SUMMER FALL #9
蓑部を見失った甲山と草加は、『神庭荘』に戻って改めて話を聞いた。どうやら蓑部は、祥子が自殺して
「蓑部の奴、上手くやってやがったな」
管理人の部屋を出た甲山が言うと、草加が頷いて返した。
「人目のつかない時間に出入りしてたんでしょうね。案外、上京してからの宿泊費用が底をついたのかも知れませんけどね」
「ともかく、妹の部屋を調べよう」
ふたりは白手袋を
「独身女性って感じだな」
独りごちる甲山に、草加が呼びかけた。
「コーさん! これ!」
「何だ?」
振り返った甲山に、草加が歩み寄って折り目の付いた
『兄さんへ
先立つ不幸をお許しください
社長に体を売らされました
もう生きているのが辛い
ごめんなさい
祥子』
手書きの
甲山は草加に便箋を返すと、苦虫を噛み潰した様な顔で言った。
「やっぱり奴の狙いは吉成か」
「妹を自殺に追い込まれた恨み、ってとこッスかね」
同調した草加が、化粧台に置かれた封筒に便箋を入れた。表に書かれた宛先は高知県内の住所だった。恐らく蓑部兄妹の実家だろう。
他にめぼしい物も見つけられぬまま、ふたりは祥子の部屋を出て覆面パトカーに戻った。甲山が無線機のマイクを取り、分署を呼び出すと、スピーカーから仲町の声が返って来た。
「おぅ、トオルか。蓑部の
『それが、蓑部は半年前に突然会社を辞めてますね』
仲町の返答の後に若干の雑音が入ったかと思うと、無線の向こうの声が鴨居に変わった。
『鴨居です。あちらの会社から、蓑部の顔写真をメールで送ってもらったんですがね、マンションで撮影された男の顔と一致しました』
「決まりだ」
運転席で呟く草加の横で、甲山が鴨居に告げた。
「判った。実は蓑部が妹の部屋に
『了解』
鴨居の返答を待ってマイクを置いた甲山が草加に指示し、
ふたりは覆面パトカーを『警視庁
先に立って歩く笠松に、甲山が質問した。
「蓑部祥子ですが、どの様な形で自殺を?」
「風呂場で、水を張った
少し
「あ、いや、そこ疑ってる訳じゃないんで」
「じゃあ何です?」
足を止めて訊き返す笠松に、甲山が質問で返した。
「蓑部祥子の兄にお会いになりましたか?」
「あ、ええ、会いましたよ。ご遺体の確認に来ましたから。何でも早くに両親を亡くしたとかで、他に身寄りが無いらしかったですよ。そのお兄さんが何か?」
笠松が必ず質問で終わるのは刑事らしいと思いつつ、甲山は真顔で答えた。
「ある事件の重要参考人として行方を追っています。情報がありましたら是非とも我々にご連絡を」
「重要参考人?」
瞠目する笠松に
《続く》
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