恥さらしの島流し #13
鴨居と甲山が鬼頭課長の部下から聴取を行っている最中、甲山のスマートフォンに草加から電話が入った。どうやら分署から抜け出してこちらに到着した様だ。電話を切った甲山が鴨居に告げた。
「下に草加が面パトで来てるから行ってくれ」
「え? でも、マル害の同僚への聴取がまだ――」
異を唱えかけた鴨居に、甲山が1日言い返した。
「そりゃ俺がやっとく。それにあの写真の男が戻って来るかも知れないだろ」
「あ、ウッス」
頷いた鴨居は、後を甲山に任せて社外へ出た。すぐに覆面パトカーを見つけて駆け寄る。
鴨居に気づいた草加が、運転席から身体を伸ばして助手席側のドアロックを解除した。助手席側に回り込んだ鴨居は、一度周囲を見回してから車内に身体を潜り込ませた。
「お疲れ様ッス」
「いや~大変だったぜ。まぁ室長とトオルは今も大変だけどね」
おどけた表情で言う草加に、鴨居は篠崎真由子の部屋で撮影した写真を見せて説明した。
「この男、どうもマル害と不倫関係だったみたいで」
「へぇ、不倫なの。人は見かけによらんね」
「それで、オレ達がここに来た時に外へ出て行くのを見かけたんスよ。だから甲山さんの指示で、戻って来たら事情聴取しろって」
「あっそう。で、コーさんは?」
頷いた草加の質問に、鴨居がフロントガラス越しに周囲を観察しながら答えた。
「今マル害の上司と同僚に話聞いてます」
「オンナ口説いてたりして」
草加がふざけて言うと、鴨居が真面目な顔で「もうロビーでやりましたよ」と返す。思わず吹き出す草加を横目に外を注視していた鴨居が、「あっ」と声を漏らすなりドアを開けて車を降りた。慌てて草加も運転席から出て後を追う。
鴨居が向かった先を、恐らく外食を終えたと思われる写真の男が社屋に向かって歩いていた。鴨居は男の進路を塞ぐ様に足を止めた。突然の通せんぼに困惑する男に、鴨居は身分証を示しながら告げた。
「すみません、警察の者なんですけど、ちょっとお話を伺ってもよろしいですか?」
「警察? 私に何の用です?」
困り顔で訊く男に、鴨居は周りを見てから小声で言った。
「篠崎真由子さんの事で」
「え? えっと……」
明らかに困惑を深めた男に、鴨居は例のツーショット写真を見せた。
「これ、アナタですよね?」
驚きの連続で二の句が継げない男に、追いついた草加が提案する。
「あ、ここじゃ何なんで、あっちの車で話しましょか」
男は険しい表情で軽く頷き、草加と鴨居に前後を挟まれて覆面パトカーの後部座席に乗った。続いて草加が男の隣に陣取り、鴨居は流れで運転席に腰を下ろす。妙な緊張感を滲ませる男に、鴨居はバックミラーを見ながら質問した。
「まず、つかぬ事をお訊きしますが、アナタお名前は?」
「え? あ、
呼応した宮尾が上着の内ポケットから名刺を取り出し、鴨居に差し出した。受け取ろうとした鴨居の目の前で草加が横取りする。
「ちょっと」
「いいからいいから」
抗議しようとする鴨居を手で制止しながら、草加は奪った名刺を鴨居にも見える角度で突き出す。名前は
「実は、篠崎真由子さんが遺体で発見されまして」
「えっ? 本当ですか?」
宮尾のリアクションの大きさに鴨居が引いていると、草加が割って入った。
「あんたぁ、彼女と不倫してたんでしょ?」
直球の質問に宮尾が答えられないでいると、鴨居が更に言った。
「篠崎さんの部屋で、アナタからの手紙を見つけましたよ。アナタ奥さん居るんでしょ?」
「え、ええ……」
厳しい表情で頷く宮尾に、鴨居が質問を続ける。
「奥さんと上手く行ってなかったんですか? 手紙には離婚がどうのとか書いてありましたがね?」
すると、宮尾は急に気色ばんで鴨居に言い返した。
「それは彼女が死んだ事には関係ないですよね? それとも私を疑ってるんですか?」
そこに、また草加が横槍を入れた。
「俺達は彼女の死体を見つけただけ。まだ殺しとは決まってないんだな」
「えっ」
今度は控えめに驚く宮尾に、鴨居が犯行当時のアリバイを尋ねた。
「一昨日の夜十一時頃は、どちらにいらっしゃいますか?」
「一昨日の夜? えっと……」
考え込む宮尾に鴨居と草加が疑いの目を向けると、宮尾は慎重に答えた。
「あ、確か一昨日は仕事を終えた後で気分転換に少しドライブしようと思って」
「おひとりで?」
「ええ、ひとりです」
鴨居は無言で頷き、草加は「あ、そぉ」と軽くいなした。当然ながら、第三者の証言が無ければこの発言の信憑性は皆無だ。
車内に流れる不気味な沈黙を、運転席の窓を数度ノックする音が破った。
《続く》
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