第12話 友情は拳で脅されるもの

昨日タイトルに致命的なミスを発見し、修正させていただきました。

「回復させてやろう」ってなんだよ……。

勇者が魔王に向かって回復魔法を投げてる姿を想像したら、めっちゃ笑うんだけどw


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


 ついに放課後になった。

 我は早速、恋文の中で指定されていた裏庭へと赴く。

 しばし待っていると、3人の少女と、長身のエルフの少女が前に現れた。


 制服の前を開けて、着流しているが、どうやら我と同じ聖女候補生のようだ。


「よぅ、ジャアク。初めましてだな、あたいの名前はネレムってんだ。……よろしく――って、お前何を泣いてるんだ?」


 そう。我は泣いていた。

 我も知らず知らずのうちだ。

 滂沱と涙を流し、じっとネレムと名乗ったエルフの少女を見ていた。


「ぎゃははは。姐貴にビビッたんすよ」

「さーすーがー、あーねーきー」

「こりゃ。楽勝ですね」


 周りの少女たちが煽る。

 我は涙を拭きながら、弁明した。


「すみません。私と友達になりたい方が、4人もいらっしゃるとは思わなかったものですから」


「友達? は? 何を言ってるんだ?」


「――? あれは恋文というもので、友達になりたいという意味ではないのですか?」


「こ、こここここ恋文……!!」


 ネレムは絶叫した。

 真っ白な顔が、一瞬にして赤くなっていく。

 側にいた少女たちの頬も、ほんのりと赤くなっていた。


「え? 姐貴……。ジャアクにホの字だったんですかい?」

「あーなーきー、つんでーれー」

「なるほど。ジャアク×ネレムというカップリングだったんですね。……ありだ」


「んなわけないだろ! そもそもクン! お前が書いたんだろうが!」


「いや、わたしは普通に書きましたよ」


「ということは、こいつがなんか勘違いしてるってことか?」


 ネレムは再びこちらを向く。

 先ほどよりも気迫がこもっているように見えた。


「ふざけるのも大概にしろ、ジャアク。とぼけたって無駄だからな」


 我は心底本気なのだが……。

 そもそも我は搦め手が苦手だ。


 すると、ネレムはビッと我を指差した。


「お前、ゴッズバルトさんを泣かせたそうだな」


「泣かせた……?」


 確かにそうだが、泣かせたというよりは、向こうが勝手に泣いたというか。


「あの人はあたいの目標だった。そんな人が一学生に過ぎないお前に、泣いて土下座するわけがねぇ! 何か卑怯なことをしたんだろう!!」


 心外だ。

 我は卑怯なことを好みはせん。

 むしろ憎む立場にある。

 何を勘違いしているか知らぬが、我は卑怯なことなどしない。

 そもそもだ。


「ゴッズバルト様が勝手に頭を下げてきたのです。むしろ――――」


勝手に頭を下ヽヽヽヽヽヽげたヽヽ――だと……。あの人は英雄だ。あたいたち何かよりも、ずっと崇高な人間なんだ。なのに、そんなお方を脅し、挙げ句泣かせるなんて……。調子に乗るなよ、ジャアク。あたいがぶっ倒してやる」


 ネレムは激昂する。

 そのまま殴りかかってきた。

 鋭い直拳が空を切る。

 我はそれを寸前で躱していた。


 なかなか良い拳筋だ。


 などと評している場合ではないか。

 いきなり殴りかかってくるとは、よくわからん娘だ。

 我と友達になりたいのではないのか?


