第十話
「んぐ――」
薄暗いなかでも輝きを失わない蒼い瞳の少女から、一筋の涙が流れる。
「ちょっと、辛抱せい」
手が触れられ少女の白い脚が高く上がり、年齢に比例した張りのある
「ンあ~ッ」
両手で押さえている口から押さえきれずに出る喘ぎ声にと一緒に、
「ぐっ、イッ」
痛み、恥じらい、
少女は仰向けになりながら自分の意思を無視して、過剰に反応する肢体を必死に抑え込む。
美しい顔が酷く歪み、神に慈悲を求めるが。
――無慈悲。
「んあぁッ!」
少女の可憐な唇を押し上げてしまう激痛と鈍痛が、拘束されたように身動きできない肉体に襲い掛かる。
そのうえに、熱を帯び始めた肉体は血管が鮮やかに浮き上がり、しっとりと湿る肌。
悶え苦しみ真っ赤な厚めの唇から絶え間なく鳴く声が、
それは飢えた少年の食欲を満たし悦びへと変える。
しかし、満たされたはずの少年の飢えは、すぐに空腹になってしまった。
原因は――少女。
「ぃぃっ!」
悲痛な少女の姿。
その姿は少年にとって、甘露でしかなかった。
さっき食べたのは、オードブル。これからが――メインディッシュ。
貪欲な少年は、さっきよりもより多く、少女の悲痛を食したい。そのためには、より強く
少女の脂汗が潤滑油になり、
摩擦係数が下がったことにより、少年の触れている手の速度が増していく。固く閉じた口が勝手に開き、身は
濡れた肌に濡れた髪が貼りつき、少女の屈辱と恥辱が混じった妖美な表情。
その表情が少年を興奮させた。
「ひゃめ! ひーィッ! やぁ――」
とめどなく流れ出る大量の汗が濃厚にして
全身の細胞、一つ、一つ、が活性化し、血湧き肉躍るり始め。少年の
「ちょっと強くするでぇー!」
「う、みゃー!」
少女を
上気したことにより肉体がほんのり桜色なり、小刻みに震わせている少女に対して最後の恥辱の言葉を投げかける。
「どうや! 足の痺れがどれだけ痛いか、分かったか!」
子どもが大人に、自分の力を誇示するときによくするポージングの一つでもある。"えっへん! "と、小さな両手を握りこぶしにして、小柄な両腰に当て、幼い身体を
一方。
少女は必死に両手で顔を押さえ
「うぅぅ」
情けない
これほど、足の痺れが痛いとは想像以上だった。あのとき、十三英雄、筆頭であるアートが触れるたびに面白いように、のたうち回って痛がっていた意味を痛感する。
――ワートだった。
「ワートさん、びっくりしましたよ! 地面に横倒しになりながら、生まれたての子鹿のように震え、両足を両手で抱え込むように押さえながら。泣き笑いという役者でも、難しい演技をしながら。変な声を出しているんですから」
気が抜け浮遊することを放棄した一本の剣が、地面に突き刺されりながら心配を通り越して呆れた声で、身体を丸めている少女ことワートに追い打ちの言葉を投げかけた。
「うぅぅぅぅ」
ウパニシャッドの情け容赦のない追い打ちに情けない
地面に刺さっていた剣は、重力を無視し浮遊すると。
「腐っても鯛ですね」
「まぁな! じぶんとバトっとる最中に、急にコロンってワートのヤツが横に倒れ込んで、両足を必死に押さえとったからな。あ! 足、痺れよった。おっしゃー! 仕返ししたれって思ってな」
皮肉交じりの問いに対して、アートは頭を掻きながらにんまりと笑っていた。
「はぁ~。相変わらず、目ざといことで」
「それは褒め言葉やな。だいたい、ワート。なんで、正座しとってん?」
ちんまり身体を縮こませていたワートは視線をそらしながら。
「それはですね。瓦礫の山を崩したことに対する、私なりの反省として、自発的に正座するのことが。お二人できる一番の謝罪方法だと思って、です」
クスっと上品な女性の笑い声、
と、
ぁー、という人を小馬鹿にした少年の溜め息。
「アホの娘やと思ってたけど、正真正銘のアホの娘やったとは。だいたいな、反省する相手に、最終的に迷惑かけとったら、本末転倒やで。っていうか、
「うぅぅぅぅぅぅ」
「でも、どうして? ワートさん。正座なんです」
「アートさんの正座しているの姿を見ていたら。これをすれば大概のことは許してもらえるでは、と…………」
「安直なやっちゃなぁー」
「なるほど。ワートさんの仰ることも、一律あるかと。マスター」
「はぁー? なんで、や」
「だって、マスターの一連の行動を見ていたら。そう思われても仕方ないかと」
「…………。俺、遠回しに
「日頃の行いのツケが、利子と一緒に返ってきたのでは、ないかと」
「えらい、高利貸に金、借りたみたいやな」
「ふふふ、早く元金を返さないと怖いかたが取り立てに来ますよ。マスター」
よく理解できない。
英雄に助けられた少女と元英雄の少年と伝説の剣によるマニアックなコントが、いま、一応終了した。
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