SUMMER FALL #3
鑑識による現場検証が終わったのは、陽も傾きかけた午後六時過ぎだった。甲山と草加は地域課の黒パトに相乗りして分署に戻った。だが正面玄関からは入らず、駐車スペースを回って裏へ行き、自販機で缶コーヒーを買いつつ近くに立てられたスモークスタンドを囲んで一服した。空へ向けて主流煙を吐き出してから、草加がボヤいた。
「しかしまぁ、面倒臭くなりましたね」
「全くだ」
甲山も苦笑して応じる。
以前は、本署の監視の目が行き届かないのを良い事に室内で煙草を吸っていたのだが、新たに
たっぷり十分近くかけて
「おう、ふたりとも御苦労さん」
目黒の
仲町がホワイトボードへの書き込みを終えた所で、鴨居が口火を切った。
「えーと、被害者は田辺美和、二十六歳。神尾町のクラブ『Red Rose』勤務、独身」
「源氏名は『カレン』ちゃん」
草加の茶々に無言で頷き、鴨居が続ける。
「死亡推定時刻は昨夜の午前零時から零時半の間、死因は脳挫傷で、それとは別に背中の、
言い終えた鴨居が、遺体の背中を写した写真をホワイトボードに貼った。身を乗り出して写真を見つめた甲山が言った。
「欄干に強く押し付けられた跡かな?」
「はい、検屍官の見立ても同じです」
鴨居が答えた後に、仲町が口を開いた。
「第一発見者は近所に住む六十代の男性、犬の散歩で河川敷を歩いていて見つけたそうです。今の所、犯行当時の目撃者は出てません。また、現場付近に防犯カメラ等は見当たりませんでした」
「駅のホームから見えるんじゃないか?」
甲山の問いに、仲町が眉間に皺を寄せて答えた。
「それが、昨日は日曜日だったから
「日曜か、こんな仕事やってると、曜日感覚無くなっちゃうもんだね」
草加が
「えー、まずはマル害の所持品のバッグですが、入っていた財布とその中の現金やカード類、身分証等は残っていましたが、携帯電話の類は見当たりませんでした。モバイルバッテリーがひとつ入っていたので、所持していた事に間違いは無いと思われます。一応現場付近を捜索しましたが、その手の物は見つかりませんでした。また、甲山主任の指摘で判ったのですが、自宅マンションの出入りに必要なカードキーが持ち去られている様です」
「
目黒の質問に、西村が視線を資料に落としつつ答えた。
「マル害本人の物以外に、もうひとり分の指紋が出ました。
「ホシのだな」
甲山が言うと、草加が頷きながら
「そうッスね、しかも素人」
「て事はやっぱり、
鴨居の問いに、目黒が
「決めつけるのは早いぞ。あらゆる可能性を想定するんだ」
「ウッス」
「で、マル害のヤサの方は?」
甲山が顔を上げて、西村を促した。
「はい、マル害のマンションはセキュリティがかなり行き届いていて、エントランスには
「部屋の中は?」
また目黒が訊くと、傍らで草加が小声で言った。
「派手にやってたもんなぁ〜」
西村は草加を
「部屋の間取りは3LDKですが、風呂場とトイレ以外は徹底的に荒らされてました。ただ余りに
「大分オトコ連れ込んでたんスかね」
草加が甲山に顔を寄せて呟き、甲山は眉を上げた。
「その中に、マル害のバッグに付いていたのと同じ指紋がありました」
西村の報告に、甲山が頷く。
「決まりだな」
西村が「以上です」と告げて立ち去ると、目黒が椅子から腰を上げて指示した。
「よし、甲山と草加はマル害の職場を当たって、
「さぁ、行こうか」
甲山の号令で、四人は動き出した。
《続く》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます