Mr,Fukue’s Kasai.
赤羽朱雀は苛立ちながら、足を小刻みに揺らして、駅の改札を睨んでいた。(全く、何度遅刻したら済むのかしら)
朱雀は高校のクラスメイトの茶川一介を待っている。
朱雀の学校での立ち位置はヒロイン、つまり容姿端麗、才色兼備、若者が持つには有り余る才能を持ち、人望にも事欠かない人物だ。一方の茶川一介はクラスで目立たない存在で、誰もどんな人物か知らない。
ではなぜ彼らが待ち合わせなどしているかというと、朱雀が一介に弱みを握られたからであった。その弱みというのは彼女の体質のことだ。
「まさかバレるとはね。上部組織にバレでもしたら死ぬしかないじゃないの」
朱雀が呟きながら眺める自分の手には小さな火が灯っていた。彼女は火を自由に操れる能力を持っている。
更衣室で火を使っていたところ一介に見つかってしまったのだ。なぜ更衣室で朱雀が火を使っていたのか、なぜ朱雀と一介が出会ったのかはまた別の話。
朱雀はしばらく自分の手を眺めていたが、ハッとして、周りを見渡した。一介に自分の体質が知られてしまってから、朱雀は不安に駆られることが多くなった。誰かに見られているのではないかと。
朱雀の視線が一人の女性にとまった。スラリと細長い背丈で、全身を黒の服で統一した女性だ。朱雀と年齢は同じぐらいだろう。
特殊能力を持つものが引かれ合うというのは裏社会では常識だ。朱雀が目をとめたのも同じ理由であったが、彼女自身はわかってはいない。(あの娘はきっとデートにも行くんでしょうね!まったく!一般人はお気楽で羨ましい!)
心のうちで彼女の怒りは増していくばかりだ。さながら火力発電所のように。
朱雀の見ていた女性が改札の方へ向かっていった。さぞイケメンな彼氏とでも待ち合わせしているのだろうと思っていた朱雀だったが、彼女の視線の先には地味で目立たない、ザ•モブとも言える人物が映った。その人物の名は茶川一介。朱雀の待ち合わせの相手だった。
朱雀は一介に駆け寄る。
「ちょっと茶川!その女誰よ!私と会う約束でしょうが。昼間っからハーレムを作れるご身分だとはいいことね!」
「やあ、朱雀。今日は二人ともいなきゃならないんだ。僕の性的な目的は置いておいてね」
一介は何の動揺も見せずに淡々と喋り続ける。
「下の名前で呼ばないでって言ってるでしょ。気持ちが悪いわね。赤羽さんと呼びなさい。で、なんでこの娘も必要なのよ? 」
「超能力対決が見たくてさ。二人とも力が使えるみたいだからやってみてほしくて」
一介が言葉をいい終わる前に朱雀と女は距離をとった。
「能力解放。《渓谷の不死鳥》」
「能力解放。《彼方の彼岸花》」
お互いにぼそりと同じような文言を言った後に二人を取り巻く人々の動きが遅くなった。朱雀の体には赤いオーラがまとわりついていく。一方にはもう少し深紅に近いオーラがまとわりついていく。
周囲の時間が完全に停止した。
能力を持つものは戦わなければならない。これは定められた本能のようなものだ。
一介の目論見通りに二人は戦い始めた訳だが、一介はこの戦いを見届けることはできない。なぜなら能力を解放した彼女らの思考と身体能力はすでに人が視認できる領域にないのだから。
「はっ! 」
朱雀が地を蹴り、女の方へ飛び出した。そのまま炎を纏った正拳突きを放つ。
女は華麗に朱雀の正拳突きを躱して、右手から花びらを大量に放った。
「それそれ! それが見たかった! やっぱり超能力対決はかっこいいよな」
「ど、どういうこと! ? 」
二人が足を止める。この二人だけが動く空間で、一介の声が聞こえたのだから。普通の人間が朱雀たちに話しかけられるはずがないのに。
一介もまた能力者なのだろうか。朱雀の脳裏に疑問がよぎった。
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