過激な愛情

ガサガサゴソゴソ


「プリィ早くやりましょうよ…あなたも楽しみたいでしょ」


「やっやっぱりやめない? 今ならまだ引き返せるわ」


ん? これは夢か?

物音と誰かの声がする。 


「今更何を怖じ気ついているんですの。ここまできたらあなたも共犯。もう後戻りはできませんのよ」


いやこれは夢じゃない。


声の主はシフォンとプリィ? なぜここにいる?


俺は寝ぼけた頭で考える。


「き、共犯って、そんな言い方! 私はただ夜這いなんて卑劣なことするのは、よくないと思って」


「ふーん。だったらあなたは帰るか、そこで指をくわえて見てなさいな。わたくしは別に構いませんのよ? ひとりで楽しむだけですわ」


揉める二人の声を聞き、ようやく俺は事態を悟った。


「うふふふ。愛らしい寝顔だこと。まずはその唇からいただ」


「そこまでだ」


俺は完全に目を覚ました。


「あらもう起きてしまいましたか? プリィ話が違うじゃない。催眠効果が切れてしまいましたよ」


「そんなはずはっなぜ」


夜這いを阻止され焦る二人。


だがどこか余裕が残っているは気のせいだろうか。 


「君たちの考えることなど俺はよく分かっているぞ。シフォンさっき謁見の間で俺に腕を絡めた時、こっそり睡眠薬を注入しただろう。それも『十面魔華ラフレシア』の花粉を希釈していない強力なものだ。おかげでギリギリまで寝覚めなかったけどな」


俺は得意げに語ってみせるがこれは嘘だ。


シフォンの仕込みに気付いたのはついさっきである。


教え子に醜態を晒すまいと、見栄を張ってしまった。


「お見事ですわ。それで先生はどうするおつもりですか?」


お? あっさり認めたな。


「無論お仕置きだ。たとえ未遂でも、師として教え子の悪巧みは見逃せん。主犯はシフォンだな。プリィをそそのかして事に及んだんだってところか」


「そこまで分かっておいででしたか。先生はわたくしたちのことをよく知っているのですね。いやーん♪ お仕置きだなんて怖いですわ」


くねくねと身体を揺らすシフォン。


プリィはというと、無言で俯向いている。


「おいプリィ黙ってたってだめだぞ。シフォンの甘言に惑わされたとはいえ、共謀した事実は変わらないんだからな。その催眠薬もプリィが作ったんだろ」


「ひゃうっ」


立ち上がった俺に指をさされ、明らかに動揺するプリィ。


「ま、情状酌量してプリィだけには手心を加えてや、る、から、安、心、し、ろ、よ?」


お仕置きにかかろうとしたまさにその時、意識が朦朧としてきた。

俺自身の言葉も遅れて反響してくる感じがする。


「先生どうなされましたか? 足元がおぼつかないようですが?」


白々しく俺を案ずるシフォン。


「まさか…催眠…薬…の他…に…も…何か…毒…をもったのか…」


催眠効果はフェイント?


「その通り。最初の効果は見破れても、そこには気付かなったようですね。催眠とみせかけて、麻痺を与える二段構え策ですわ。プリィようやく本丸の効果があらわれましたわよ」


「や、やったあ!」


打って変わって喜ぶプリィ。


「プリィ…そん……な…巧みな…調合を…」


「さ、先生起きていたらお身体に障りますわ。安静にしていませんと♪」


無抵抗の俺を抱き上げ、ベッドにそっと横たわらせるシフォン。

慎重に頭も枕の上に乗せられた。


その丁寧な動作がわざとらしい。


「遅…効…性…の…麻…痺で…俺を…油…断…させた…だと…」


「難しことは何も考えなくていいんのですよ〜 全部わたくしたちにお任せくださいな♪」


「先生ごめんなさい。でもこのままだと、私がお仕置きされるから、やられる前にやっちゃいます!」


ウキウキしたシフォンと、据わりきった目のプリィが俺に迫り寄る。


「や、や…め…」


「大丈夫♪ 大丈夫♪ 痛いのは最初だけで、すぐ気持ちよくなりますわ♪ 天井の染みを数えている間に終わりますからご安心ください。あ、わたくしはまず上で楽しみます。下はあなたに譲りますわ」


「はあはあ…ありがとね。シフォン。」


ここにきて息を合わせる二人。

君らホントは仲良しだろ。


アーッやられちまう!


