れになってしまった。


 女の子同士という事や、今の関係が壊れるのを危惧して、私は現状を維持していた。だけど、もう我慢できない。今すぐにでも好きと、たった一言を伝えたかったが明日が明日なので、玲奈ちゃんを困らせてしまうだけ。


 だから、何の話か分からないほどに濁す事しか出来ない。




『ええ、いいわよ』




 至って平然とした様子で返答する玲奈ちゃん。きっと私が告白をするなんて思ってもいないのだろう。


 そう思うと今から告白をする訳でもないのに心臓がばくばくとして煩い。それどころか顔に熱が帯びるのを感じ、とても切ない気持ちになった。




『ほら、明日は早いかもしれないから仮眠をとりなさい。骸にも言われたでしょう?』




『う、うん……』




 玲奈ちゃんに促され、私は寝転ぶ。といっても川の真横の岩の上だ。少し肌寒い気がして、何よりも岩が硬い。それに熊といった野獣が出るかもしれないし、安眠する事が出来ない。




「安心しなさい。もしも危険が迫ったら起こしてあげるから……」




 臆病な私の気を感じ取ったのか、玲奈ちゃんは私から出ると微笑んでそう言った。


 寝転んだ私の横に座っている、玲奈ちゃんの姿は月の光に照らされて、妖艶で美しい。髪一本一本が光を反射して艶を出していて、肌も雪のように白いが病的な青白さではない。とても死んでいるようには見えなかった。




「おやすみ……」




 玲奈ちゃんがそう言うと私は眠気に襲われた。


 今日は勉強、それと運動ついで鏡結界へといって骸に会った。そして山奥の此処まで全速力で来たのだ。身体は疲労しており、本能は睡眠を求めている。そんな時に玲奈ちゃんのやすらぎを感じてしまったら、寝るなというのが無理な話だった。


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