第十二話
ウパニシャッドさんの刀身に明瞭に浮かび上がる赤色と青色の流れる正体不明の液体で管がうね動き、それはまさに、人体の血管にしか見えません。
わたし、いま、
ウパニシャッドさんは剣ではなく――生命体なのではないかと。
もし、わたしの考えが、正しければ。
としたら。
一二○○年前の対魔大戦とは――人智を超えた大戦だった。それなら……終戦後……第一次、第二次、第三次と、三度の大戦で、
現に、
目の前に居る、アートさんを包み込んでいる半透明な球体に表示されている、莫大な文字の羅列のなかに、一つとして、わたしの学んでいる文字や歴史資料館に展示される文献や発掘された出土品に記述されている文字すらありません。
――神元暦時代とは、いったい。
「ほんじゃ、まぁ。ちょっくらお仕事し、ま、しょ、か!」
半透明な一枚のボードをどこからともなくアートさんが取り出すと。そのボートには莫大な量の文字が羅列表示されいる文字と同じ文字が小さく表示されていました。
それにしても、見た目よりも完全におっさん臭い、言葉遣いで気合を入れましたね、アートさん。やはり、超、超、超、超、超、お年寄り、で、す、ね。
指の関節を一本、一本、パキ、パキ、と鳴らしていきます。
鳴らし終えると小さく羅列されている文字を一つ、一つ、ピアノの演奏する演奏者のように触れると、指でなぞられた文字が、もの凄いスピードで球体に表示されていきます。
素晴らしい華麗な指さばきを披露、してました…………、が。
――数分もしないうちに、指は動かなくなり。
球体に映し出されている羅列された文字を睨みつけながら、独り言を呟き始めました。
「あれ、これって、なんの制御するヤツやったけ?」「嘘やん、エラー、でてる、し!」「ぇ? ここ書き換えたらイケるんと、ちゃうん?」「誰やねん、これ組んだヤツ! 変なところで改行するんなや、読みにくいやんけ!」「って、オレやんけ!」「ぁかん、どうしよう…………。わからんようになってきてしもた…………」「ちゃんと……コメント残しておいたら……よかった……」「え!? こんなコード、書いた記憶が……ない……」「あかん! ドツボにはまってもた」「うぎゃぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!」
アートさんが呟き喚き散らしていると、いつの間にやら。アートさんを包み込んでいる球体の外側に大きく半透明なボードに、デカデカと文字が表示されており、それがチカチカと点滅していました。
――目が痛い、し、目に悪い、です。
あと、穴で反響して聞き取りにくいのですが。
けたたましく、ワニング? か ワーニング? という叫び声が。
――だ、だいじょうぶ? な、なんでしょうか? わたしの第六感が危ないと囁いています。
ただ、
その声は、ウパニシャッドさんとは別の人の声でした。無機質で創られた声と言った感じ、で。
「
アートさんは、話しかたも独特なうえに、意味が分からない難しいことをおっしゃります。
でも、
ニュアンスで言いたいことは、なんとなく、分かります。
だって、
自尊心に満ちた表情ではなく、劣等感満載の表情、してますから。
「知らん! 制御不能になったら、そのときは、そのときや。それ、ポチッとな!」
え! 制御不能って!
「再構築開始します」
「うごけ、うごけ、ちゃんと動けよ!」
ウパニシャッドさんに向かって、わたしに謝るどころか胸を褒めていたという。謎の儀式に、今回は上下運動が追加されていました。
はたからみていると、コミカルよりも滑稽です。
アートさん? 本当に、十三英雄、筆頭だったのでしょうか?
わたしの神元暦時代と対魔大戦の考察していた時間、返却希望。
「アート・ブラフからワート・スワベージに書き換え完了しました」
「おっしゃー!」
アートさん、飛びました――わたしが落ちてきた穴の天井の高さまで。
「はい!」
「はぃ?」
小さい子どもが自分の食べているお菓子をあげる。てきな、笑顔満開で言われましても…………。
とんでも危険物を渡されても…………こ、こまるんですけど…………。
アートさんの独り言の内容を聞いていたので、怖すぎて、持てません。ウパニシャッドさんも沈黙したままで、刀身はずーっと赤と青に交互に脈打つように、色が切り替わっている状態です。
これって、遠回しに死ねって、わたしに言ってますよね――絶対!
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