SUMMER FALL #10
東部署を離れた甲山と草加は、蓑部の行方を追っていた鴨居と仲町に合流した。覆面パトカーの後部座席に乗り込んだふたりに、甲山が訊いた。
「どうだ?」
「いや〜全然ダメッス。手掛かり無しです」
鴨居の返答に続いて、仲町がボヤき気味に言った。
「付近での目撃証言も得られませんでした、タクシーでも拾ったんじゃないですか?」
「有り得る」
草加が受けた隣で、甲山は思案顔で煙草に火を点けた。
「どうします、甲山さん?」
鴨居の問いに、甲山はたっぷりと主流煙を吐き出してから答えた。
「蓑部の目的が吉成だって事はハッキリしてる、だが何で半年も時間をかけてるのかが判らん。その間にあのキャバクラの女に近づいた理由もな」
「つまり、その辺の動機が見えないとどうしょうも無いと」
草加のフォローに頷いてから数秒置いて、甲山が何かを思いついた様に再び口を開いた。
「妹の遺書に、確か身体を売らされたとか書いてあったな?」
「え? ああ、はい。ありましたね」
答える草加の後ろで、鴨居と仲町が揃って
「どう言う事です?」
鴨居に訊かれて、甲山は煙草を揉み消しつつ答えた。
「蓑部の妹は、兄貴宛に遺書を送って自殺した。それが部屋に残っててな、恐らく蓑部が持って来たんだろう。そこにそう書いてあった」
「て事は、売春?」
鴨居が目を丸くした。甲山が舌打ち混じりに続ける。
「遺書の内容を
「だとしたら
草加が応じた後ろで、鴨居が再び疑問を
「でも売春なら、裏でヤクザと繋がってるんじゃないですか? そっちの線で
「どうかな? 売春だからって必ずしもヤクザの手を借りなきゃならんって訳でもねぇだろ。もしも吉成が顧客の層を
そこまで答えて、甲山の眉間に深い皺が刻まれた。口元に手を当てて考え込み始めた甲山に、草加が
「どうしたんスかコーさん?」
甲山はすぐには答えず、更に数十秒間を置いてからやっと言った。
「まさか、売春の証拠か?」
「えっ?」
草加のリアクションに、甲山は顔を上げて答えた。
「蓑部は最初、吉成に直談判しようとしてあの女秘書に追い返された。売春の事実を直接
鴨居が身を乗り出して同調した。
「なるほど、吉成が気を許してる女なら、怪しまれる事はありませんからね!」
「ても、じゃあ何で蓑部は美和と揉めたんです?」
今度は仲町が疑問を発し、草加が肩越しに振り返って答えた。
「そりゃアレだろ、証拠を手に入れた美和が
「はぁ、そんなもんですかね」
首を
「トオルはまだまだ女の経験が足りん様だな」
「ま、これからじゃないスか」
草加が応じると、仲町は馬鹿にされたと思ったのか頬を
「でもそうなると、蓑部は売春の証拠を既に持ってると考えた方がいいですよね? そうなると今度こそ吉成に接触しようとするんじゃ?」
頷いた甲山が腕時計に目を落とすと、午後十二時を過ぎていた。
「とにかく、蓑部を見つける事が先決だ。それと、吉成の方も調べた方が良さそうだな」
「コーさん、
草加の指摘に、甲山は二、三度首を縦に振ってから言った。
「よし、俺達は吉成を張る。お前等は吉成のモデル事務所について調べてみてくれ。だがその前に――」
「その前に?」
草加が訊き返すと、甲山が口角を吊り上げた。
「昼メシだ」
「あー! そう言や腹減ったな!」
同意した草加が、再び肩越しに後部座席を振り返った。視線を感じた仲町が表情を曇らせる。
「何ですか草加先輩?」
答えたのは草加ではなく、二本目の煙草を取り出した甲山だった。
「トオル! 任せたぞ」
言葉の意味を察した仲町があからさまに嫌な顔をした。
「やっぱパシリじゃ〜ん、嫌ですよ俺〜、鴨居さん行ってくださいよ〜」
「え、いやいや何でよ」
指名された鴨居が慌てて反駁すると、見かねた草加が提案した。
「しょーがねぇな、じゃコインで決めろよ」
「はぁ? それ草加先輩と甲山先輩入ってませんよね? おかしいでしょ」
仲町の鋭い指摘に、草加が舌を出す。そこへ、煙草に火を点け終えた甲山が右拳を突き出した。
「判った、これなら文句ねぇだろ」
甲山の提案に頷いた仲町が、隣を見た。見られた鴨居も不承不承頷き、覆面パトカーの中でジャンケンが始まった。
《続く》
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