第十八話

 わたしは目を覚ました。

 耳の鼓膜が振動し、いつもの、わたしの日常の音が聞こえてきていた。

 不思議な体験をした感覚、が、残る。

 いつもの日常の音を聞いていると、あの体験は夢のなかでの出来事だったと想わせた。

 柔らかいベットが、ふわっと自分の身体を支えながらも優しく包み込み。自分の体温で暖められた空気を逃さないように、覆いかぶさる掛け布団の僅かな重量感。その心地よさの余韻に浸っていると。

 わたしは。

 またも、うと、うと、と目を閉じそうになる。

 

 どんな体験をしたのか? 消え薄れゆく意識のなかでの記憶を呼び起こしていく。

 


 夜が明け、世界が今日という一日が、始まるという合図を出すよりも、少し前に屋敷から抜け出しました。


 それは!

 

 魔王城の地下迷宮を冒険するためにです。

 

 まさか!


 対魔大戦時の魔王城を再利用した娯楽施設レジャーランドの増改築中に、未確認の地下迷宮が発見されたからなんです。

 そうそう。

 レジャーランドの名は、イリュジオン・レーヴです。

 設定はもちろん。

 あの、伝説のなかの伝説である、対魔大戦です。エレファンタ大陸に観光に来られる方、一度は行ってみたい場所、不動の一位に君臨しています。


 どうして、未確認の地下迷宮が発見されたことを知っているのか? 簡単なことです。

 お父さまが教えてくださいました。

 そのあと、お父さまはお母さまに怒られていました。ぁ、でも、ちょっと嬉しそうな顔してました。どうして、怒られているのに、喜べるんでしょう? いつも怒られて、ひーってなっている、わたしからすると不思議でなりません。

 

 で、


「ワート。もし、行ったら、わかってる、よな」


 と、

 やんわりとした笑顔いっぱいで、ねっとりした口調で脅してきます。お母さまが、いろいろな方達から――女帝と呼ばれている所以ゆえんの一つです。

 実際は、その他、諸々もろもろ諸事情しょじじょうが、女帝と呼ばせているんですけど、ね。


 女帝に言われたからと、いって、引き下がる。

 ――わたし、では、ないのです。


 "行くなと言われたら行くのが礼儀です"。


 

 とりあえず、寝返りを。


「うん、しょっ、と!」


 しかし、

 二度寝って、背徳感がありますね。でも、それが気持ちいいんですよねぇー。


「ふわぁ~」

 

 たしか……。

 ぁー、思い出してきましたよ。

  

 イリュジオン・レーヴには、不法侵入を防ぐために厳重な保安装置があったの忘れてました。

 解除しないで侵入したら、すぐさま警報音とともに警備隊が、姿を現して――逮捕です。

 で、

 わたしが、引き返すそうとしたときでした。

 開いたんですよ、それも、正面口が。 

 

 怖かったです、アレは。


 で、も、好奇心が勝ってしまったい、侵入しました。

 警備装置に引っかかることもなく、さらに、上手い具合に巡回している、警備隊の人にも見つかることなく。

 あっさりと立ち入り禁止の看板の置いてある――未確認の地下迷宮の入り口に辿り着きました。


 あら、不思議。

 と、

 不可思議に感じながらも――突入!

 

 光源石を密封してある袋から取りだします。

 光源石というのは、魔化学で生み出さえた特殊な石のことです。これは大気中に含まれている魔素成分と石のなかに含まれている化学物質が、結合することにより発光する石なのです。

 そのため、空気に触れないように密封された状態で販売されています。再利用可能で、化学反応が終わったら、その石を化学物質を配合した液体に浸けておくと、石に化学物質が、再度、染み込んで使えるようになります。

 注意として、大きく破損してしまうと、光源石として再利用不可になります。ただし、破損しても、べつの用途で再利用されます、よ。

 環境に配慮しています。

 

 ――えっへん! なのです、よ。


 この光源石は、発光魔法を使用できない人にありがたい魔道具なのです。

 あと、火を照明として使えないときにも、使用されます。洞窟などでは、可燃性のガスなどが充満していることがあり、引火して爆発するからです。


 では、この光源石をカンテラちゃんに入れると――視界良好!

 

 次はこれが必要に、なる、の、ですよ。

 

 じゃーん、じゃーん!

