第十九話

 もそもそ、と掛け布団の内部の熱を逃さいように微調整しながら、クルッと寝返りをします。

 すると、寝ぼけ眼に見えるのは、わたしの寝室に備え付けてある、剣置きソードラック


 ぁー。

 落下したんですよ、ねぇー。

 


 ミノタウロスの振り下ろした巨大な斧が地面にぶっかった、衝撃で、床が崩れたんです。だって、下が空洞、崩れます。

 そして、

 わたしは、落ちていきました。

 幸運と呼ぶには、不運であり、不運と呼ぶには、幸運でした。

 死んでいてもおかしくない高さから落下することになったのですが、不幸中の幸いだったのか、怪我は軽症ですみました。

 ――幸運です。

 

 ところが。


 ミノタウロスも、わたしと一緒に崩落に巻き込まれて、いたのです。

 そこは狭い穴と呼ぶ部屋でした。上は穴が開いているだけで、自力で登るには高くダメ、横も四方が塞がれておりダメ。

 それは完全に退路を失ってしまったことを意味していました、絶体絶命の危機。

 ――不運です。


 

 死という未知の恐怖に怯え、未知のはずの死を覚悟したときでした。

 突如として自分の眼前に年端も行かぬ少年が、姿を現し。そして、 いとも容易く、ミノタウロスを真っ二つにして、倒してしまいました。

 死という恐怖心と助かった安心感から、意識が放浪の旅に出かけている真っ最中に。

 わたしのファーストキスを奪われてしまいました。

 いま、思い出すだけでも…………。

 

 ――きぃぃぃぃぃーーーーー!!!!! 


 あと、あと、問い詰めると。

 言い訳がましく、

 あのときは、つまズいたん、や。それで、胸、触ってもて、やな。ちゅー、も、じこ、ジコ、完全に事故、やから。

 ほんとやで、しんじ、てーなぁー、

 と、

 のたまってました。

 

 …………居候あのひと…………。


 ししょう、いわく。

 なんでも、で、する、男は、してはいけません。よ、とのこと。

 足が痺れて、倒れているときに。もっと、弄り倒しておくべきでした。

 

 そうです、そうですよ!

 

 わたしに謝罪の言葉を言っているのだと思っていたら。ただ、わたしの胸を誉めているとう最悪最低な、こと、も、してました。

 

 女の敵です――あの、居候。

 

 あのとき額でなく、目を刺しておけば、よかった、です。

 ししょう、が、額は人体の骨のなかでも、強度があるので。顔で刺すなら、目を狙ったほうが、効率いいですよって、教えてくれました。

 なんでも。

 ペン、一本で、人、殺せるそうです。

 目に突き刺して、力いっぱい奥に押し込めば、相手に大怪我をさせることができるそうです。

 あと、首尾よくいけば、脳みそまで到達して――はい、死亡、だそうです。

 護身用として、胸ポケットに一本ペンを挿していると、いいそうです。ペンは剣よりも強し、だ、そうです。

 

 そういえば。

 お母さまも、

「ペンは便利よねぇー。両方の仕事に使用できるから」

 って、言ってました。

 お父さまは、

「僕は。書類に署名したり、控え書きに使用するのが、……正しい……ペンの……使い方……だと……思う……なーぁー」

 って、言ってました。


 あれ? 同じ仕事場にいるのに…………。




「ふぅぇ~へぇ~、目、閉じてしまってました。しかし、ベットonのうえで布団inのなかで、ゴロ、ゴロ、は危険です。え~っと……ポカポカ、太陽さん…………」




 助けてくれた少年は、アート・ブラフと名乗りました。あの、伝説の対魔大戦の英雄の一人だと判明しました。

 一二○○年前なの方なのに、お子さま、でした。

 サイバーウッドでは、多種多様の種族の方たちが暮らしています。長寿の方も、いらしゃいますが。一二○○歳以上で、あの容姿の方は見たことがありません。エレファンタ大陸以外の他の土地に住まわれている長寿系の純血の方なら、あの容姿の方がおられるからもしれませんが。

 いまのところは、お会いしたことはありません。

 

 お子さま英雄に驚いている、わたしに、追い打ち驚きがありました。それは、一振の剣でした。

 その剣は、ウッパニシャッドと呼ばれていました。

 出会って、一目惚れして――ししょう、と、お呼びしています。

(この、一目惚れの意味は同性としての憧れという意味です。深く意味を追求しないように、お願いします)

 色気のある年上お姉さま……剣なんですけど、ね。

 浮遊し自動行動し、自己意識あり、居候と共謀して悪戯してきます。

 あと、

 うッぅぅぅぅぅ、ってウソ泣き名人でも、あります。

 小悪魔お姉さまです。

 

 わたし、お母さま、ししょう、と一緒にお茶をしているときに。

 

 ししょうが、

「女の涙はいい武器よねぇー。男を動かす、に、は」

 と、話されていると。

 お母さまが、

「そう、そう、イチコロ、です、よ、ねぇー」

 と、返答されていました。

 わたしが、

「女の涙が武器にならなかったら、どうしたらいいんですか?」

 と、尋ねると。

 お母さま、と、ししょう、

「殴って、効かす」

 と、の、こと。


 女子会に相席していた男子会陣営たちは。


 居候さんが慌てて立ち上がるなり、弟のルーファスくんの両耳を塞ぎながら、

「ちょ、お前ら。純情な子どもでしの前で、女の闇の部分を話す、な、教育に悪いわぁ。ワートも真に受けるなよ、聞き流せ、聞き流せよ、この女たちの会話内容は、基本」

 と、引きった顔で叫んでいました。

 居候さんが救援要請を求めるべく、目をお父さまに向けると、

「パパさんも。なに、して、ん、ねん。オタクの息子さん、そっちの性癖しゅみに走らせる、気、満々かい!」

 と、幸せに満たされる顔をしている、お父さまに、ツッコんでました。


 

 そのとき、

 わたし、

 顔、青ざめてました――スコーンによって……。

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