わたしと十三番目の英雄

第十三話

　とても、とても、不思議な感覚でした。剣を持っていると身体は、ちゃんと認識しているのに、重さを全く感じないのです。

　持っているのに、持っていない。

　底知れない不安が身体を蝕んでいきます。

　この世界に自分自身の――

　あのとき、ミノタウロスに殺されかけたときに感じ取った、死の恐怖ではなく、

　――存在しない。

　死は自分がこの世界に存在して、そして、消える恐怖。でも、この恐怖はあきらかに違う。

　すべて、スベテ、全て、を――否定。

　わたし、ワート・スワベージという存在――否定。

　お父さま、お母さま、ルーファス。

　だれ、ダレ、誰。

　お父さま、とは――だれ？

「お父さまは、お父さまです！」

　――否定。

　お母さま、とは――ダレ？

「お母さまは、お母さまです！」

　――否定。

　ルーファス、とは――誰？

「弟のルーファスです！」

　――否定。

　こわい、コワイ、怖い！

　怖い、コワイ、こわい――とは？

「助けてーーーーー！！！！！」

　　怖い、コワイ、こわい――とは？　怖い、コワイ、こわい――とは？　　怖い、コワイ、こわい――とは？　　怖い、コワイ、こわい――とは？　　怖い、コワイ、こわい――とは？　　怖い、コワイ、こわい――とは？　　怖い、コワイ、こわい――とは？　　怖い、コワイ、こわい――とは？　　怖い、コワイ、こわい――とは？　　怖い、コワイ、こわい――とは？　　怖い、コワイ、こわい――とは？　　怖い、コワイ、こわい――とは？　　怖い、コワイ、こわい――とは？　　怖い、コワイ、こわい――とは？　　怖い、コワイ、こわい――とは？　　怖い、コワイ、こわい――とは？　　怖い、コワイ、こわい――とは？　

「…………………………………………………………………………………………」

　怖い、コワイ、こわい――とは？

「きょうふ、」

　きょうふ――とは？

「シニタクナイ、」

　シニタクナイ――とは？

「シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ」

　シニタクナイ――とは？

「シ、」

　シ――とは？

「存在の証、やな」

「ソンザイノアカシ」

　ソンザイノアカシ――とは？

「ちょっと、だまってろ」

　個の中心――認識。

　宇宙――根理。

「近くに座す者と一時的に接触できた精神力の持ち主やからって。ちょっと、酷やったみたいやな。すまん、ワート」

「ダ、レ、」

「ぉおー。もう、主体（しゅたい）が、あるんか」

「だ、れ、」

「あとは、客体（きゃくたい）か」

「誰、」

「これは、心肺蘇生法であって。けっして、セクハラではないでぇー」

　むにゅ、ムニュ！

　…………。

　むにゅ、ムニュ！　むにゅ、ムニュ！

　…………、…………。

　むにゅ、ムニュ！　むにゅ、ムニュ！　むにゅ、ムニュ！

　…………、…………、…………？

　むにゅ、ムニュ！　むにゅ、ムニュ！　むにゅ、ムニュ！　むにゅ、ムニュ！

　…………、…………、…………、…………！

　むにゅ、ムニュ！　むにゅ、ムニュ！　むにゅ、ムニュ！　むにゅ、ムニュ！　むにゅ、ムニュ！

　…………、…………、…………、…………、…………！！！！！

　むにゅ、

　――――ぐぅわぁ！

「ぎゃゃゃゃゃあぁぁぁぁーーーーー！！！！！」

　――――ヒュ！　

　――――バッコン！

　ゴロ、ゴロ、ゴロ、ゴロ、ゴロ、ゴロ、ゴロ、ゴロ、ゴロ、ゴロ、ゴロ、ゴロ、ゴロ、ゴロ、ゴロ、ゴロ、

　――――ドッカーン！

「ぃ、てて。む、胸、もんで、自我が呼び戻ってくる、あたり。じぶん、さすがやで、ほんま。天才超えて天然やで。ぃ、てて」