 

 室内空気質計測機器、別名、ピッピくん。


 空気の循環が良くない場所で使用します。

 空気循環の悪い場所は、本人が気づいたときには、すでに酸欠になっており。気絶し、発見されない、最悪、死。そのために、空気の状態を常に確認する魔道具です。

 あと、

 可燃性のガスは、有毒物質を含んでいるので、誤って吸ってしまうと、死んじゃいます。臭いで判断できる場合もあるのですが、臭いがしない場合もあるのです、よ。

 換気の悪い場所で調査や作業をする方の安全性を確保するために、開発された魔道具です。


 別名のピッピくんは、常にピッピと鳴っているからです。

 でも、危険度が最高になると。

 

 ――ピイイイイイィィィィィーーーーー!!!!!

 

 って、鳴りながら、点滅、お知らせしてくれます。

 最高潮のお知らせをしてくれているときは、死亡確定、一歩手前。なんですけど、ね。

 

 めっちゃ高価なのですが、家から拝借してきました。

 壊さなければ、問題ありません――壊さねければ、ね。

 どうして? そんな高価で専門的な魔道具があるの? という疑問が浮かんだ、あなたに、お答えしましょう。

 お父さまが、貿易関連の仕事をしているからです。


 では、電源を入れます。

 

 使用方法は簡単で、装置の先端部分を確認したい方向に向けているだけで、自動的に測定してくれます。

 あとは、測定された項目ごとの数値に対応する色で危険度がわかるようになっています。

 青色は問題なし、黄色は注意が必要、赤色は危険です。

 各種項目のに表示される数字だけだと、それなりに知識がある人ならば、正常なのか、注意が必要なのか、危険なのかという判断ができますが。

 専門分野外の方にとっては、数値だけで、良し悪しの判断をするのは難しいです。数値が高いと思っていても、それは正常で問題がない、とか。その真逆で数値がもの凄く低いと思っていたら……ダメ……って、専門分野の方が判断する数値だったりと、するわけです。


 おっと、

 では、

 冒険の続きです。



 ふらふらと、カンテラちゃんパワーで視界良好で状態で、未確認の地下迷宮を探索していました。

 ピッピくんも、問題なくピッピと鳴りながら、進んでいいよ、青色点灯です。

 ……しかし……。 

 言葉で一二○○年前と言ってしまうと、とんでもない時間経過をしているのに、あまり時間経過をしているように感じられません。

 世代で考えれば――二桁です。

 だって――微塵も感じられませんでした。

 この……地下迷宮……時間経過による……劣化……。

 まぁ、地下で外的要因影響が少ないので、ありえないこともない。かな? と思いながら。


 ぶらぶら、と探索再開です。

(ふらふら、から、ぶらぶら、に変化したのは。わたしのなかで、冒険心、数値が低下したからです。ピッピくんが反応していたら、ぴいいいいいぃぃぃぃぃーーーーー!!!!! と鳴りながら。赤色点滅しているでしょう)



 神さまって意地悪でした。

 すてきな、不意打ちをしてきてくれました。

 わたしが、退屈だと願ってしまったのが、いけなかったのかもしれません。


 

 急に空気が濁った気がした、わたし。

 ピッピくんは、正常に動作し、大丈夫であることを教えてくれていた。 

 でも、

 壁に反響して聞こえてくる呻き声。

 の

 正体は、ピッピくんは教えてくれなかった、教えられなかった。

 代わりに教えてくれたのは、わたしが持って周囲を照らし出しているランタンだった。

 

 ぽっかりと開けた口から、だらしなく流れ出る唾液が生臭い。頭と足は牛、残りの肉体は筋肉隆々の男性。

 ではなかった。

 巨大な斧を軽々と持ち上げている腕は、細身の女性の腰よりも少し太いぐらいなのですが。人の肉体では、どれだけ鍛錬をしたとしても、鍛え上げことが不可能。特別な筋繊維が生まれたときから、肉体に組み込まれ、モノ。

 

 ランタンに映し出されていたのは。


 迷宮の最深部に住み、迷い込んだモノたち食らう怪物。

 

 ――ミノタウロス。


 

 巨大な斧を振り下ろし、地面に打ちつけられた瞬間――落下。


 

「ふぇ、ねむって、しまって、ました」

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