真の目的

「ソーちゃん改めて今回のお仕事の説明をするわね」


俺と母上が二人きりになる。


「現五大将に代わる人材も重要なんだけど、それよりもソーちゃんには地上界グレークッキでの生活を楽しんできて欲しいの」


母上から意外な本心を告げられる。


「お気遣いはありがたいのですが、俺はここでも十分楽しい思いをしていますよ」


ベリ姉と軽口を言い合ったり、他の教え子たちと談笑する。


そんな日々を送りながら、母上の愛するこの世界を守る。


俺にとっての日常とは、かけがいなく、愉快なものだ。


「ええソーちゃんの言う通りね。でもねソーちゃんはまだ魔界というこの狭い世界のことしか知らないのよ。お母さんはね、ソーちゃんがこの機会に違う世界のことも知って、視野を広げるべきだと思うの。そもそも」


母上はいったん言葉を区切り、表情を曇らせた。


魔界クロミーツの平和の為とはいえ、長年ソーちゃんを狭い世界に閉じ込めてしまったのは、私の責任よ。ごめんね」


母上は申し訳なさそうに言った。


「そんな! 母上のせいだなんて思ったことありませんよ。今の俺があるのは母上のおかげです。母上が悲しむ顔なんて見たくありません。どうかご自分を責めるのをやめてください。この俺ソータ・グリメロは、いつまでも魔王モンテ・ブランの子です。信じてください」


つい熱くなってしまう俺。


「な、なんていい子なの…私の方こそ不甲斐ないお母さんでごめんね! これからもこんなお母さんをよろしくね!」


感極まり抱きつこうとする母上 


あ、これデジャヴ。


「お母さんの愛情も不変よ! 信じてね!」


「ぼふっ、ふぁっふぁい」


俺は咄嗟に体内の魔力を風属性へ昇華した。そのおかげで即席の酸素が蓄えられ、窒息は免れた。


「いつまでもこうしてちゃだめね」


母上が離れる。

ちょっと惜しいと思う俺も大概マザコンだよなあ。


「お母さんの愛が伝わっているなら、広い世界を知ってほしいと思う親心がわかるわよね」


「当然です。地上界グレークッキを楽しみ見聞を深めてきます」


「いいお返事が聞けてよかったわ」


満足そうに頷く母上。


「じゃあ説明するわね。明日ソーちゃんは地上界グレークッキの学園に転入することになってるわ。それも子爵家の子息の転入生としてね。その設定で人間に擬態してちょうだい」


「分かりました」


「学園に着いたらまず学園長と会ってね。お母さんから学園長には話を通しているから、後は案内に従うだけよ」


「なるほど。母上はもう学園長を味方の魔族に挿げ替えているわけですね」


母上の細工に感心する俺。


「首を挿げ替えるだなんて、そんな人聞きの悪いこと言っちゃダメよ♡」


苦笑した顔をみせる母上。

まあとぼけちゃって。


「あとは学園までの道のりだけど、私の転移魔法があるから特に迷うこともないわ。私からの説明は以上よ。何か質問はあるかしら?」


「はい。任務の経過報告はどの程度すればよいでしょうか?」


「ソーちゃんに任せるわ。さっき言ったでしょう、お母さんはお仕事より、学園生活を楽しんでほしいって」


「ではそのお言葉に甘えます。俺からも質問は以上です」


なんだか明日が楽しみになってきたな。


「ならよかったわ。明日に備えて今日は早く寝なさい」


「そうさせてもらいます。母上おやすみなさい」


「ええ。ぐっすりおやすみなさい。」


俺はその場を後にした。


自室に戻った俺は軽食をとり、地上界グレークッキに関する書物を少し読んだ。


疲れたといっても、まだ就寝には時間的に早く、あれこれ明日のことを考えてしまい、落ち着けなかった。


だがそれではいかん。休養は大事な活力。夜ふかしは健康の天敵だ。

俺は逸る気持ちを鎮め、ベッドに入った。


ん? なんだか急に眠気が襲ってきたぞ。


さっきまで冴えてた目が嘘のように重くなり、やがて俺の意識は闇に落ちた。


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