第2章

第22話 元気に挨拶

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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 ◆◇◆◇◆  another side  ◆◇◆◇◆



「お前らぁ! 本当にルヴルさんと友達になりたいか?」


 その声は早朝の校舎に響いていた。

 集められたのは、ルヴルの同級生だ。

 朝早いからか、欠伸をかみ殺すものも多い。

 女子生徒の中には、化粧を半分だけしたまま参加している者もいた。


 そんな生徒たちの、中心にいたのはEクラスに属するネレムである。


 Bランクに打ち勝ち、貴族にも逆らったFクラスだが、Eクラスとはいえ男爵令嬢であるネレムに朝早くに凄まれれば、怖いものは怖い。

 というか、普通にネレムの顔と態度が怖くて、言われるまま飛び出してきた学生がほとんどだった。


 Fクラスの教室に召集をかけられると、第一声が冒頭の台詞であった。


 質問の意図するところはわからなかったが、ルヴルを除くFクラスの全員が頷く。

 Fクラスにとって、ルヴルは命の恩人とも言うべき人物だ。

 加えて、かけがえのない戦友である。

 たとえ『ジャアク』と言われようと、彼らはルヴルを友達だと認識していた。


「よし。じゃあ、ルヴルさんに対する挨拶の仕方を、あたいが教えてやる」


「あ、挨拶? べ、別に普通でいいんじゃないかな、ネレムちゃん」


 Fクラスの中でも比較的親交の深いハートリーが意見する。


「何言ってるんですか、ハートリーの姐貴! ……死にますよ」


「し、死ぬの!!」


 ハートリーはキャラを越えて思いっきり絶叫した。

 ネレムは神妙な顔で頷く。


「お前らはもう忘れてるかもしれないが、ルヴル姐さんはジャアクだ。ちょっと機嫌が悪いというだけで…………ポンッ――だ」


「ポン……?」


「殺される」


「「「「殺されるの?」」」」


 Fクラスの学生たちもまた絶叫した。


「あんたたちも見ただろう。あの『八剣エイバー』ですら、足下にも及ばない実力を……。あれがあたいたちに向けられたら、どうなる? 1秒持つと思うか」


 ふるふる、と学生たちは頭を振る。

 その顔はすでに青ざめていた。


「わ、忘れていたわけじゃないけど……」

「ルヴルさんって、ジャアクって言われてるのよね」

「今は私たちに味方してくれているけど」

「気分を害したら、どうなるか……」


「ちょちょちょちょ、ちょっとみんな! ルーちゃんのこと誤解してるよ」


 ハートリーはあくまでルヴルを構うのだが、1度認識してしまったことが覆るのは難しい。

 そもそも昨日、『八剣エイバー』を圧倒する大立ち回りを見てしまったのだ。

 その時は何も思わずただはしゃいでいたが、冷静になってあの力が自分たちの方に向けられると考えると、かなり危うい。

 ようやくルヴルの同級生たちは、そのことに気付いたのだ。


「ハートリーの姐貴。あんたは安心していい。だが、あたいたちは違う。あの人のもとで生きて行く術を身に着けなくちゃならねぇ」


 ネレムは考えを改めようとしない。

 というか彼女が一番、ルヴルという存在を勘違いしていることは、間違いなかった。


 すると、ネレムは皆に向き直る。


「いいか。ルヴルさんと友達になりたいなら、今からあたいが今から言うことをよーく聞くんだ。いいな!!」


「「「「はい!!」」」」


 皆の声が揃う。

 完全にネレムの言葉に聞き入っていた。


「まずは挨拶からだ。単なる挨拶だと思って、油断するなよ。まずはこう腰を落とす」


「そ、それに何の意味があるんですか?」


 質問が飛んだ。


「馬鹿野郎! 飛んできた鉄拳を受け止めるか、躱すために決まってんだろう! ルヴルさんが機嫌悪いと何をするかわらかねぇ。だから、被害を最小限にする姿勢を取るんだ」


「な、なるほど」


「よし。お前、やってみろ」


「わ、私ですか?」


 ネレムは1人の女子生徒を指名する。


 女子生徒は言われた通り、腰を落とし、「ご機嫌よう」と頭を下げた。


「ちげぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!」


