10.2 ここまで嫌われないと駄目かな

「……じゃあもう最初から裸でいいんじゃないですかね」


 さすがプロのお姉さん。売り上げ第一ではなく、顧客にとってベストの提案をしてくれる。……いや、俺にとってはベストだけどそれはやっぱ駄目じゃないかな。

 

「あはは。ママもおなじこと言ってました」


 小月さんママぐっじょぶ。

 じゃない、娘になんて提案してるんだ。


「小月さん、そんな話するの?」


「うん。好きな人できた、って。で、もし見られちゃうとしたらどんなの着てたらいいかな、って」


 そうなんだ。俺なんて親に言うとかいう選択肢がそもそも存在しないんだけど。女子のほうがそういう話するものなのかな。いや、しないか。小月さん家がそんなかんじなだけなんだろうな。


「真面目に答えてくれなかったけどね。ママは裸、パパは中学の時の体操着まだ着られるのもったいないから着たらって言ってた。どっちもないよねー」


 どっちもありだよ。

 パパめっちゃ分かってるよ。

 

「でも毎朝池辻くんとこ行ってるのは言ってないけどね。心配するだろうし」


「毎朝……」


 さらに凍てつく視線を送ってくる店員さん。これなんか絶対誤解してるな。でも『千穂ちゃん』が小月さんになるとか説明しても伝わると思えないし、まいっか。


「池辻くん、あっちの服も見ていい?」


「いいよ。パジャマは?」


「後でもういっかい。ちょっと気になったのがあるの」


 棚を移動して服を眺める小月さん。


「どういうの?」


「こんなかんじの? 首回りが開いてるけどその、胸元が開かないようなので、可愛いのがいい」


「それでしたら、こちらとかいかがですか?」


 俺への視線は冷たいが小月さんには優しい店員さん。


「かわいいですね!」


 店員さんが出したのは首回りが大きいボーダーのシャツだった。

 制服の上からあてて鏡を見る小月さん。


 首回りの空きは横方向に一直線なかんじで、下にはあまり開いていない。ところどころ布が遊んでいるゆったりしたシルエットになっている。


「それと、少し大人っぽさを意識して選んでもいいと思いますよ」


「……あの、私背も低いし童顔で。七五三みたいになりませんか」


「選択肢から外しちゃったらもったいないですよ。こちらとかいかがですか」


 今度は明るい茶色のワンピース。縦方向のしわがところどころに入った動きやすそうなイメージ。

 

 ……いや、分かってるよ。うまく伝わってないんだろ? 確かに説明下手だけど、しょうがないだろ。男子高校生に女子の服説明しろとか無理がある。


 ただこれどうかな、下短いな。もうデフォルトでパンツ見えちゃうんじゃないかな。足が思いっきり出る。見たいけど。


「縦のラインが綺麗に入るので、胸もすっきりとして見えますよ」


「池辻くんどう?」

 

「すごくいい。けどちょっとセクシーすぎないかな」


 つい小月さんの脚に目がいってしまう。

 小月さんが自分の足下を見て顔を赤くしたところで、店員さんが説明を加える。

 

「……こちらのプリーツスカートとかよく合いますよ。少し丈が長めのものと合わせるのがおすすめです」


 氷のような瞳の店員さん。多分小月さんにおすすめしたわけじゃないな、これ。俺に説明してくれたんだな。下になんか履くんだ。ワンピースじゃないんだ。……わ、分かってたから! で、ですよねー。


 結局パジャマそっちのけで服を選び始める小月さん。


「宜しければ試着できますよ」


「着てみたいです。池辻くんいい?」


「もちろん」


 先ほどの店員さんのおすすめと、小月さんが気になったのを加えて籠にに入れて店の奥のへ。


 ドアの先が試着室になっていて、3つ試着用のブースが並んでいて、カーテンで仕切られている。


「ではごゆっくり」


 小月さんが試着用のブースに入るのを確認して、店員さん俺に向き直って笑顔で捨て台詞。


「私は席を外しますが、人がいないのをいいことにおっぱじめやがったらすぐ通報しますからね?」


 いや、確かに俺はただの付き添いで客じゃないし、こんな美人さんに気に入られるイケメンじゃない自覚はあるんだけど。ここまで嫌われないと駄目かな。

 

 あと、俺の心を勝手に読むのやめてほしい。店員さんが想像しているようなことはありえないけどちょっとくっつくぐらいだったら良くない? だめ?


 まあでも小月さんのプチファッションショーが見られるのは悪くない。のんびり着替えるのを待っていよう。

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