────────────

────────

─────

───


数時間後


俺たちは激しい運動で、息が絶え絶えになっていた。


「ぐっ…動けん」


「ああ…天にも昇る気持ちですわ…」


「しゅごい…しゅごいよ」


シフォンは床に恍惚とした表情でベッドに座り込んでいる。

プリィはベッドの上でピクピクと震えている。


「今日も先生には勝てませんでしたね…これだけの状態異常を与えたのに…本当に底なしの精力ですわ…おまけにテクニシャン…」


「まあな…普段の実力差はもう諦めるが、この技量だけは負けるわけにはいかないからな…俺の最後の意地だ。にしても…ったく絞り取りやがって…シフォンは吸血鬼というより淫魔だな」


実際問題、今回の夜の勝負は薄氷の勝利であった。


日頃から『魔甲獣ゲンブ』を漬けた精力剤を飲んでいなかったら、確実に負けていただろう。


習慣が俺を救ったといえる。


「負けるつもりはないが、こんなことが続けば本当に干からびて、殺されちまうかもな」


「その時はキャラ子の蘇生魔術で復活させるから問題ありませんわ」


「だとしてもそんな恐ろしい体験はごめんだ」


軽く言うシフォンに俺はただ嘆息するばかりだった。


実際キャラ子はどんな死者も復活することができる。しかも代償なしで可能だ。


本来蘇生レベルの超級聖魔術は術者になんらかの代償を支払わせるのだが、キャラ子にそんな条理は通用しない。

堕天後キャラ子は光も闇も知り尽くし、常識を超えてしまったのである。


やれやれ。俺の周囲は化け物ばかりだ。


「そういえばキャラ子は来なかったんだな。3人相手にしないおかげで俺は助かったけど、誘わなかったのか?」


「ええ。声を掛けたのですが、断られましたわ。先生とは1対1で交わりたいんですって。ホント独占欲の強い子ですわよね。」


「なるほど。キャラ子ならそう言うだろうな」


妙に納得してしまった俺は、本当の意味での睡魔に襲われた。


「余韻を楽しみたいところですが、この辺りでわたくしたちは失礼させていただきますわ。先生もわたくしたちももう限界のようですから。ほらっプリィしっかりしなさいこの色ボケ死神」


「ふえぇ…なんらのよ…?」


俺の真の眠気を察知したシフォンが、放心しているプリィをつつく。


ん? 真の眠気? 


ひよっとして睡眠薬も麻痺薬も夜の勝負も全て俺への気遣い?


明日のことを気にし過ぎて、そわそわしている俺を快眠させる為に仕組んだのか。


「ありがとなシフォン。やり過ぎだと思うが、おかげで今日は眠れそうだよ」


「あらなんのことでしょうか? わたくしたちはただ楽しみたいからやっただけですわ。わたくしに対して、下手に出なくても今日はもう襲いませんからご心配なく。今日は、ですけどね♪」


少し驚いた様子で、とぼけるシフォン。


「早く帰りますわよ。まったく世話が焼けますわね!」


何度つついても起きないので、シフォンは渋々プリィを背負った。


「おやすみなさい先生。明日から始まる任務の成功祈っていますわ。」


「ああありがとう。おやすみ。」


プリィをおんぶしながら、シフォンは帰っていった。


さっきも思ったが、この二人絶対仲良しだろ。


俺は微笑ましく見届けると、ついに眠りに落ちるのだった。










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