第七話
「とりあえず。診察代は
やっと! ここから脱出できます! 自分で脱出するのが、冒険者としては当然のことですが、わたしには無理です。
アートさんに会っていなかったら、わたし、ここで餓死してましたね。
……、……。
ミノタウロスに真っ二つにされてる、ほうが、さきの間違いでした。
脱出できると喜んでいた、わたし。
――でしたが。
なんでも、いきなり激しい運動すると身体を痛めるからだそうです。
……、……。(え!? いまさら……、で・す・か……)
ウパニシャッドさんも小声で、「あれだけ暴れて、いまさら、準備運動しても……」と。ツッコんでました。
師匠もわたしと同意でした。
しかしながら、アートさんの性格は、真面目なのか不真面目なのか? どちらが本当の性格なのでしょうか?
とっても、気になりました。
「
わたしの心のなかの声が、漏れていたのでしょうか!? 慌てて口を両手で塞ぎました。
「ワートさん、顔に出てましたよ。マスターってどんな性格なのかな? って疑問が」
ワートはウパニシャッドから感情が、顔に出ているとしていると指摘されると。慌てて顔を両手で覆い隠しながら、しゃがみ込むんだ。
自分が見えていないモノは、相手も見ていないと、思い込んでいる小さな子どものように。
そのころ……。
ガールズトークの主役であるアートは、我関せずに、一生懸命に準備運動を続けていた。
かしまし
いま、アートを
サイズの合っていない衣服が準備運動を
真面目な性格の五分の部分が、いま、まことに全力で発揮されている
ウパニシャッドが言っていた。"九割五分"、"不真面目"で、"五分"、"真面目"な性格は、アート・ブラフという人物の"本質"的な性格を"的確"に表現していた。
――子ども。
自分が"興味"を持った! "こと"、しか、"しない"。
他人が無駄と思っていることでも、真剣に取り組み。逆に、他人が必要としていることでも。自分が興味を持たなければ、無駄とばかりに、放棄する。
――快楽主義者とも言える。
その証拠に、一心不乱にアートは、楽しそうに準備運動をしていた。
そして、徐々に熱がこもった準備運動に変化してきていた。ランナーズ・ハイ、ならぬ、ウォーミングアップ・ハイになっていた。
いち、に、さん、しー! ごー、ろく、なな、はちぃー! と元気な大きなかけ声を出しながら、夢中に準備運動をしていた。
「ほほえまぁ~」
口元を緩んだワートは、じーっと眺めていた、可愛らいい生き物を。
しゃがみ込んだ姿勢のままな、顔を隠していた両手の両肘を両膝に乗せながら、両手の手首の内側同士を合わせ開いた花の形にし、その上に器用に自分の顎を乗せ、観賞体勢を
ずーっと見ていても飽きない。その
ひとつ、ひとつ、が実にかわゆい。
適当にそれをしているのではなく、真剣にしているからこそ、よいのだ。サイズの合っていない衣服がズレたら、直す仕草とちょっと見せる
ひとつ、ひとつ、の動作に意味があり、それがより、一層と可愛気となっていた。
「満足したか?」
ワートは、アートの頭を撫でていた。
艶のある黒い髪、子ども特有の柔らかい感触を楽しみ、ツリ目が特徴的で威圧感を出していても、幼い子どもの顔立ちを見つめながら。
しかし。
アートの頭を撫でているワートの瞳には、輝きがなかった。
――虚空。
「……、……」
アートは返事することなく、無言のまま、頭を撫で続けた。
ゆっくりと両手を大きく開けるだけ開くと、優しく、アートは小さな身体でワートを自分に引き寄せるように抱きしめる。
虚空だった、ワートの瞳に緩やかに光の輝きを取り戻していく。
「ぅま! あーとにゃん! い、いつ! わ、たしに、だ、だきついて! きたんですきゃー!」
輝きを取り戻した青い瞳をまんまるに開きながら、なりふりかまわずに、浮かんでくる単語を無理やり言葉にしていく。
おっちょこちょいが、テンパれば、この言動になるのは至極当然の結果だった。動揺から弾むアップテンポのために、噛みまくっていたが。
二人には十分過ぎるほどに、言いたいことが、理解できていた。
「
もの柔らか口調でウパニシャッドが。どうして、この状況になったのかを伝えた。
「き、りつ……」
パチ、パチ、と大きく開いた青い瞳を閉じ開きをした。ワートは、キョトんとした表情をした。
「立ちくらみのことですよ」
「立ちくらみ!?」
ワートのリアクションから起立性低血圧症が理解できたと判断したウパニシャッドは、詳細に経緯を話した。
「そうです、立ちくらみです。ワートさん、しゃがみ込んだ状態から急に立ち上がったから、脳に送られる血液量が減り、一時的に酸素不足になったってしまい。倒れそうになったところを。マスターが、抱きしめるかたちで受け止めたんですよ」
「す、すみません。な、なんども、な、何度も、ご迷惑をおかけして」
ワートの胸部をグィっと頭頂部で、押し上げ。
「気にするな」
と、返事をした。アートは、満面の笑みを浮かべていた。
わたしの視線の先に黒いふんわりとした髪が、チョロ、チョロ、動きます。ついでに、黒いふんわりとした髪の動きに連動するように、わたしの胸も上下に動いています。
――反省がない。
ウパニシャッドさんと言っていたことは、真実でした。このひとには、"ない"ようです。ほんとうに、"反省"という"二文字"がです。
……、……。
わたしは、いま、"セクハラ"と呼ばれることをされています。
セクハラというのは
……、……。
わたし、よく分からない無駄な知識が、増えていっている気がしてきます。
セクハラには、大きく二つに分けることができるそうです。
<
――<対価>、は。
自分の地位や役職などを利用して、相手に不利益を与えてくるタイプのセクハラだそうです。
――<環境>、は。
状況によって、この三種に分かれるそうです。<
なぜに? わたしが、このセクハラに関して詳しいのか。
アートさんが、足が痺れて倒れて動けなくなったところを痺れた足に攻撃しているときに。わたしが、アートさんが言っていた、"セクハラ"とはなんですか? と尋ねたら。
――ウパニシャッドさんが、いえ、師匠がです!
いま、わたしが、受けているセクハラは。
<環境>の<身体接触>になります。
実際、このぐらいの年齢なら、普通に抱きついてきても、カワイイと感じてるはずなの……ですが……。
見た目と中身が完全に不一致ですし、見た目が幼いという
その堂々とした手段と反比例する
よく、よく、考えれば、<対価>も入っていますね。助けたという立ち場を利用していますし。
この悪ガキ。
――では、実行します!
師匠からセクハラの対処方法を教わっています、わたし。
セクハラの証拠などを資料として
でも、この世界では、この手法は通用しないで、"
――鉄拳制裁発動!
「……、……。ちょっと、いいですか!」
「気にするな」
「気にします!」
――ゴン!
ワートが意識を取り戻したあと――。
――アートは、彼女の年齢よりも、たわわなに実った果実を頭頂部で触れ。その感触を味わっていた。
それが、自業自得という結果を招いた。
「お嫁にいけない、わたし……」
大きなため息と。ワートの本音が、ダダ漏れになっている
頭頂部にワートの
『本人の特異体質とは別の問題を心のなかに、抱え込んどるな。あの
『そのようですね』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます