第十一話
「いかん! さすがに、遊び過ぎてもたな。次こそ、ここから脱出や」
少年Aことアートは頭を抱えた大げさなジェスチャーをしながらも、口調はまったくと言って、慌てていなかった。
あくまでも今までのことを全て無理矢理にでも、帳消しにするためだけの大根役者顔負けの役を演じているだけだった。
「マスター。鞘、どうします?」
監督であり剣であるUことウパニシャッドは、大根役者であるアートに対して
「鞘はここを出て状況が落ち着いてから、また探しにくることにする」
アートはウパニシャッド同様に事務的に、そして、冷静に答え返した。それが先ほどまで、大げさなジェスチャーが嘘だったこと証明した。
「了解です」
鞘をどうするかという相談が終了すると。あるモノを人差し指で、指し、アートが。
「なぁー。わるいけど、俺にその剣をくれ。代わりにウパニシャッドをくれてやる」
「…………、…………? ふえェ!」
少女Wことワートは、驚愕のあまりに脳機能が、オーバーヒートしてしまった。
……………………。
ほんと、この人は――なに? を言っているのでしょうか?!
英雄譚なかの英雄譚と呼ばれる対魔大戦の英雄筆頭が使用していた剣をお茶会で女の子同士の会話でよくある。"わたしのお菓子とあなたのお菓子、一つ交換しません"。
てきな、気軽さで。
とんでもないことをしらっと言ってる、あたり非常識なアートさんらしいのです。
が。
さすがに。
鞘が見つからないという理由だけで英雄の剣とわたしの所持している剣を交換するのは。
いくらなんでも常軌を逸脱し過ぎです。
ふっと、アートが顔を見上げながら。
「なんちゅう、顔してねん」
神妙な顔でどこからどう見ても疑心暗鬼の渦に、ワートは巻き込まれていた。
――ろくなことに、ならないと。
ただ。
このままアートの提案に乗らなくては、ここからの脱出できない。
決断、する、しか、なかった。
わたしは、仕方なく剣を鞘から抜き、鞘をアートさんに渡そうとしたとき、でした。
「剣って言ったろ」
「でも、ウッパニシャッドさんをわたしの鞘に、収めるじゃー、ないんですか?」
小首を傾げ、疑問符混じりにワートが尋ね聞く。
すると。
小首を傾げ、アートは小指で耳をほじりながら。
「だいだい。じぶんの鞘にウパニシャッドに収めたら、今度はその抜いた剣が、抜き身になって、意味ないやろ。首の上についてるのは、お飾りか」
――憤怒!
「ざ、斬新な……剣の渡し方やな……」
「わたしの首の上についてるお飾りは。この渡し方しか、知らないんですよ。アホな娘、なので」
斬新を超えて革新的であり確信的な、剣の渡し方であった。
穴の薄暗いなかでも鈍く光り輝く刃先を渡す相手に向けて、受け取れ、と。ツン、ツン、ツン、と突き出していた。
表情は年相応の女の子が好きな、男の子にプレゼントを渡すときの恥じらいが見受けられた、のだが――目の色は濁っていた。
あかん! めっちゃ怖い、怖すぎるぞ。
さすがに――これは!
クラスに一人、
おとなしゅー、な、性格やけど、怒らすと。平気で狂気の一線を超えてくる、あのタイプなんか――ワートは。
ふざけ過ぎたもた、ど、どないしたらいいんや……。
考えるんや、オレ!
言葉は選びは慎重にしな、あかん。間違っても、いらんこと言ったら、あの妙な微笑み顔で串刺しにされてまう。
天才と呼ばれ、十三英雄、筆頭として数多の激戦を勝利に導いてきた手腕を発揮するときや!
――アート・ブラフ!
ゆっくりと後退しながら、両手を天高く上げながら距離を測る。そしてちょうどいい距離になると両膝を折りたたみながら、美しく無駄のない動作で両手を地面に、それに続くように額を地面に擦りつけて――完成。
必殺技、ど・げ・ざ!
