第四話
ワートがおいてけぼりにされていることに気がつき。自分が存在しますよ! と、意を決してジェスチャーした。
――あと。
「ここは、魔王城です」
「魔王城ねぇー」「魔王城ですかぁー」
おや!? 少年もウパニシャッドさんも口調が……。
「すみませんが。いまは、何年なのでしょう?」
あれ、あれ!? 少年の口調が……、普通……。さらに、丁寧語で質問をしてきましよ。後頭部への強烈な刺激が、ショック療法的な役割を果たし、常識人に変身しのでしょうか? これで、ひとまずは、安堵です。
ですが、心のなかでは、ぽつりとですが。少年の個性が大きく、薄れていく気がしました。
「え~と。いまは、
「「……、……」」
悟ったのか。すっかり
聞きたくはありませんでしたけど。狭い空間では、耳に入ってきます。
――ごめんなさい!
興味があって、聞き耳を立てました。
だって、わたしは、冒険者だからです。冒険者が好奇心を失ったら、お終いです。
「七四三年かぁー。それは、さすがに、ボケる」
「ボケますねぇー。マスター、私が話せること、忘れてましたし」
「突発的な行動はダメだな、やっぱり。行動するときは、ちゃんと前もって、計画を立てないとダメだな。反省した」
「そうですよ、反省してください」
二人の会話の内容は、違和感の塊でした。わたしは、ぷるぷると震えている右手が勝手、に挙手しました。
わたしの――あほ!
――好奇心は猫も殺す、です。
「なんですか? ワートさん」
挙手に気がついたウパニシャッドさんが、
「ワートさん……、なにか? を決意されてみたいですけど。質問は、いいのですか?」
そう、わたしは、握力のかぎりを尽くした、両握りこぶしを胸の前で構え。グッと決意のポーズをとってたのです。わたしが目指すべき大人の女性は、ウパニシャッドさんなのだと!
――無意識で……。
「す、すみません! ウパニシャッドさんの声があまりにも、その~」
わたしは、またも、噛みながら話します。すると、短く
「可愛らしいお嬢さんに、
大人の女性の余裕なのでしょう。うろたえる、わたしに
はい! 自分を見失っていますね、わたし。
でも、ここが勝負どころです!
「ち、ちがぃましゅ!」
――無理でした。
わたしは師匠のような、大人の女性の対応は、できませんでした。
「私たちのことが、気になるでしょ」
尋ねたかった質問をウパニシャッドさんに、言い当てられました。さすがです! 師匠!
「歴史はお好きですか?」
「歴史ですか?」
「歴史です」
「それなりに有名な歴史的な出来事、程度なら……」
「約七〇〇年前の出来事ですし、問題ないでしょう。対魔大戦は、ご存知ですか?」
「……、……!? あの! 対魔大戦ですか! 一二〇〇年前に起きた!」
「「ふへぇ!? 一二〇〇年前……、七四三年前じゃなくて……」」
ハモった! 少年とウパニシャッドさん。
お父さま、お母さま、弟くん。急転直下です!
わたしの命を助けてくれた人物は、対魔大戦の英雄さんの一人でした。
名前は、アート・ブラフさんです。対魔大戦時に活躍し、魔王を倒した。十三英雄の一人だそうです。
あれ? わたしが本や人伝いで得た知識では。英雄は……、十二人だったような……。それに……、アート・ブラフという名は、一度も、見たり聞いたりしたことがないような……。
一二〇〇年前の出来事ですし。歴史的な資料は大半が消失し、残っている資料も断片的で、不確かな情報になってしまっていても、しょうがありません。
頭のなかで、そんなことを考えている真っ最中でした。
「すみません、ワートさん。あなたが知っている対魔大戦以後の歴史を教えていただけませんか」
スッと。なんの違和感なく、言葉が耳に。
「はい」
自然と返事をしてしまいました。わたしは、アートさんの顔を見ました。
――顔つきが!
同一人物なのか? と自分自身の視覚が、誤認識してしまっています。
わたしの唇を奪いながら、悪びれもしない、悪ガキ。それを一瞬にして、
不気味なぐらいの落ち着きよう、それなのに、反比例するように好奇心を宿した瞳の輝き。
その雰囲気は、英雄よりも……。
――探究者!
わたしは、アート・ブラフという少年が、対魔大戦時の英雄であることを確信しました。それと同時に、彼が歴史に記されることがなかった
「わかりました。わたしが知っている歴史をお話します」
いつの間にか、彼の雰囲気に引きずり込まれ。そこには、冷静な、わたしが、居ました。
わたしが知っているかぎりの歴史を話しました。
まず最初に、対魔大戦が終戦した年が、
アートさんが、「俺が死んだ年だな」と。顎に手を当てながら呟いていましたが、聞かなかったことにしました。
ぽっと浮かんできたのですよ。いま、聞こえた呟きは無視したほうがよいと、頭のなかのもう一人のわたしが語りかけてきたからです。
そのまま話を続けました。
対魔大戦が終戦し、復興が開始しされると。十二英雄を称えるという意味を込めて、
――
――四五七年で歴史の幕を閉じました。
四五七年間で、第一次、第二次、第三次と、民族対立戦争が三度も起きたことにより、対魔大戦時よりも文明が衰退したと話している途中でした。
不機嫌そうな顔をしながら、「たちが悪いな、子孫なだけに……」と。ため息まじりに、口から漏れ出でた言葉が、すごく印象に残りました。
「そして、
「なるほど~ねぇ~。四五七に七四三で、一二〇〇……」
ぅ、うん? みょう~に、アートさんの口調が明るくなっていることが、気になります。それに、なにやら? 嬉しそうに頭を上下に振っています。
「なぁ~、なぁ~。さすがに、一二〇〇年前なら時効だよな」
「さぁ~。私、法律の専門家ではないので、分かりません。それに、マスターの行為が人が創り出した法律レベルで裁くことができるのか? 不明なので、なんとも言えません。と、しか、言えませんね」
わたし、つい最近ですが。こんな場面を見たことあります。
そうです! これが噂の
――現実逃避中です。
だって、わたし、いま、ものすごい、視線を感じてるからです。上下左右に自分の両眼球を逃します。
ひょっこり、ひよっこりと。半強制的に、わたしの視野のなかに姿が入ります。
――あ! 視線が合ってしまいました。
「ワート! これから、よろしくお願いしま!」
微笑んでいます! 非常に爽やかに微笑んでいます! 悪ガキが!
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