 いや、待て――――。


 思えば、我を友と呼んだ人物は、これまで勇者ロロだけであった。

 明確に友人であると確認したわけではないが、確かにヤツと斬り結ぶうちに、これが人間が言う友情とおぼしき感情なのではないかと、思う節もあった。


 つまり、今の状況はそれと同じだ。

 このネレムというヤツも、我とともに拳で語り合おうというのだろう。



 相分かった……。



 ならば、こちらも本気で相手をせねば成るまい。


 我は構えを取る。

 同時にネレムは足を止めた。

 猪突猛進に襲いかかってきていた娘が、息を呑む。

 相手の雰囲気が変わったことを敏感に察したのだろう。

 なるほど、野生的な本能には長けているようだ。


「な、なんだ」

「さーむーいー」

「ちょ、ちょっと……。わたし、お花摘みにいきたいかも」


 他の少女たちはガクガクと震える。


 一方、ネレムは口角を上げた。


「へぇ……。顔のいいお嬢さまだと思っていたら、そんな顔もできるんだな」


「あなたが本気だとわかった以上、こちらも本気を出さねばなりません」


 本気の友人を作る。

 そのためには、本気で相手をせねばなるまい。


「いいぜ。あたいも本気でやってやるよ」


「姐貴の本気……」

「やーべー」

「ま、まずくないですか?」


 急に周囲が黒くなる。

 暗雲が垂れ込め、さらに雨が降ってきた。

 だが、我もネレムも動かない。

 誰もいない裏庭で、立ち合う瞬間を待つ。


「あ……。忘れていたわ」


「あ? 何が?」


「ネレムさん、怪我してるわよね」


「え? お前、いつからわかって」


 ネレムは右肩を押さえる。


「お前が気にすることじゃない。この左腕1本でも」


「侮らないで下さい。本気でやり合うのだから、あなたも万全で戦ってもらわないと」


「お前……」


「さあ……」



 回復してやろう。



 稲光が走り、雷鳴が轟く。

 だが、その光よりも強く、裏庭は白く輝いていた。

 ネレムたち一同の叫声が響く。

 やがて回復魔術は、ネレムを完全に癒やした。


「な、何をした、お前!」


 ネレムは腕を振り上げ、抗議する。

 だが、その姿を見て、我とネレムの間に入ったのは、取り巻きの3人組だった。


「姐貴!!」

「うーでー、うーでー」

「姐貴、腕があがってます!!」


 ネレムの振り上げた右腕を指差す。

 怪我の前、肩より上に上がらなかった腕が耳の横まで上がっていた。


 気付いた瞬間、ネレムは絶句する。


「嘘だろ。どんな治癒士も匙を投げた腕が……。なんで治ってるんだ」


「姐貴、おめでとうございます」

「よかったー、よかったー」

「ぐす! これで、また聖騎士を目指せますね」


 取り巻きたちは泣いていた。

 ネレムはぐりぐりと腕を動かしている。


「痛みがねぇ……。あたいの腕じゃないみたいだ」


 ネレムは振り返る。


 何があったか我にはわからぬ。

 おそらくネレムにとって望外な奇跡が起きたのだろう。

 だが、我には関係のないことだ。


 決着を着ける。


 ネレムと友達になるために……。


「ありがとう! あんた、本当はイイ奴――――ぶべらっっっっっっ!!」


 我が思いっきり振り抜いた鉤突きは、ネレムの頬に突き刺さる。

 そのままどうと地面に倒れた。


 何を惚けていたのかは知らぬが、隙だらけだ。

 仕方ない。

 ネレムもまた聖女候補生。

 お互い切磋琢磨するしかあるまい。


「なっ……。感謝してる姐貴を殴るなんて」

「よーしゃねー」

「やはりジャアクは、ジャアクだったんだぁぁぁぁあああ!」


 ぎゃああああああ! と悲鳴を上げながら、取り巻きは逃げていく。


 弱ったな。

 あの3人とも友達になりたかったのだが……。

 どうやら怖がらせるようなことを、我はまたしてしまったらしい。


 だが、良い。

 千里の道も1歩からというしな。

 今は、目の前のネレムをハートリーに続く第二の友としよう。


 我はネレムを回復魔術で治す。

 気が付いたネレムに向かって、我は手を差し出した。


「今日から私たち、友達ですよ……」


 我は最高のスマイルを、ネレムに向けるのだった。





 後日、この時のネレムの心境を本人は語る。



 正直、こいつには勝てないと思った。


 あいつは人が感謝している横で、いきなり殴りかかってきたんです。

 それも容赦なく、全力で……。


 その上で、ルヴルはあたいに友達になれと迫ってきたんです。


 あたいは、結構これでも色んな悪いヤツを見てきました。

 でも、ルヴル・キル・アレンティリは別格です。

 あんな得体の知れない巨悪は初めてです。


 あの英雄ゴッズバルトが泣いて謝るんです。

 そんな相手に、一学生が適うはずがないって……。


 あたいは付いていくことにしました。

 つまり、ルヴルの姐貴ヽヽ風にいうなら、友達になることにしたんです。


 悪に屈するのか、ですって?


 そうです。屈したんです。

 でも、立ち合えばわかりますよ。

 あの人は、この世で最も邪悪な存在だってね。



~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


昨日過去最高のPVに達しました。

読んで下さった方ありがとうございます。


こちらの作品は、小説家になろうでも連載中です。

なかなか上位の追放物が強くて、ランキングなかなか上がらない状況です。

是非とも、こういう勘違いコメディも、たくさんの方に読んでもらいたいと思っているので、賛同いただける方はそちらもご支援いただけると嬉しいです。

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