Hello! あぶない新署長 #4
翌朝、分署に迷彩服の若者が飛び込んで来た。
「た、大変だ!」
「何だようるせぇな、お前昨日のサバゲやってた奴の仲間か?」
受付に座っていた竹田が、心底嫌そうな顔で訊くと、若者は忙しなく頷きながらまくし立てた。
「はい、あの、た、タコツボの中に、し、し、死体が入ってますぅ!」
「何ィ? ふざけんなよお前等、昨日の今日でそんなホラ吹いて、警察馬鹿にすんなよ!」
竹田が立ち上がって一喝するが、若者は救いを求める様な目で見返して喚いた。
「本当なんですよ! 早く来てくださいよ!」
何か言い返しかけた竹田を、後ろから制したのは森本だった。
「竹田君! その子、嘘吐いてないみたいよ」
「え? じゃあ」
森本は無言で頷くと、刑事課分室に目を転じた。だが目黒はまだ出署していない。奥のソファには、当直の鴨居が仮眠を摂っていた。鴨居の鼻からは時々
森本はデスクを離れてウエスタンドアを押し開け、ソファに歩み寄った。
「鴨居君? 起きてくれる?」
森本が優しく肩を叩いて呼びかけるが、鴨居が起きる気配は皆無だ。
それから森本は肩を掴んで揺すったり、軽く頬を手の甲で叩いたりしたが、鴨居の反応は無い。
業を煮やした森本は、少しソファから距離を取ると、腰に手を当てて大きく息を吸い込んでから、鴨居の耳元に大声を叩きつけた。
「鴨居! 起きろ!」
プレハブ全体を揺るがす程の大音声に脳を強振させられ、鴨居は文字通りソファから跳ね起きた。
「うぉっ!」
全署員と通報者の注目を浴びながら、鴨居は状況を整理する様に周囲を見回し、側に仁王立ちする森本と目が合った。
「あ、も、森本室長」
「おはよう。当直でお疲れの所悪いんだけど、ちょっと行って来てくれないかしら?」
森本の言葉を測りかねた鴨居は、ソファから腰を上げて訊き返した。
「行くって、何処へ?」
森本は表情を引き締めて答えた。
「死体よ」
「死体?」
鴨居の表情も、瞬時に引き締まった。
通報者の後から、面倒臭そうな竹田と寝起きの鴨居が続く。現場は川の中州、通報者達が頻繁にサバイバルゲームを行っている箇所だった。現場周辺には通報者同様、迷彩服に身を固めて手に自動小銃をリアルに
「こ、ここです」
通報者が指差した先には、畳んだダンボールが散乱し、その中央に大きな穴が穿たれていた。その穴を見た竹田が顔色を変えた。
「これ、もしかしてお前等、昨日埋めないで帰ったな!?」
竹田の指摘に、通報者が肩をすくめて答えた。
「すみません、せっかく苦労して掘ったから、何か勿体なくて」
「あのなぁ〜」
「まぁまぁ」
説教しそうになる竹田を制して、鴨居がタコツボの中を覗き込み、瞬時に表情を引き締めた。
「竹田君、
「え? って事は――」
反応して穴を覗いた竹田が、呻き声を上げつつ顔を歪めた。
顔中を青痣だらけにした、高校生と思しき男性の身体が、タコツボの中に横たわっていた。
現場周辺がテープで厳重に仕切られ、中では鑑識が動き回っている。その傍らでは、呼び出しを受けた刑事課分室の面々がサバイバルゲームのメンバー達から事情聴取を行っている。タコツボの脇では、応援の地域課分室員が、
担架に乗せられた死体を見て、石倉が言った。
「しかしまぁ、随分念入りに整形したもんだなぁ」
「本当、酷い事しますね」
横から鴨居が口を挟む。石倉はひとつ頷いてから更に言う。
「ああ。徹底的と言うか、加減を知らんと言うか。まぁ詳しくは検視してからだ」
「妙ですねぇ〜」
突如後ろから聞こえた疑問に反応した鴨居が振り向くと、いつの間にか島津が来ていて、手を後ろに組んで現場を見回していた。
「しょ、署長? いつの間に、つーか、何が妙なんスか?」
鴨居が尋ねると、島津は視線をタコツボに向けたまま答えた。
「見た所、この穴は掘った後にダンボールを被せて、その上から土をかけて埋めた様に偽装していたんですよねぇ」
「ええ、そうらしいッスね」
「その穴に死体が収まっていて、偽装もそのままだった」
「はい、そうスね」
「おかしくありませんか?」
「は?」
島津の指摘を理解できずに戸惑う鴨居に、島津が更に続ける。
「そうでしょう、彼等がこの穴を掘ったのは昨日の午前中、森本室長達の指示で埋め戻したと見せかけて偽装したのは昨日の昼間、そして死体を発見したのは今朝。つまり、この穴は掘られてまる一日くらいしか経過していないんですよ、その穴の存在を、どうやって犯人は知ったんですか?」
「あぁ、あ!」
「なぁ君達、この穴の事、って言うか、この穴を埋めた様に偽装したのを知ってるのは、君達以外に居るか?」
「何だ急に?」
事情聴取をしていた甲山が戸惑い気味に訊くが、鴨居はそれを手で制してメンバーを見回す。すると、通報者が一歩前に出て答えた。
「いや、この事は俺達しか知らないです。カモフラージュしてんのバレない様に、周りには気をつけてたし」
そこへ島津が割り込む。
「今日は、昨日と全く同じメンバーで来ているんですか?」
「え? あ、いや、ひとり来てません」
通報者が答えると、状況を察した甲山が入って来た。
「そいつの名前と住所は?」
《続く》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます