憧れの人との延長戦に突入するかもしれない話。
「ちょ、ちょっと待ってください!どうして私の返事も待たずにすぐ行っちゃおうとするんですか?私、まだあなたにお礼も言えてませんし……。何よりも、まだあなたのお名前だって聞けていません!」
そして、俺の手をぎゅっと掴んだ大橋さんは「少し待ってください!」と、俺を少し見上げるような上目遣いで見つめて、そのまま帰ろうとしていた俺の事を呼び止める。
しかし、そんな普段は絶対に見れないような彼女の様子を見ても、俺の頭の中にあるのは『どうして?』の言葉だけだ。
そのため、大橋さんに右手をガシッと掴まれ、完全に予想外の足止めをくらった俺は、その思考の大部分を『なぜ?どうして?』などの、疑問の言葉で埋め尽くされていた。
「(な、何で大橋さんが俺を?いや……。勿論彼女が言っているように、俺が返事を待たずに歩き出したからだろうけど……。
それでも、わざわざ俺の事を引き止めてなんて……。正直かなり驚いた。)」
しかし、俺自身の驚きも相当のものではあるのだが……。それ以上に、周りからの反応の方が余程に驚くべきものであった。
皆一様に「信じられない。」「なんであいつが……。」「そもそもあいつ誰?」など、新入生の中でも一二を争う美人である大橋さんが、俺のような殆ど無個性な男子生徒を引き止める為とは言え、その手を彼女が自ら掴んでいるのが信じられないと言った様子だ。
とは言え、俺自身もそんな状況下で大衆の好奇の視線を耐えられる程、図太い神経は持ち合わせていないので……。
「そ、その!大橋さん!みんなからの視線が辛いので、手を放してもらえませんか!?
何かもう……。男子たちからの視線が痛いし、色々な意味で後が怖いです!」
「それは……。はい。あなたが逃げないのであれば、この手を放しますが……。まさか、私が手を放した瞬間に逃げ出すとか……。そんな非情な事はしませんよね?」
「えぁ!?勿論、そんな事しませんよ!?
で、でも!そろそろ予鈴も鳴ったし、大橋さんも早く教室に帰らないと……。何て。」
正直、俺は大事にならないうちにと、なんだかんだで大橋さんの前から退散しようと考えていたのだが……。その選択肢さえも、初めから大橋さんに釘を刺された事によって封じられてしまっていた。
というか、今頃になって、大橋さんが至近距離でこちらを見上げている事に気付き、その上目遣いも相まって非常に落ち着かない。
すると、俺の言葉に大橋さんは「あっ!言われてみれば、そうでした!」と言い、パッと掴んでいた俺の手を放してくれる。
そのため、ようやく彼女が手を放してくれて、この衆人環視の状況から逃れる事が出来ると、心の中で安堵をしていたのだが……。
しかし、その数秒後に大橋さんが放った爆弾発言によって、その安堵した気持ちをすっかり吹き飛ばされてしまった。
なぜなら、俺の手パッとを放した大橋さんが、「あっ、今時間がないのなら……。」と前置きをしつつ続けて……。
「うん……。やっぱり、今はちゃんとお話をする時間がないですから……。今日のお昼休みにでも、もう一度お会いしましょう。
先程の荷物運びのお礼もありますが……。少しだけ、他の男の人とは違うあなたにも興味が湧いてきたんです。」
などと大橋さんは言い、俺を含めて周りの(主に男子)生徒たちの度肝を抜かす爆弾発言をその去り際に放って、そのまま教室に戻っていくのだった……。
そしてその去り際に、大橋さんが俺の耳元で「あっ、場所は食堂で待ち合わせですからね?」と囁いてきたのだが……。その待ち合わせ以前に、色々と彼女の話からの情報量があまりのも多過ぎて、俺は軽くパニックだ。
「(い、一体何を考えてるんだ!?大橋さんは……。さっき、俺を手を掴んで引き止めた事にも十分驚かされたけど……。お、俺に少しでも興味があるっていうのは何だ?)」
しかし、彼女が『さっきのお礼を言いたい』と言っていた事は、恐らく本当の事である(はずだ)と思うので……。本当に俺は、これからどうすればいいんだろう?
何と言うか……。あの憧れの大橋さんから『興味がある』と言われ、それを手放しに喜ぶどころか、むしろ想像もつかない事に対する怖さ?のような物を感じてしまっている。
そもそも、大橋さんといきなり二人きりな上に、衆人環視下である食堂で直接対面をするなんて……。正直に言うと、『それ何の拷問ですか!?』と言いたい位である。
「しかし、まあ……。うん。その事も含めて昼休みまでに考えるか……。これ以上アレコレ悩んでも、どうすればいいかなんて思い付く訳じゃないだろうしな。はぁ……。」
そうして、俺と大橋さんの奇天烈な初対面は、ある意味意外な形でその幕引きとなってしまったのだが……。彼女との会話の中で初めて知る事が出来た事実がある。
それは意外にも大橋さんは気が強くて、強引な女性だという事実である……。
ーー次話へと続く。ーー
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