第28話 真の仲間

 我はゴーレム戦で傷付いたジーダとゴンスルを癒やす。

 外傷は完璧に治したつもりだが、問題は如何にこやつらの弱さを治すかだ。

 我の回復魔術はまだまだ未熟。

 ならば、直接的に鍛え上げるしかない。


 このような弱さでは、この先命がいくつあっても足りぬぞ。


 我の予測は当たった。


「ぎゃああああああああ! 足が! 足が!!」


 炎熱線が走るトラップに引っかかったジーダは、足を失い……。


「に、にげろぉおぉぉおぉおおお!! み、水…………がぼぼぼぼぼぼぼ……」


 水のトラップでは、ゴンスルが溺れ、心停止した。


 2人ともなんとか回復魔術で治したが、我がいなかったおそらく10回は死んでいただろう。

 こやつら、本当に冒険者なのだろうか。

 いや、冒険者以前の問題だ。

 街角でふらついている酔っ払いの方が、機敏な動きをするぞ。


「はあはあはあはあはあはあはあはあはあはあ……」

「く、くそ……。な、なんで俺たちがこんな目に……はあ……はあ……」


 そのジーダとゴンスルは、ずぶ濡れの状態で荒い息を吐き出していた。


(な、なあ……、ジーダ。もうばっくれようぜ)

(そ、そうだな。付き合ってらんねぇ。これじゃあ、命がいくあっても――――)


「何か言ったか?」


「いやいやいやいや……。別に――――」

「な、なあ……。お嬢ちゃん、俺たちはもういい……。置いていってくれ」


 ゴンスルは進言する。

 横でジーダもうんうんと頷いた。


「何故だ?」


「これ以上、お嬢ちゃんに迷惑をかけたくないんだ」


 とゴンスル。


「迷惑? 我は協力者で、聖女候補生だ。2人の癒やす事が仕事なのに、迷惑なわけないだろう」


「一緒に行くより、お嬢ちゃん一人で先に行った方が早く友達に辿り着くだろう」


「そうそう。それそれ!」


「だから、俺たちを置いて先に行ってくれ!!」


「し、しかし――――――ハッ!!」


 今の最後のゴンスルの言葉……。

 どこかで聞いたことがある。

 そうだ。1000年前の魔王城でだ。


 魔王城には、ロロ以外にも多くの勇者と呼ばれる者が、我を倒そうと挑んできた。

 だが、その中には階下の魔族に屈し、我が玉座に辿り着けぬ者もいた。

 中には、仲間を犠牲にして、我に挑む者も……。


 うむ……。

 あの時の言葉だ。

 命を賭して勇者に先に進ませる仲間たち。

 かけがえのない仲間を置いて、それでも使命を果たそうとする勇者。


 あの姿を見て、魔王時代においては嘲笑を禁じ得なかったが、今ならわかる。

 あれこそがきっと真の仲間の姿なのだ、と。


 しかし、どうしたらいい。

 ジーダとゴンスルは仲間というわけではない。

 だが、ここまでやってきた同志ということは間違いないだろう。

 置いて行くことに、やはり後ろ髪を引かれる思いがある。


 ああ……。


 今思った。

 勇者とはなんと勇ましい者たちだったのか。

 よく仲間を犠牲にし、我に挑めたものだと。

 仮にこれがハートリーとネレムであったなら、我の身はきっと裂けていたに違いない。


「できぬ!!」


 我は涙を流しながら、ジーダとゴンスルに告げた。


「確かにハートリーとネレムのことは心配だ。それでも2人を残して先に行くなどできぬ。今日初めて会ったとはいえ。ここまで一緒に付いてきた仲間ではないか!」


「な、何を言ってんだよ。な、なあ、ゴンスル――――って、お前何を泣いてるんだ?」


「だってよ……。俺たちクズじゃねぇか。親もクズで、周りもクズばかりで……。家族とか友人とかそんな優しさに触れてこなかった。……のに、この子は行きずりで出会った俺たちをここまで心配してくれているんだぞ」


「いや、落ち着けって! あ、あれ……。なんでだ? オレも涙が……。涙が止まらねぇ」


 ジーダとゴンスルは泣き始める。

 そうか。

 言葉では勇ましいことを言いながら、結局この2人も怖かったのであろう。


「大丈夫だ。何が起こっても、2人を癒やすのが我の役目だ」


「ありがとう、お嬢ちゃん。ありがとう」

「お嬢――――いや、姐サンと言わせて下さい」


 姐サン?

