新たなる使命

「もうベリちゃん! お母さんに失礼なこと言っちゃだめでしょ。しばらく反省していなさい♡」


五大将最強にして、竜神であるベリ姉を拳一発で沈めるとは、恐ろしや魔王様。



「ねえソーちゃんはお母さんのことをBBAとか年増だなんて思ったりしてないわよね? ね?」


お、俺に振るのかよ。


「そのようなこと毛頭ありません。母上は美しく、いつまでも瑞々しいです。それはもう花も恥じらうほどです。俺は子として、そんな母上を誇りに思い敬愛しております。」


俺は震えを隠しつつ、母上を褒め称える。

大げさかもしれないが、これは本心である。


実際お忍びで母上の買い物に付き合う時、街で一緒にいると、親子ではなく、若い恋人同士に間違われることが多い。

俺自身、本当に老いを知らない方だなといつも驚いている。


「ありがとうソーちゃん! お母さんも正直な子を持ってうれしいわ♡」


よし、危機は回避できた。


「ソーちゃん魔力いただき♡」


だが嬉しさに舞い上がった母上が俺を抱きしめる。


「フゴゴゴゴゴ」


む、胸が。

母上の豊満な両胸が顔を圧迫して、苦しい。


「さてソーちゃん魔力も吸収できたし、本題に移るわね」


すんでのところで、解放された。


一方ベリ姉は、壁に激突し、腹部を抑えながら「ウ、ウ、グ、グエエ」と、嫌なうめき声をあげている。

こっちまで痛くなってきそうだ。


「あなた達五大将に集まってもらったのは他でもないわ。新しい使命を告げるためよ」


一体なんだろう。


「今日まで魔界クロミーツの平和はあなた達のおかげで保たれてきた。幾度におよぶ天界シロホップの侵攻を悉く撃退してきたことには、魔王として感謝するわ。でもそれも永遠ではない。今日明日の話ではないけれど、天界が私たちを超える勢力を整える可能性もあるわ。となると、あまり考えたくないけれど、あなた達に万が一のことがあった場合にも備える必要があるの。そこで」


母上の視線が俺を向く。


「早速だけどソーちゃん。あなたに任務を与えます。一週間後、地上界グレークッキの魔術師養成学園に潜入し、五大将の副将、もっといえば五大将の候補としてふさわしい人間を見出してきなさい」


これは重役だな。


「一週間とはいわず、明日にでも出発しますよ。早ければ早いほどいいのでしょう?」


「ええそうしてくれると助かるわ。それにこの役目はソーちゃんにこそ務まると思っているの。今の五大将の内3人はソーちゃんが推挙したよね。その実績を信頼してお願いするわ。頼まれてくれるかしら?」


いつになく真剣な眼差しで俺を見つめる母上。


「はい。母上がそこまで俺を買ってくれるなら、その期待に応えてみせましょう。その役目お引き受けします」


俺は迷いなく言った。


「他の皆も異論ないわね?」


母上が皆に問いかける。


「はい。先生こそ適任です。異論ありません」


「ええ。先生の手腕は教え子たるわたくしが保証いたしますわ」


「あい。わっちたちに代わる人材楽しみに待つでありんす」


教え子たちの温かい後押しに感動する俺。


「アタシも賛成だ。ソータよ存分に役目を果たしてきな」


遅れてベリ姉の声援がくる。


「お、ベリ姉生きてたのか」

「お姉様の棺桶が不要になりましたわね」

「一度死んだ方が静かになってよかったのに」

「ふてぶてしいほどの生命力でありんす」


散々に言われるベリ姉。


「うるさいぞお前ら! 少しは五大将筆頭のアタシを敬えよ! それにソータお前があたしを超えるまではまだくばらんよ」


勢いよく返すベリ姉。


「おや? ベリちゃん余裕そうね。もっと強く力を込めればよかったかしら?」


だがそれを見逃す母上ではない。


「いや痛いです! 苦しんでます! 反省してるから、もう許してください!」


あ、低姿勢にもどった。


「母上、今回あえて天界の領域たる地上界グレークッキから人材を確保するのは、敵を内部から切り崩すという狙いもあるんですか?」


「その通りよ。もっともこれは私の案ではなく、プリィちゃんの献策よ。褒めてあげなさいソーちゃん先生」


母上がプリィに微笑む。


「やるなプリィ。師として鼻が高いぞ」


「先生まだ実行してもないのに気が早すぎます。その言葉は成功した時まで取っておいてください」


まんざらでもない様子のプリィ。


「プリィちゃんは心配性ね。お母さんは前祝いの準備を考えていたのに」


それはフラグっぽいので、やめてください母上。


「少し見直しましたわ。貴方もいやらしいことばかりではなく、きちんと戦略を考えてますのね」


余計な一言を加えて、好敵手を褒めるシフォン。


「わっちもおみそれしました。頭の中は桜のごとく桃色かと思っておりましたが、そうではあらんようですな」


キャラ子もなかなか。


「誰がいやらしいですって? 特にシフォン! あんただけには言われたくないわよ!」


哀れプリィ。だが怒った顔も素敵だ。


ここでふと疑問が浮かぶ。


「母上、新任務については理解しましたが、それでは今日何のために五大将全員を呼んだんですか? 俺の単独任務なら直接命じれば済むことですよね。俺が適任か意思確認をするためだけに、他の4人も呼んだのですか?」


「安心なさい。主役はソーちゃんだけど他の子たちにも支援はさせるわ。それも面白く、…いえ何でもないわ。いずれ分かることだから、大丈夫よ」


ちょっ今面白いって言いかけたな? 母上は何か企んでるに違いない。

だがここで聞いても絶対に答えてくれないだろう。


母上のことだ。決して軽薄な考えはないはず・・と信じたい。


「さあお母さんからは以上よ! 皆ご苦労様。帰ってもらって構わないわ。あ、ソーちゃんだけはまだ残ってね。少しだけ話があるから」


「じゃあなソータ…く、さっきの一撃がまだ痛むぜ。今日は治療に専念しないとな…」


「お先に失礼します。さあ帰って研究の続きをしなくては」


「おやすみなさい。この後が楽しみですわフフフッ」


「わっちも失礼するでありんす。最近貧血気味で体調が優れんでござんす。でも先生の肉人形完成のためには安い代償、ウィヒヒヒ・・」


俺以外の将が別れを告げ散っていく。


一部不穏なことを言っている者もいたが、気のせいだな!







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