Hello! あぶない新署長 #11

 鴨居達が現場に到着すると、既に野上駅前交番から出動した巡査がふたり、店員や客に聞き込みをかけていた。鴨居と仲町は野次馬をかき分けて巡査達に近づき、身分証を提示しながら訊いた。

「状況は?」

 店員に聞き込みをしていた年嵩の巡査は、鴨居と仲町の顔を見て「プレハブか」と呟いてから説明を始めた。

「え〜、数十分ほど前に、店にヤンキー風の二人組が入って来て、誰か探している様子で店内をうろついていたら、突然奥から少年がエアガンか何かをその二人組に向かって発射し、二人組がひるんだ隙に出入口から逃走、二人組もすぐに後を追って店を飛び出したそうです」

 頷いた鴨居は、カーゴパンツのポケットから坂爪の顔写真を取り出して店員に見せた。店員が「間違いありません」と認めると、鴨居は写真をしまいつつ更に訊いた。

「その二人組の背格好とか教えてくれませんか?」

 答えたのは店員ではなく巡査だった。

「ふたりとも中肉中背、片方はニット帽に革のライダースジャケット、もうひとりはドレッドヘアに口髭、ワインレッドのパーカーを着ていたそうです」

「そうですか、どうも」

 忙しなく会釈した鴨居は、仲町を伴って店を出た。

「手分けして探そう。それとトオル君は、課長に連絡して応援出してもらって」

「判りました」

 請け合って覆面パトカーに向かった仲町を見送り、鴨居は周囲を見回してから走り出した。


「判った。くれぐれも慎重にな」

 仲町からの連絡を通信司令室で受けた目黒の傍らで、島津が口を開いた。

「取り敢えず、地域課にも協力を求めましょう」

 目黒が頷くより早く、島津は司令室を出て森本に呼びかけた。

「森本室長」

 それまで自分のデスクで司令室での様子を心配そうな顔で窺っていた森本は、島津が何か言う前に立ち上がり、力強く頷いて見せた。

「動ける者は全員、野上駅周辺に向かわせます」

「お願いします」

 島津が軽く頭を下げると、森本も微笑して頭を下げた。そこへ、司令室の通信器が鳴った。島津が司令室に戻ると同時に、目黒がマイクを取った。

「はい、こちら司令室」

『草加ッス』

「おぉ、何か判ったか?」

 目黒の問いに、草加がひと息吐いてから答えた。

『ええ、今金城組に来てるんですがね、例の似非右翼を使ってる奴が割れました』

「誰だ?」

『傘下の『倉田会くらたかい』の会長やってる倉田豪夫くらたたけおです。倉田の息子が元『ビッグウェーブ』で、今は『日本皇義党』の副会長だそうです、あ、ちょっとコーさんに代わります』

 草加が言葉を切り、数秒後に甲山の声が聞こえた。

『室長、連中はどうやら代議士を狙ってるみたいですな』

「代議士?」

 目黒は島津と顔を合わせて瞠目しながら、オウム返しに訊いた。

『ええ、都議会議員の木下忠政きのしたただまさ、この人がどうも、倉田の所のシノギである裏賭博の摘発に躍起になって、所轄署にも散々ねじ込んでたらしいんですわ。それで倉田の所の下っ端が大分やられたそうで』

 すると、島津が思い出した様に口を開いた。

「木下代議士は、警察OBです」

「何ですって?」

 目黒が驚いて訊くと、島津は目黒を見返して答えた。

「木下代議士はかつて、警察庁生活安全局けいさつちょうせいかつあんぜんきょくに在籍していて、保安課長の時に都内の繁華街の一斉摘発の陣頭指揮を執っていました。五十歳で退官して、都議会議員に転身したのですが、以後も地域の反社会勢力に対しては常に厳しい姿勢を取っているそうです」

「なるほど、倉田たちにしてみれば迷惑この上ない存在な訳だ」

「それに木下代議士は、現在の任期を終えたら国政に打って出る予定の筈です」

『ほぉ、そりゃ益々目障りだ』

 通信器の向こうから、甲山が口を挟んだ。目黒が少し考えてから言った。

「甲山、済まんが鴨居達の応援に回ってくれ。坂爪が見つかった」

『坂爪が? 何処どこで』

「野上駅近くのゲームセンターだ。今鴨居と仲町が付近を探してる筈だ、合流してくれ。『ビッグウェーブ』のメンバーも躍起になって探してる様だから、気をつけろ」

『了解』

 通信を終えると、島津が目黒に告げた。

「室長。僕は、椎名署長に会って来ます」


《続く》



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