Mr.fuku
花園で二人の幼い男女が話をしていた。
「僕たち、いつまでここにいるんだろうね」
「……わからないわよ。でもきっとレインが助けてくれるんだから。それまで食べ物もあるし、寝床もある。遊ぶところだってたくさんあるわ」
幼い男女は大人が一人入るぐらいのカプセルの上に腰掛けている。これが彼女の言う寝床だ。食料はいつの間にかカプセルの中に現れる。カプセルは合計三つあった。食糧には困らない。
広い花園だが、真ん中から百メートルも行くとガラスの壁が立ち塞がってしまう。ガラスの壁の外には灰の世界が広がっているだけだ。
「そう言えばレインは僕がアリスにいじめられた時によく助けてくれたっけ?」
男の子がまるで還暦を迎えた刑事みたいに過去を振り返った。
レインは彼らが花園に閉じ込められる前に仲良くしていた同年代の男の子だ。
緑色の目が綺麗だった。
「もー。いじめてないってば。ラファが泣き虫だっただけよ」
アリスと呼ばれた女の子は頬を膨らませている。だが、しばらくしたら笑い始めてしまった。この花園で一年を過ごすうちに彼らはすっかり仲が良くなったのだ。もともと仲が悪かったわけではないが。
「あのさ、……」
ラファが話し出そうとすると、花園で大きな何か爆発するかのような音が聞こえた。
「何かしら」
「行ってみよう」
二人は慣れた足取りで爆発音の方へ向かった。
近づくにつれて背中を押されるような、爆発音の方向へ向かう風が吹き始めた。
風の勢いに乗って二人はどんどん近づいていく。
すると、不意に風がやんだ。
二人の目には大きな人影が映った。と言うよりかは、彼らにとって大きな人影だった。
白い髭を生やした老人がそこには立っていた。目は白内障気味で少し濁っている。髪は潤沢に生えてはいるが、白髪だった。
久しぶりの人との、それも怪しげな人との遭遇に二人は硬直してしまった。
老人は二人を見つけると、目を輝かせ始めた。乾燥した肌に二つの滴が、目の両端から滴り始めた。泣いているのだ。
「どうして泣いてるんだろう?」
「悲しいに違いないわ。私たちは二人だからよかったけど、彼はきっと一人だったのよ」
そう言ってアリスが老人の方へ向かっていった。それをラファが追いかける。
「どうしたの?」
アリスが老人に喋りかけた。
「ラファ、アリス……」
老人は彼らの名前を口にした。
「そうよ。私はアリス。もしかして私たちを助けにきてくれたの?」
「そうだ。遅くなってすまないね」
目には光が点っている。薄くなってしまてはいるが、緑色の目をしていた。
「私の名前はレイニー・メゾルタフ。レインと言ったらわかるかな? 泣き虫くん」
老人はウィンクをした。子供たちの脳内で一つの人物とこの人物が結び付けられた。彼らの友達だったレイン。彼もまたウィンクをよくする人物だったのだ。
「レインなら知ってるよ。でも、そんなにおじいちゃんじゃなかったよ」
「そうだろうね。私は君たちよりも六十年早く目覚めてしまったからね」
よくわからないレインの言葉に子供たちは首を傾げた。
レイン、アリス、ラファ、の二人は終焉へと向かう地球で、人類を未来に残すためにディープフリーズされた子供たちだったのだ。目が覚める時期は百年単位でしか調整できなかったのだ。故にレインが早く目覚めてしまったのだ。ディープフリーズされた人間を無理やり移動させるのは危険なので、レインだけが年月をかけて離脱したのだった。
「さ、帰ろう。私たちの街にね」
レインはガラスの壁の方へと向かって歩き始めた。
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