第十四話
「あら、マ――アート。どうして、鼻の穴に服の切れ端を詰めているんですか?」
「おもっ糞、グーパンで。顔面、殴られたから、や」
「あら、あら、お気の毒さま」
「なにが、あら、あら、お気の毒さま、や、ねん」
「説明してください」
自身が手にしている一振の剣と左右の鼻の穴に服の切れ端を詰めている間抜けな少年に、腹の底から湧き上がる激怒を必死に抑え込むことで生み出される声音。
で、
ワートは尋問した。
「あら、あら、お気の毒さま」
「なにが、あら、あら、お気の毒さま、や、ねん。俺だけが、悪いみたいに、すな! じぶんも同罪やから、な!」
「あら、飼い犬の不始末の責任は、飼い主がするもの、です、わよ。ホォーッホホホホホ!」
「パンが無ければ、お菓子を食べればいいじゃない。的なノリで逃げんな!」
「あら、あら、アートさん。王妃はそんなこと、一度も言ったことありませんのよ、知らなくて? 糖分よりも教養を補給されたほうが、よろしくて、よ。ホォーッホホホホホ!」
「なに、ちょっと、お菓子にかけて上手いこと言っとんねん、って。そんなこと、知っとるわ!」
「せ! つ! め! い! し! て! く! だ! さ! い!」
「「…………はぃ…………」」
被害者――ワート・スワベージ。
は、
穴という薄暗い照明のなか、瞳孔が開いていた。
これは肉体に備わっている、暗い場所で多くの光を集めようとして、自然と肉体的機能に反応している――わけは、なく。
目は口ほどに物を言う――ことで、あった。
で、
加害者――アート・ブラフ、
と、
加害者(共犯者)――ウパニシャッド
は。
加害者(共犯者)、U、は――刀身、全てが地面に突き刺さった状態に、されていた。人で例えるなら、地面から、首だけが出でいる状態。
加害者、A、は――もちろん正座させられていた、の、だが。角張った石が敷かれた、上で。
そして、
「わたし、を、殺そうとしたの、ですか?」
「うんにゃ、それは違う」
しれっと答える。
「では、わたしに、ナニをしたのですか!」
ワートは自分の額をアートの額に押しつけ、鋭い眼光で黒い瞳を猛然と睨み凄む。
「必要なことをしたん、や」
青と黒の交わっている視線は微動だに、することなく、応答。
「ひ、必要な、こと?」
瞬きを数回どころか数十回している、ワート。
「なんや、目、見開きすぎて、ゴミ入ったんかぁ?」
――――きゅーぅー。
「ワ――マスター。もっと、こう、
ウパニシャッドの非常識な声援が、ワートを我に返した。
両手で首もとを揉みほぐしながら、
「ほんま、冗談の通じん、やっちゃな」と。
ぶうたれている、アートに魔女の白く美しい十本の指がゆっくりと近づいていく。
「ごめん、ごめんって、ほんま、ごめんな、さい」
「次、フザケたら殺っちゃってください、マスター。馬鹿は死ななきゃ治らないので」
「お、ま、アホか! そんなん言ったら、
「…………ぁれ…………。ししょう、わたしのことをマスターって、呼んでま、せん?」
「はい、マスター。そこの鼻の穴に服の切れ端を詰めている、へんてこりん、元所持者から。ワートさんが、私の所持者に変更されたから、ですよ」
「……………………ふえぇぇぇぇーーーーー!!!!!」
「ぉぃ、気絶してるぞ」
「私、初めて見ました。二回連続で気絶するの」
「おれも、や」
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