「すみませんでした」
ワートはポカンとほうける。
それも――おもいきり。
如何せん、態度のアップダウンの差が激しすぎに、困惑し、ちょっと間、硬直した。
が!
さすがは、類友。
ふぅん! と一つ大きな鼻息をすると。
両手を握りこぶしにして、両腰に颯爽と当て! 年相応よりも発育した胸を
「仕方ありませんねぇー、許してあげ、ま、しょー。わたしに対しての非礼をアートさん」
地面から額を上げるアートは、ほんの、ほんの、少しだけ口元が緩んでおり。さらーに! 鋭い眼光と視線は獲物を捉えて、離さない。
「はーぁー、はーぁー、ありがとうございます。ワートさまぁー! 立派なVerhevenheidを!」
ふざけ芝居の独特の
ただし。
一振の剣はある単語を聞き逃すことは――しなかった。
「ワートさん。マスターは反省してませんよ、これは。突いて、殺っちゃってください」
「ししょう、褒められてるんじゃないんですか? わたし」
「違います! なにが、フルヘッヘンド、ですか」
「フルヘッヘンドって?」
「うずたかいって意味です」
「うずたかい?」
「ワートさんの発育のいい胸を褒めているだけです」
――――キュピーン!
「ちょ!」
――――グサ!
対魔大戦、十三英雄、筆頭――アート・ブラフ。
ここに眠る。
と、いうことはなく。
突き刺したら、額からぴゅーっと勢いよく血が吹き出しただけでした。
――――残念!
工程、1。
まず、わたしの片手剣を地面に寝かせて置きます。
工程、2。
次にアートさんが、ウパニシャッドさんの刃先で、わたしの片手剣に触れます。
工程、3。
わたしの片手剣が熱を発することなく液体状へ。
工程、4。
ウパニシャッドさんの刃先から液体状になった。わたしの片手剣だったモノを吸い込みます。
工程、5。
あら、不思議。
ウパニシャッドさんの剣の形が、わたしの所持していた片手剣の形になりました。
工程、6。
う、そ~ん。
ウパニシャッドさんが、ふわ、ふわ、と向かってきます。
わたしが、片手剣ことウパニシャッドさん受け取ろうと手を伸ばして、
――――!
すり抜けていきました。
――――う、そ~ん。
思惑が外れ、あれ、と調子抜けした表情をしながらアートが。
「あ~ぁ~。書き換えなしでもいけると思ったけど、やっぱあかん、か」
「私を起動できたので、そのままでもイケると思ったんですけどね」
「あれやろ。死ぬって恐怖心から、生存本能で能力が発揮された状態で。落下した先に、偶然、
「しかし、一時的とはいえ、マスターキーをコピーするとは。素晴らしい才能の持ち主ですね、ワートさん」
「そやな。一二◯◯年前に出会っていれば、捕まえて人体実験したうえに解剖して、生物の組織標本にして、一生、眺めて愉しんでるやろな」
「ぴぃぃぃぃぃーーーーー!!!!!」
珍妙な悲鳴を上げながら、壊れた機械仕掛の人形のようにカクついた動きを繰り返し、繰り返し、していた。
「おもろ」
「マスター! ワートさん、冗談ですから大丈夫ですよ。マスターも、また、ふざけたこと言って。そんなこと言ってるから冥王に気に入られて、次期魔王候補に推薦されるんですよ」
最後のダメ押しは、ウパニシャッド。
「ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
ほとんど、超音波に近い悲鳴を上げながら、壊れた機械仕掛の人形のようにカクついた動きを繰り返し、繰り返し、していた。
ワートは――完全停止した。
「器用なんか? 不器用なんか? わからん
「たしかに、立ったまま気絶してますね。私、初めて見ました」
「おれも、や」
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