 そう言えば、ネレムも似たようなことを言ってるな。

 人間の方では、信頼を込めて言うのだろうか。


「良かろう」


「「ありがとうございます、姐サン」」


 2人は声を揃えた。

 その顔は笑った幼児のように輝いている。

 心なしか初めて出会った頃よりも、いい顔をするようになった。


 まだまだ未熟者だが、こういう顔をする者は努力さえすれば、きっと良い武芸者になるはずだ。


「しかし、納得してくれて良かった」


「え?」

「どういうことですか、姐サン?」


「最後のトラップはな。ここを爆破することだったのだ」


「「え?」」


「我だけ入れば、問題ないのだが、我以外の異物が入ると、2時間後に爆破するようになっている。そうすれば、辺りは間違いなく消し飛ぶだろう」


 ジーダとゴンスルの顔が、真っ青になっていく。


「ちなみに、あと5秒だ」


「「ひっ――――」」



 ひぎゃああああああああああああああああああああ!!



 2人の悲鳴が響く。

 それと同時に周囲は真っ白に包まれるのだった。



 ◆◇◆◇◆



 結局、ネレムとハートリーと合流できなかった。

 そもそもあのダンジョンにはいなかったのだ。

 使い魔を放って、くまなく探させていたのだが、その痕跡も見つからなかった。


 爆発の寸前、【閾歩ディスン】を使って、ダンジョンから脱出し、助け出したジーダとゴンスルの話では、場所を間違えたらしい。


 どおりで見つからないわけだ。

 まあ、ネレムとハートリーが爆発に巻き込まれなかったのは、不幸中の幸いだな。

 しかし、2人はどこへ行ったのだろうか?


「じゃあ、姐サン。オレ達ここで……」

「今日はすみませんでした」


 街道馬車から降り、王都の門の前まで戻ってくると、ジーダとゴンスルは頭を下げた。


「うむ。また冒険をしよう、2人とも」


 手を振り、見送る。

 余程疲れたのか、2人は肩を落としながらも、手を振り返してくれた。


 未熟だが、いい冒険者たちだった。

 さすがはネレムの知り合いだな。


「ルーちゃん!!」


 まるでジーダたちと入れ替わるように現れたのは、ハートリーだった。

 側にはネレムがいて、後ろには装備を纏った冒険者たちがいる。


「ルヴルの姐さん、よくご無事で」


「おお。ハーちゃんに、ネレム。よく無事だったな」


「え? ルーちゃん、なんか言葉が……」


 ん?

 あ。そうだ。

 ここではお嬢さま口調にしなければ。


 あ、ああ……。う、うん(喉を調整)。


「失礼しました。無事だったのですね、2人とも」


「心配しましたよ、ルヴルの姐さん。ハートリーの姐貴なんて、人さらいに攫われたんじゃないかって。ずっと泣いていたんですから」


 ネレムの言葉を聞いて、ハートリーを見つめる。

 確かにその目は赤く腫れ、頬には涙の跡が残っている。

 そして今もなお、目に涙が浮かんでいた。


 心配したのは、こっちも一緒なのだが、まあ無事なら良かろう。


「ごめんなさい、ハーちゃん。私はこの通り無事ですから」


「良かった」


 ハートリーはギュッと我を抱きしめ、子どものように甘えてくる。

 ふふ……。ハートリーは可愛いな。


「それにしても良かったよ」


 進み出たのは、ネレムの知り合いだった。


「最近、こっそりアルバイトする聖女候補生を騙して、人気のない森や洞窟に連れ込んで乱暴する事件が頻発していたんだ」


「姐さんもそれに巻き込まれたんじゃないかって……。ルヴルの姐さんのことだから、そんなヤツ、1発でのしてしまうだろうから心配はしてませんでしたけどね。それより、今まで何をしていたんですか?」


「そうですね……」



 かけがえのない仲間たちと、かけがえのない時間を過ごしていただけですよ。



 我は空を望む。

 夕暮れ時の空に、一番星が輝いていた。

 まるでそれは、子どものように笑っていたジーダとゴンスルのようであった。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


爆発オチなんて(ry


面白かった、ジーダとゴンスルどんまい! と思った方は、

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