出立

昨晩の教え子たちのおかげ(?)で、快眠できた俺はとても気分よく起きれた。


今日からいよいよ新生活が始まるのか。


「トントン」

朝食と身支度を終えて程なくした時、ドアがノックされる。


「ソーちゃん起きてる? 入るわよ」


「はい。大丈夫です」


母上が入室してきた。


「おはようソーちゃん。よく眠れたかしら?」


「おはようございます母上。おかげ様でね」


「さっきはお盛んだったようね♡」


ベッドを眺めながら、母上が意味深なことを言う。


「あはは…分かっちゃいましたか」


どうせ発覚しているので、昨晩の情事を俺は否定しない。


「私もちょっと若かったら参加したかったな〜」


「え!?」


母上の言葉に俺はドキリとした。


母上さえよければ俺は…


思わず情欲を剥き出しにしそうになる俺。


「冗談よソーちゃん♡ 私までソーちゃんを取っちゃったら、あの子たちに悪いからね。こうやってお話したり、たまに抱きしめたりするだけで十分よ」


「あ、ああ冗談ね」


母上に一本取られてしまった。


「それにしても母上がわざわざ来なくても。これから伺いに行きましたのに」


俺は気恥ずかしさを隠すように、話題を移した。


「いいのいいの。頼んだのは私だからね。それに我が子の旅立ちをじっくり見送りたのよ。改めて言うけど、学園生活を存分に楽しんできなさい。いいわね?」


「当然そのつもりです」


俺は自信たっぷりに答えてみせた。


「しかし見送りは母上だけなんですね。ベリ姉たちも連れてこなかったんですか?」


「お母さんだけじゃ寂しかったかしら?」


「そりゃあまあ…シフォンとプリィは起きれないのも無理はないですが、せめてベリ姉やキャラ子からも見送って欲しかったですね。俺ってその程度の存在だったのかな」


「そんなことないわ。悲観しちゃダメよ。きっと色々事情があるのよ」


「だといいんですが」


いじける俺に、母上は困惑した様子で励ます。


「さて転送魔術をかけるけど、準備はもういいかしら?」


「お願いします」


しかし…


「う…くすん、くすん…ふええーん」


「どうしました母上?」


転送魔術『コンペートー』を待っていた俺だが、母上が泣き出してしまった。


「いえね…ぐすっ…ソーちゃんの為とはいえ私の元から離れると思うと、悲しくてね…」


「母上涙はおやめください。俺まで悲しくなります。たとえ離れたって通信魔術の念話で話せますし、また転移すればお会いできますよ。」


「それは分かってるんだけどね…」


「俺が使命を終え戻って来たとき惚れ直して見せます! 今の涙だってその時に忘れさせてあげますよ。なーんてね」


母上をなだめるために歯の浮くような台詞を言ってしまった。


「くすっそうね。期待して待ってますわ旦那様♡」


「うおっ!」


俺のキザな台詞よりも遥か上をいく、殺し文句で返されてしまい、呆気にとられてしまった。


ま、まあ母上が泣き止んだならいいか……


「今度こそ送り出すわね。あ、そうそう、ベリちゃんたちだけど、これから嫌でも会うことになるから、寂しがることないわ」


は?


「母上、それってどういう―――」


問いただそうとした俺だったが、その言葉は転送魔術の発動によってかき消され、最後まで届くことはなった。


こうして俺の地上界グレークッキへの旅はなんとも、もやもやした出立となった。



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