SUMMER FALL #2

 西村から聞いた住所を頼りに、甲山と草加は徒歩で田辺美和の自宅へ向かった。だが、辿たどり着いた途端とたんにふたりは途方に暮れる羽目におちいった。

 該当がいとうする住所にったのは、八階建ての高級マンションで、正面玄関にはテンキーや小型モニター等がはまったパネルがふたりを通せんぼする様に屹立きつりつしていた。よく見ると、モニターの脇にカードを当てるタッチパネルが付いている。

「うわ〜、面倒臭い奴だよ」

 草加のボヤきをスルーした甲山は、西村に電話をかけて遺留品の中にカードキーらしき物が無いかを確かめさせた。程なく、それらしき物は見当たらないとの返答を受けると、電話を切って草加に言った。

「管理会社に連絡して開けて貰おう」

「了解」


 たっぷり二十分近く待たされて、ふたりはようやくマンションの中に足を踏み入れた。事情を知った管理会社の担当者は顔を引きつらせながら、ふたりを被害者ひがいしゃが住んでいた七○二号室へ案内した。途中で、草加が小声でこぼす。

「クラブのホステスって、こんなトコ住めるんスかね?」

「金回りの良いコレが居たんだろ」

 甲山は担当者から見えない様に控えめに親指を立てて答えた。

 担当者がマスターキーを使って開けたドアをくぐって、ふたりが中に入った。先に入室した草加が、「ここにひとりで住んでたのかよ?」と独りごちながら片っ端からドアを開けていた。最初に開けたドアの奥から漂う強烈な芳香剤ほうこうざいの臭いが、甲山の鼻にも届く。どうやらトイレらしい。

「うわ、臭いキツ」

 顔をしかめてドアを閉める草加を横目に、甲山は三和土たたきの脇にあるシューズボックスを確認した。中ではいかにも水商売らしい派手めなパンプスと、至って庶民的しょみんてきなサンダルが混在していた。

 バスルームを覗き込む草加を尻目に廊下を進んだ甲山は、突き当りのドアを開けてリビングダイニングルームに足を踏み入れた。途端に、甲山の表情が引き締まる。

 四十インチの液晶テレビを載せたテレビ台や、その側に鎮座ちんざするソファセット等の調度品ちょうどひんが荒らされていた。振り返って対面式キッチンを見ると、やはりシンク下の扉や引き出しに物色した形跡がある。眉間みけんしわを寄せて舌打ちした甲山の耳に、草加の声が飛び込んだ。

「コーさん!」

「どうした!?」

 取って返した甲山は、開け放たれたドアの中へ駆け込んだ。

 その部屋は被害者が寝室として使っていたらしく、ほぼ中央をセミダブルのベッドが占拠せんきょし、頭の方の脇に化粧台が設置されていた。その化粧台の全ての引き出しも、ベッド下の収納スペースも、何者かによって物色されていた。ベッドの足側に立って室内を見回していた草加が訊いた。

「やっぱ、カードキーを持ち去ってたらしいッスね」

 甲山は無言でうなずきつつジーンズのポケットからスマートフォンを取り出し、分署に電話をかけた。

『はい、刑事課分室』

 電話に出た目黒万作めぐろまんさく室長に、甲山が言った。

「甲山です。マル害のヤサですが、何者かが宝探しした様ですな。鑑識と、現場封鎖ふうさの為に地域課に応援頼みます」


《続く》

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