回想がもう少しだけ続く話。
「私がほとんど初対面の中峰さんの事を、信用している理由が聞きたい……。ですか?」
「は、はい。俺たちさっき知り合ったばかりで……。正直、何でこんなに色々と話してくれるんだろうって思いまして……。
いえ!勿論、大橋さんが男の俺を不快に思っていなければ、それに越したことは無いんですけど……。それでも、何でそんなにも初めて会話した俺の事を信用してくれるのかなって不思議に思いまして……。」
単純な疑問。他に俺と同じような立場の人間がいれば、十中八九抱くであろうその疑問をありのまま彼女に尋ねてみた。
これは先程、彼女が『男の人は下心を持って自分に話し掛ける。』と発言していた事もあり、手助けする為とは言え、彼女に俺の行動は警戒されているのでは?と考えて、慌ててその事についての弁明したのだ。
すると、意外にも彼女はあっさりと俺がそんな男ではないと明言した上で、俺の事は信用出来ると……。それも自信を持ってそう言えると発言したのだった……。
何度も言うようだが、俺と彼女が一緒に話すのは今日が初めてであり、俺が一方的に彼女の事を憧れて、よく観察していたが……。彼女は俺の事をよく知らないはず(そのように彼女も言っていたから)なので、その発言は普通に考えれば不自然である。
ではなぜ、彼女が俺にそんな発言をしたのか?それがさっぱり分からないので、こうしてわざわざ彼女に尋ねているという訳だ。
すると、大橋さんはそんな疑問をぶつける俺をジッと見て、「ふふふ……。」と、なぜか少しだけ意味深な微笑みを浮かべる。
そして、一呼吸おいてから口を開く。
「そうですね……。やっぱりそれは、中峰くんが私を普通の女子生徒と同じように見てくれた事でしょうか。
ほら、さっき私の顔を見た後であっても、変に距離をとったり、急に近づいてきたりしてこなかったじゃないですか。あのような所も、私がこの短時間でもあなたの事を信用出来ると認めた一つの理由です。」
などと、大橋さんは俺が彼女の顔を見た後でも、特に変わらなかった事を理由に、俺が信用出来ると判断したと話してくれる。
確かに俺は手伝っていた生徒が大橋さんと知ってからも、そこまで露骨に態度を変えていないとは思うが……。まさかそれが俺がそこまで信用される理由になっていたとは。
勿論、『そんな些細な事が?』と、驚きがあるのだが、それ以上にも増して……。
「(何と言うか……。ホントに最初から女子相手に緊張しっぱなしで、正直、大橋さんとか関係なく、普段でも女性相手だとあんな感じだなんて事は……。い、言えない……。
そんなの男としてあまりに情けないし、それに……。大橋さんが俺にそういう俺である事を望んでいるんだ。であれば……。俺がこれ以上何か余計な事を言ったり、それを必要以上に否定したりするのは……。)」
自分でも、かなり情けない事だとは理解している。だけど、これが最良の答えであり、相手が望んだ自分を演じる事が……。何よりも間違いのない。現実に則した
誰かが望む俺でいる事。それは俺が今の俺でいる限り変わらないし……。きっとそれが憧れの女子の前であっても変わる事はない。
すると、俺から何の反応がなかった事を不思議に思ったのだろう……。ぼんやりとしている俺に対して、大橋さんは「あの……。どうしましたか?」と、彼女は少しだけ心配そうに声を掛けてくれる。
そのため、ハッとした俺は……。慌ててそれを誤魔化すように咳払いをしてから、その言葉に被せるようにして「だ、大丈夫です!それよりも……。」と切り出す。
「その……。さっき言った一つの理由と言うのは……。もしかして、他にも理由があったりするんでしょうか?先程からしつこく聞くようでアレなんですけども……。」
「いえ、それに関しては心配しないでください。こちらが突然色々とお願いをして、それに混乱するのも無理ないので……。
それよりも……。そのもう一つの理由の方が、今回このような行動に出ると決めた一番のきかっけに繋がっているのです。」
「と、言いますと……?」
「その……。本日行われる『AIによるその人の運命の相手の決定』ですけど、あれってそれによって決められた男女は学校監修ではありますが、同じ寮に住む事になりますよね?
しかも、それを特別な理由でもない限り拒むことは出来ないとされていて……。はっきり言って、強制的にカップルになるように誘導されてしまうでしょう?」
「は、はい……。それはそうですけど……。基本的にはそういう関係になるのが大半で。そもそもの話、そうなるように様々なアシストをするって聞きますしね。……でもそれと俺に一体どんな関係が……?」
そして、ようやく俺は兼ねてからの疑問を大橋さんにぶつけてみた所、少しズレているように思える話を彼女は始める。
とは言え、話の始まりはそれからだったので、自分が呼ばれた理由とどう繋がるのか考えつつ尋ねてみると、まさかの衝撃的な内容を次の瞬間彼女は口にするのだった……。
ーー次話へと続く。ーー
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