 再びネレムの絶叫が響く。

 鉄拳制裁こそなかったが、それと同等のインパクトがある声に、一同は困惑した。


「いいか。お前ら、ルヴルの姐さんの前で間違っても頭を下げるな」


「え? それだと礼を失するのでは?」


「ああ……。だから、失しない程度に頭を下げるんだ。具体的に言うと、完全に頭は下げない。ルヴル姐さんを前にして、ギリギリその腕と足が見える位置まで頭を下げろ。目線は常に前だ。ルヴル姐さんの胸の辺りに視線を置け。腕と足にだけ気を付けろ」


「なるほど。それだと蹴りか拳かわかるということですか?」


 なんか頭が良さそうな女子生徒が、うんうんと納得する。


「蹴りや拳だけじゃない。頭突きの可能性だってある。その時は、胸を見ろ。胸を反った時、攻撃が来るかもしれないからな」


「「「「はい!」」」」


「頭を下げる時は、すでに鉄拳制裁を食らうことが確定してる時だけにしろ。わかったな」


「「「「はい!」」」」


「よし。じゃあ、ルヴル姐さんが登校してくるまで、挨拶の練習だ!!」


 こうして、対ルヴルのための特訓が始まったのであった。



 ◆◇◆◇◆  ルヴル side  ◆◇◆◇◆



 今日の目覚めは良かった。

 髪の通りもよく、セットも1発で決まった。

 近くの乳牛場からもらった絞りたての牛乳も美味かった。

 朝から幸先が良い。


 いい1日になる予感がした。


 それでも、昨日の出来事ほどではあるまい。

 我にとって、昨日ほど最良の日はなかった。

 目標としていた友達が、たくさんできたからだ。

 それだけではない。

 一緒に戦い、そして彼らを背にし、名誉ある戦いもできた。


 これは魔王ひとりであった時にはできなかった戦だ。


 誰かのために戦い。

 まさかこれほど、我の胸を躍らせるとは思わなかった。

 今ならロロがあんなに必死になって、我に挑んできた気持ちがわかるような気がする。


「ルヴルちゃん、そろそろ出ないと、始業時間に遅れるわよ」


 マリルの声が階下から聞こえてくる。

 我は「はーい」と答えて、扉を開けて、今日も聖クランソニア学院へと登校した。





 なんだか夢のようだ。

 身体がふわふわしている。

 油断するなと、未熟者と思う気持ちもあるが、我は楽しみで仕方がない。


 友達となった同級生たちとどんな会話をしようか。

 やはり回復魔術の深奥について語るべきだろうか。

 いやいや、その前に挨拶だ。

 これまでまともに同級生から挨拶されたことがない。


 何せ我が教室に入っただけで、しんと静まり返っていたからな。

 だが、今日は違うはずだ。

 ついに皆と元気よく、挨拶を交わす時がやってきたのだ。


 我は緊張した面持ちで、クラスの引き戸を引いた。


「みなさん、ご機嫌よう」



「「「「「ルヴルの姐さん、お疲れ様です」」」」」



 我は一瞬呆気に取られた。

 元魔王である我を刹那の間でも、惚けさせたことは勲章に値するが、今厳かに授与式を取りはからっている場合ではない。


 な、なんだ、これは?


 皆が腰を落とし、軽く曲げた膝に手を置いている。

 頭は少し下げた程度、代わりに鋭い視線が我に集中していた。


「お荷物、お持ちします」

「姐さん、こちらの席へ」

「お水ですが、キンキンに冷やしておきました」

「疲れてるなら、肩をもみましょうか?」


 皆が我をもてなしてくれる。


 おお……。

 こ、これが……。



 友達待遇というものか!!



 なんたる贅沢。

 まるで王をもてなすようではないか!

 いや、我は魔王ではあるが……。

 そうか。これが友達か。

 何か我が思い描いていたものとは違う気がするが、悪くない。


 全然悪くない!


「みなさん、今日のよろしくお願いします」


「「「「「へい!」」」」」


 今日も素敵な1日が始まりそうだ。



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日増しにPVが増えてきて、とても嬉しいです。

引き続き更新していくので、よろしくお願いします。

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