一家団欒

「皆さん、もうそろそろお母様を出迎えなくてはいけませんよ」


プリィに言われて気付く。


お母様とは魔王のことだ。

魔王と俺たち五大将は直接血縁関係があるわけではないが、親子の契りを交わすことで、絶対的な主従関係を結んでいる。


さらに五大将は魔王の居城にそれぞれ区画を与えられ、そこで衣食住を共にしている。

他の世界では諸将は王とは離れた場所に領地を与えられるようだが、魔界クロミーツはあえてこうすることで、絆を深めるというわけだ。


これだけ聞くと、なんだか拘束的で窮屈な感じがするが、実際は居心地が良い。

まあそれはじきに現れる魔王を見れば分かることだ。


「今日の号令係は誰だっけ?」


「わたくしですね。では謹んで号令させていだきます」


「上様のお~な~り~!」


進み出たシフォンが甲高く叫んだ。


『ドン! ドン! ドン! ドン!』


シフォンの号令に合わせてキャラ子が、どこから取り出しのか、楽しそうに太鼓を叩いた。


「皆の者、大儀である」


魔界を統べる俺たちの偉大なる母、魔王モンテ・ブランが仰々しく現れ、玉座に鎮座する。


「ははーっ」×5


一様に頭を下げる俺たち五大将。


その緊張も束の間、


「ん〜いつやってもこの登場はいいわね。本当に将軍になった気分! あっみんな楽にしていいわよ」


母上はピンクのショートカットを靡かせ、破顔した。


ちなみにこの号令から始まる一連のやりとりは、「暴れん坊オーク将軍」という魔界クロミーツのご長寿時代劇が好きな母上が、劇中のお決まりシーンをそのまま真似したものだ。


「あのワンパターン時代劇、おふくろはよく飽きないな」


それは否めないなベリ姉。


「それがいいんじゃない。結末が毎回わかってる分、安心してみれるし」


確かに精神衛生上は良いと思う。


「わたくし、あの時代劇嫌いではありませんが、いまだにこの号令慣れませんわ。ついうっかり、おーなーりのところをオ○ニーって言ってしまいそうです。今日も先生のことを考えながら指入れオ○ニーしたばかりですし」


いきなり猥褻ネタをぶっこむシフォン。


「ちょっと! お母様の前でなんてこと言うの! あんたには恥じらいってもんがないの!」


泥酔したドワーフのごとく赤面するプリィ。かわいいなあ。


「あらプリィはん、そないこというてもついこの前、例の張り型でご自分を慰めてたではありやせんか」


キャラ子よ。それは言ってやるな。


「な、なんでそれを知って?はっしまった」


墓穴掘るところはまだ未熟だ。


「ふーん貴方もやることやってるんじゃない。このムッツリさん♪ キャラ子がを再現した張り型を作ったっていう噂は本当だったのね」


ん?


「おい、ちょっと待って、ってまさか」


「はい先生。キャラ子ったらの大きさ・形そのまま忠実に再現した張り型を完成させてしまったんですよフフフ♪ それをプリィも使っていたんです。一体ドスケべはどっちなんだか♪ あ、キャラ子、後でその張り型わたくしにも作りなさいよ」


衝撃の事実をさらっと暴露されたぞ。


「キャラ子いつの間にそんなもの勝手に作ったのか?ということは、の型も取ったってことか?」


俺はキャラ子を詰問する。


「先生がわっちに構ってくれないからいかんのです。加えていうと、それだけ先生をお慕いしてるんどすえ」


悪びれもしないキャラ子。


「その気持ちはとても嬉しいが、勝手に淫らなことをしたのはいけないな。」


「まあまあソーちゃん。恋する乙女のすることに目くじら立てちゃダメよ。お母さんは、我が子たちの青春が見れて嬉しいわ♡」


一連の騒動を青春の一言で片づけてしまう母上。

いやはや流石は魔王様。器が大きいですね。


「ギャハハハハハハヒィッヒィゴホゴホッ」


俺が教え子と愉快な会話を続ける間、ベリ姉はずっと笑い転げていた。しかもむせてるし。


「おいおいベリ姉。面白いのは分かるが、そんなに笑うなよ。照れ屋のプリィがかわいそうだろ」


「ギャッハハッち、ちげえよ色情魔、ア、アタシが笑ってるのはそ、そこじゃねえよウ、ウヒッ」


もはや苦しそうだな。あと色情魔言うな。


「じゃあ何がそんなに可笑しいんだよ」


「だ、だってう、上様のオ、オ〇ニーだぜヒィ、だ、誰がこんなBBAの自慰なんてみ、見たがるんだよっ、ウッヒャッヒャ!」


瞬間、ベリ姉以外が静寂に包まれた。

やっちまったなベリ姉。


「ねえベリちゃん、一人だけ笑ってずるいわよ。何が面白いのかお母さんにも教えなさいな♡」


あくまで穏便に追及する母上。しかし目が笑っていない。


「アーハハハッだから年増の自慰なんて、なんの罰ゲームだって、あ、お、おふくろ?」


ここに至り、ようやく自身の過ちを悟ったベリ姉。


「なるほど、それは愉快ね♡ それはそうとベリちゃん。暴れん坊オーク様の悪党成敗シーンをやってみたくなってきたんだけど、試しに悪役やってみない?」


「い、いや遠慮しておくよ。ア、アタシより適任がいると思うしっ」


青ざめた顔で、母上の恐ろしい提案を避けようとするベリ姉。

しかし時既に遅し。


「まあまあ遠慮しないでよ。えいっ」


母上は目にも止まらぬ速度で、ベリ姉の至近距離に移動した。


「成☆敗」


そして魔界クロミーツ最強の鉄拳がベリ姉に叩き込まれた。


無慈悲にもベリ姉が防御体勢を整える間もなく。


せめて辞世の句を詠ませてあげればよかったのにな。

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