悪い人ではないと思う話。

「ちょっと待って。あのさ……。アンタっていつもそんな感じな訳?意味もなくヘコヘコと頭を下げて、誤魔化すようにヘラヘラして。

 そういうのが私一番嫌いなんだけど、ホントにそういうの止めてくんない?」


「えっ……。」



小川さんを引き止めてしまった事を謝罪した後、俺は慌てて頭を下げて彼女の様子を伺いつつその場を離れようとしたのだが……。


 どうやら、その気弱で情けない態度が彼女には気に食わなかったようである。


 正直、自分でも卑屈過ぎるなとは思っているものの、こればかりは自然と小川さんに対して行っていたので、自分自身この指摘には驚きの気持ちを隠せないでいた。



「えっと……。その、何か小川さんの気に触るようならごめんなさい。でも、小川さんみたいな陽キャな人とは話した事がほとんど無くて。その……。」


「だから?何で同級生相手にわざわざ怯える訳?そんな態度で接されると普通にこっちも気分が悪いじゃん?違う?」


「そ、それは……。その、ごめん。」


「だから、それ止めろって言ってんの。」


「……ごめん。」



 すると、そんな困惑でオロオロする様子の俺に、彼女は苛立ったように「そういうのが見ててホントにイライラする」と言い、軽い舌打ちをしてから続ける。



「あんまり話した事ない相手に対して、口下手である事は仕方ない。でもさ……。それで相手を避けたり、変にこっちに気を遣ったりするのは違くない?」


「それは……。そう、です。」


「でしょ?さっきアンタは私の事『陽キャ』って言ってたけど、そういう風に変なカテゴリーに当て嵌めて、相手の事を自分とは違うみたいに言うのは辞めなよ。」


「………………。」



 ーービックリした。正直、殆ど会話という会話をせず二日目に突入した共同生活。


 ここまでハッキリと言われ、またそれが自分の事を忌避していると思っていた相手の口から直接言われるとは思ってもみなかった。


 確かに言われてみればそうだ。俺が勝手に小川さんの事は別次元の存在だと考えて、彼女の事を知ろうとはしていなかった。


 だからこそ、俺は彼女が自分より上の存在だとして、ずっとヘコヘコしていたのだ。



 しかし、それをだと彼女は言う。


 普通、取るに足らない相手だと俺の事を下に見ていればそんな事は言わない。


 別に彼女自身が俺と関わろうとはせず、これまで通り、俺の事などいないものとして扱えばそのままで済む話である。


 それでも、彼女がそのように言ったのは、彼女にとってはそれが当たり前で……。


 だけど俺にはその当たり前がどうしようもなく嬉しくて……。ちゃんと一人の人間として見てくれていたんだと、胸の辺りがジンワリと温かくなるのを感じた。



 そして、俺はその言葉にで何も言えずにいると、少しだけモゴモゴとした様子でほんのり頬を染めた小川さんは続ける。


「だから、私の前ではそういう態度やめな?他でならどうでもいいからさ。家に帰ってまでそんな態度でいられたら、普通にウザイし、そっちから話し掛けて来ても聞いてやんないから。……分かった?」


「……っえ!あっ、うん。」


「ふん……。私、もう行くから。」



 すると、少し照れた様子の小川さんは「そういう事だから。」とだけ言い、俺の手を離しサッサとその場から立ち去ってしまった。


 その後ろ姿から俺は目を逸らす事が出来ず、彼女は俺にとって怖い存在である事は確かなのだが、ただ悪い人ではないとの認識を改めざるを得ないのであった。



「……うん。もっと話をして小川さんの事をちゃんと知ろう。」



 俺はそんな事を呟きつつ、帰って来た彼女に何と話しかけようかと考える位には、彼女ともう一度ちゃんと話をしてみたいとそう思うのであった……。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「はぁ……。よりにもよって、何で私が中峰なんかと運命の相手なのよ。鷹宮くんだったら大喜びなのに、その金魚の糞が私の相手になるなんて……。ホントもう最悪よ。」



 ーー運命の相手がAIによって発表された当日の放課後。いつも一緒にいる二人とは別れて、私は一人帰り道を歩いていた。


 いつもなら二人と会話しながら楽しく帰る帰り道も、今この時ばかりは楽しい気持ちでなんかいられない。


 その理由については前述で呟いた通りであり、よりにもよっての運命の相手に自分が選ばれてしまったからである。



「(しかも、運命の相手とは出来るだけ一緒にさせるとか言って、無理やり席替えもさせられるし……。こんな事ならちゃんと事前に今日の事を調べておくべきだった……。)」



 何となく話には聞いていたけれど、この運命の相手の結び付けは、学校後押しの制度なだけあって結構本格的に行われているらしい。


 一つ上の先輩は仲の良かった男友達と一緒になったらしく、それを機に実際に付き合う事になったと聞いた位だ。


 それまでは、少し頼りない奴だと言っていた先輩だったが、『接触する機会が極端に増えた事により考えが変わった。」と、惚気ながら話された事をふと思い出す。



「はぁ……。学校行事の度に一緒に行動させられるって聞いてるし、これからの私の学校生活どうなんのよ……。」



 色んな学校行事を思い出しつつ、思わずため息が出てしまう。これから行われる楽しいはずのイベントも自分の嫌いな相手と常に一緒ではそうもいかないだろう。


 他のペアは楽しんでいる中で、自分達だけが雰囲気最悪の状態なんて……。



「はぁ……。今日はもう家に帰ろ。ホント疲れた。嫌な事は明日にでも考えよ。」



 私は憂鬱な気持ちをため息と共に吐き出し、スタスタと帰路を急ぐ事にする。



 その後、帰った私が寮での共同生活の話をママから聞いて、度肝を抜かれる事になるのは……。それから数分後の話である。




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