感動のない再会

「ここが地上界グレークッキ…そして学園のある都市国家か」


転送魔術によって、地上界グレークッキへ降りた俺は目の前に広がる光景を眺める。


目的の地である王立魔術師養成学園は地上界のカシワール王国の首都の中央に位置し、堂々とそびえたっていた。

それ自体が王国の城かと見まごうほどの、壮麗な建物である。


「流石は人間のエリートが通う育成機関のことだけはあるな」


俺は感心しつつ、歩みを進める。


少しおさらいしよう。


事前に調べたデータによると、生徒の過半数は貴族であるが、平民も通っているらしい。


入学試験の成績が優れた者順に、A、B、Cの序列で、3組にそれぞれクラス分けされる。


カシワール王国容認の上で、学園は身分を問わない実力主義の方針で、20歳以上で入学試験に合格さえすれば、誰でも入学できる。


ただし英才教育を受けている裕福な家の人間がどうしても学業優良になりがちなので、自然とAクラスには、貴族の中でも位が高い公爵や侯爵など上級貴族の子弟ばかりが集中している。

名実共にハイクラスである。


Bクラスになると伯爵や子爵や男爵など、中・下級貴族の生徒が大半だが、平民も少なくない。

いわば、貴族平民混合クラスだ。


Cクラスになると逆転し、平民生徒が大多数で、貴族はごく僅かである。


ここだけ聞くと、なんだ結局身分制はあるんじゃないかと思うが、実力主義はきちんと機能している。


というのも、学業成績が目覚ましい生徒にはクラス昇級試験の機会が与えられ、これに合格すれば、たとえCクラスの平民生徒でも上位のBクラスに所属替えできる。


逆にAクラスの者でも成績不振だと、BクラスやCクラスに配属されてしまうことがある。

Cクラスの極僅かな貴族生徒は、AやBからの落伍者ばかりという話だ。


そういえば俺はどのクラスに編入するんだろう。

子爵だからBクラスが妥当か、いや編入試験も受けるか分からないし、Cクラスかな。


母上からその辺りの説明がなかったので、不明だ。

聞いとくんだった。


なんて考えていると、城壁に囲まれた王国への入り口が見えてきた。


まずは門を通って入国しなければ、始まらない。


門の前には王国兵が駐在しており、厳重に入国審査をしていた。


俺は入国希望者の列に並び、順番を待った。それほど時を経ずに俺の番がきた。


「ようこそ。カシワール王国へ。入国許可証はお持ちですか?」


「はい。こちらに」


俺はあらかじめ作成しておいた入国許可証を兵士に提示した。

入国許可証には俺の身分と入国目的などが記載されている。


「今度学園に転入される『グリメロ子爵家のソータ』様ですね! お待ちしていました。学園までご案内しますのでどうぞ馬車にお乗りください」


改変された俺の身分を見るや、兵士が事情を理解し、馬車まで手配してくれた。


「ご入学おめでとうございます。子爵様。私もお祝い申し上げます」


馬車の御者が語りかけてくる。


「ありがとう。しかしここまで親切にしてくれるとは意外ですね。子爵なんて下級貴族に過ぎないんですが」


御者の言葉に気分良くした俺は、つい疑問を口にした。

馬車に揺られながら浴びる風も気持ち良いものだ。


「何をおっしゃいますか。我々民にとってあの学園の生徒の方々は守護者であり、希望なんです。このぐらいは当然のことです」


学園の生徒はすごく信頼されてるんだな。

この御者の言葉でよくわかった。


「さあ学園に到着しましたよ。私はここまでですが、今後の活躍を願っています」


馬車は学園の正門のすぐ向かい側に止まった。


「はい。ご親切にありがとうございました。」


俺は御者に礼を言い、正門前に歩みを進めた。


それにしても高く、横幅もある門だ。

まるで城門だな。


「あのすみません、もしや転入予定のグリメロ子爵でしょうか?」


俺が城門を眺めていると、学園の中から現れた銀髪の女性に声をかけられた。


「はい。そうですが、はじめましてソータ・グリメロです。まず学園長のところに行って話をするつもりです」


我に返った俺はあわてて答えた。


「はじめまして。わたしはこの学園で教師を務めているアラモート・ダルトンです。学園長からは話は聞いています。私が案内いたしますので、着いてきてください」


自己紹介も手短に、話を進めるアラモート先生。


「それはどうもすみません」


「学園長は多忙なので、あまり時間がありません。ここから学園長室まで転送しますがよろしいですね?」


「そうですか。ではお願いします」


有無を言わさぬ勢いの問いかけに、俺は承諾した。

学園を見ながらゆったり歩きたかったのだが、仕方ない。


「学園長がこの中でお待ちです。ではわたしはこれにて失礼します」


転送魔術で学園長室まで俺を送ったアラモート先生は、もう用はないとばかりに、早々と去ってしまった。

慌ただしい人だなあ。


というか、俺一人で入っちゃていいのか?

