第21話 奴隷の国、フェダ王国
4人はセリカ王国を出航し、次の街に向かった。
「なあ、やっぱりレイはセリカに残れよ」としつこく誘うジャイをロイが「うるせーな」と
「おまえら似たモン同志だったなあ…セリカとは交易歴も長いし、またいつか会えるだろ」
ポールはそう言って少し寂しそうなロイを慰めた。ロイの友人といえば年上のユリアヌスと年下のレイチェルしかいない。ポールは親族の兄的存在だ。
王族という環境もあって初めて出来た年齢の近い友人だったのだろう。
「ふふふ…ロイ、寂しそう。ジャイといるの面白かったもんね」
「こらっ、他の男を俺の前で褒めるな!」
「へ?なんで?本当の事だからいいでしょ!なんでロイにそんなこと言われないといけないよ」
ロイはグッと喉に何か詰まったようにしてから、大事なことを教えるように小声で、
「おまえさ…嫉妬ってわかるか?」と聞いた。
「嫉妬?うーん、わかる…気がする」
(小さなころアランと二人でキキを取り合ってたから、あんな感じだろう…)
レイチェルは仲直りしてからも相変わらず目立った変化がない。彼女には結婚願望がなく、ただロイたちと一緒に居て学問の話をしている時が一番楽しくて幸福だというのはわかっていた。
「おまえ、絶対わかってねーな!」と言うロイを尻目に、思い出しドキドキをした。
(そういえばロイが『おまえを誰にも触られたくないだけだ』って言った時はびっくりしたなあ…アランに教えたら飛び上がるだろう。でも私結婚しないし…あれ?もしかしてロイが結婚したらもうこんな風に話したりできなくなるんだ、気が付かなかった。なんか胸が苦しい…これがロイが言う嫉妬か?)
レイチェルは遠ざかるセリカの大地を眺めながら、初めての感情におののいていた。
「なんかあんまりにもレイが変わらないから俺自信なくなってくる」とロイはレイチェルがいない甲板で愚痴っていた。セリカの王宮の中庭で彼なりに告白をしてから10日が経っていた。
「まあま、あの学問一辺倒のレイチェルですからねぇ。でも少しづつは変わっていますよ。ロイはそんな彼女が好きなわけですし」
「そうそう、好きになったもんが負けなの。っていうか、その内容を聞いてると絶対にレイは告白だなんてわかってないと思う。ロイもいい加減素直になってハッキリと言ったほうがいいぞ」
「俺はめっちゃ素直だ!」
ロイが紅い顔で訴えていると、背後でコロコロ笑うような声がした。
「素直って、誰が?まさかロイじゃないよね?」とニヤニヤしながら言ったのはレイチェルだった。
「何コソコソ相談してるの?まさか次の港で悪い事でもするんじゃないでしょうね?」
「バカ!ポールじゃあるまいし、そんなことするか!!っていうか、次の港では俺たちは降りない。かなり危険だと聞いてるからな、留守番だ」
「えー!それは横暴だよ、少しだけ、ね?」
無駄に可愛らしく両手を胸の前で合わせてレイチェルが頼むと、ロイが一瞬で相好を崩したのを隠すように顔を背けた。
「しゃ、しゃーねーな。俺の側を離れるなよ」
ポールとユリアヌスが困ったな、という表情で空を仰いだ。
「グレフェの港が見えたぞ」と甲板から少し緊張気味の大声が聞こえるので皆がわらわらと出てきた。レイチェルも出ると、ロイたちがすでにいた。
皆今までとは違って興味というよりは怖いもの見たさで甲板にやってきている。顔色も優れない。商人たちは今回下船しないそうだ。金儲けの匂いがするところならどこでも行く商人が行かない、それ程危ない場所だった。
その港は原始的な造りになっており、嵐が来たらひとたまりもなさそうだ。緑が少なくて、茶色い土が至る所でむき出しになっている。それがだらだらと流れ出ているので岸の近くが茶色に濁っている。ぱっと見すでにイメージが悪い。
「あれが悪名高い奴隷貿易港、グレフェか…フエダ王国に入るから乗組員も皆緊張してる。なんせ見目のいい若い外国人男性が一人で歩いていただけで去勢されてどっかの王宮へ売られてしまうって話だぜ」とポールが説明した。
「フェダ王国はこの地域で一番の強国だ。特に今の国王になってからは近隣の弱小国に戦争をしかけては人を捕まえてきて、ここから奴隷として売り払っている。まあ、そこから買っているうちも同じ穴のムジナだがな…。この国のあぶねーやつらに対抗できるあぶねーやつらがルテティア王国で利権を握って巨万の富を得ていることは有名だ」
ロイが珍しく苦い顔をして言った。レイチェルはずっと聞いてみたかったことを口にした。
「ロイはさ、奴隷貿易についてどう思ってるの?」
「…そうさな、個人的には褒められたことじゃねーと思ってる。でもな、国の経済を考えるとなると話は違ってくるな。安い労働力として欠かせないからな…レイはどうなんだ」
彼女はぐっと喉を鳴らしてから、
「使い捨ての労働力として人をモノみたいに扱うのはどうしても慣れない。皮膚の下は同じだとわかっていて区別するのは無理だ」とはっきり言った。
人が働く場所には必ずと言っていいほど奴隷たちがいる。独特の雰囲気と奴隷の焼き印ですぐにわかる。彼らの眼はどろりとしており、希望の光がない。
ブルクで見る奴隷はそこまでひどい扱いをされていないので知らなかった。
それを嘆くだけで何もできない自分の無力にレイチェルは傷付いている。
「おまえならそう言うと思ってた。変えていかねーとな…」とロイがつぶやいたが、レイチェルの耳には届いていなかった。
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