普通は部下であるアラモート先生がまずノックして、上役の学園長に確認を取ってから、俺を入室させる運びになりそうだけど、違うのか?


でもアラモート先生は行っちゃったし、迷っていても詮無きことか。


俺は戸惑いつつ、ドアをノックした。


「どうぞ♡」


入室を許可する声が返ってきたが、


しかしどこかで聞き覚えのある声だな。


「失礼します。」


俺は嫌な予感を抱きながら、ドアを開けた。


「いらっしゃい! ソーちゃん♡」


「あ、ごめんなさい。部屋間違えたみたいです。失礼しました」


入室して視界に入った人物に俺は思考停止。ドアを閉め、引き返した。


うん。これは何かの手違いだ。


「もうソーちゃん何照れてるの♡」


「うわあああああああ!」


しかしその現実逃避も虚しく、抵抗できない謎の力が俺に働き、強制的に部屋の中に戻されてしまった。


「王立魔術師養成学園へようこそ!」


目の前につい先ほど、俺を送り出したはずの魔王モンテ・ブランがいた。

擬態魔術で多少容貌が変わっているが、母上に間違いない。


「どういうことですか!? 母上がなんでここに?」


「改めて自己紹介するわ。魔王モンテ・ブラン改め、王立魔術師養成学園で学園長をやっている『ブランモ』よ。よろしくね」


「ええ……」


頭が追いつかない。


「その様子だと本当に分からないようね。ドッキリ大成功!」


はしゃぐ母上を前に呆然とする俺。

しかし少しずつ状況が飲み込めてきた。


「ドッキリってことは、最初から母上が秘密裏に計画を進めていた? 新任務というのは表向きで、俺を驚かすために全部仕組んだ話?」


「正解。ここまで驚いてくれて、私も苦労した甲斐があるわ。隠し通すのが大変だったわよ〜」


なるほど…ね。

これは一本取られた。


「どれくらい前から進めていたんですか?」


「千年前くらいかしら」


「はっ? せん!?」


全く気が付かなったぞ。


「だったらなんで出発前に泣いたんですか? まるで今生の別れかのようでしたよ」


「そりゃあ一時的とはいえ、私の実家から離れるんだもの。心情的には寂しいわよ」


人のことは言えないが、子離れできない人だよなあ。


「ソーちゃんかわいそうだから、ネタバレするわね。プリィもう入っていいわよ」


満足した様子の母上が俺のよく知る人物を呼ぶ。


「失礼します。ブランモ学園長、わたしをその名で呼ぶのはおやめください。ここではアラモートです。」


「そうだったわね。ごめんごめん!」


つい先ほど別れたアラモート先生、もとい五大将のプリィが入ってきた。


「プリィも俺を騙してたのか。隠し事なんてしない素直な子だと信じてたのに……」


「申し訳ございません先生。母上には逆らえませんから」


あまり罪悪感が伝わってこない調子で、謝罪するプリィ。


「それは置いておいて。わたしは教師のアラモートです。当校では魔薬学を教えています。以後よろしくソータ・グリメロくん。ここでは子爵といえども、生徒しての自覚を持ってもらいますから、その理解もよろしくお願いしますね」


「はい…こちらこそよろしくお願いします。アラモート先生…」


完全に学園教師になりきったプリィに圧倒され、ただ頷くしかなかった。


「さしずめ他の五大将も教師になってるんですよね母、いや学園長?」


「もうここまでくると流石に理解したようね。他の子にもすぐ会えるから、こうご期待!」


俺としては色々な意味で期待できないんだが…


今まで先生と呼ばれていた俺だが、これからは一生徒として過ごすんだな。


少し戸惑いはあれど、新しい変化に応じつつあった俺であった。

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五大将最弱の俺が学園生活を送ってみた 左高 桃源 @suruto18

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